作品タイトル不明
137.反則です
「二枚目は、おまえに食べてもらうのはどうだ?」
「私に?」
陛下の提案に、私は目を瞬かせた。
「そうだ。おまえも夕食はまだだろう? 先に食べるといい」
「良いのですか?」
「一度、料理を食べてもらいたいと思ったんだ」
陛下が食材とフライパンを見ている。
「おまえはよく、料理を人に食べてもらうのは楽しいと言っていた」
陛下がぐー様の姿で会いに来た時のことだ。
銀の毛並みを撫でながら献立を考えたり、料理の感想を私は語っていた。
めんどくさい作業も多い料理だけど、美味しく作れると達成感があるし、人に喜んでもらえるのも嬉しい。
私の料理好きが、陛下にも影響を与えていたようだ。
「料理の心得の無い私でも、具材を選び焼くことはできると思うのだ」
「確かに、入門としてはちょうどいいかもしれませんね」
具材を選ぶのは楽しい。
まずは簡単な作業から、慣れてもらうのも良いはずだった。
「手についたホコリや食べかすが混じらないように、手を洗わさせてもらいますね」
ルシアンがさっと、陛下の手の下へボウルを差し出す。
手洗いは大切だ。
魔術で水を生み出し、陛下に手を綺麗にしてもらう。
「では、先ほどの私のように、具材を選び載せていってくだし。何かわからないことや、聞いておきたいことはありますか?」
「おまえはどんな具材が好みだ?」
「そうですね……私も玉ねぎは好きなので多めに。チーズも今日は多めの気分です」
「わかった。たくさんのせよう」
私のオーダーを受け、陛下が作業を開始した。
料理は初めてとのことだけど、バランスよく具材を並べられている。
「お上手です。次は油とバターを引いて、このフライパンで焼いてください」
「あぁ、貸してくれ」
私の手から、ひょいとフライパンが取られる。
蓋つきで少し重いけど、さすがは鍛えられている陛下。
危なげなくフライパンを構え、私が出した火で、食パンと具材を焼いていった。
調理ミスもなく焦がすことなく完成し、皿にピザトーストがのっけられる。
「いただきます」
両手で持ち口へ運ぶ。
焼き加減はちょうど良さそうだ。
たっぷりととろけるチーズも良いし、記念すべき陛下の初料理だと思うと、より美味しかった。
「満足してもらえたようだな」
あ、笑った。
口角を持ち上げはっきりと、陛下が微笑を浮かべていた。
氷の美貌に、春が訪れ熱が宿ったようだ。
「おまえの言う通り、料理を作るのは楽しいな」
「……はい」
陛下に見とれてしまい、つい返事が遅くなってしまった。
今の微笑は反則だ。
具体的に何が反則かはわからないが、反則なのは間違いなかった。
どきどきとしていると、
「そこ、ついているぞ」
陛下が更なる反則を重ねてきた。
頬に触れる感触。
長く骨ばった指が、私の頬へと伸ばされていた。
「い、いきなり何を⁉」
「指のすぐ横に、チーズの欠片がついている」
「ありがとうございます!」
どぎまぎしながら、素早くチーズを取った。
陛下、心臓に悪いです。
急に距離近くないですか?
もしかしたら陛下の方も、ぐー様の時の距離感が、無意識に出ているのかもしれない。
ぐー様の姿であれば気にならなくても、今の姿でやられると破壊力が高かった。
これはいけない。
もぐもぐとピザトーストの味に集中し咀嚼すると、私は新たな食パンを陛下に差し出した。
ピザ生地に比べ食パンは軽めで食べやすい。
陛下は合計3枚のピザトーストを焼いて食べ、満腹されたようだ。
「美味かった。具材を変えて、味に幅を出せるのも良いな」
「良かったです。陛下ならきっと、気に入ってもらえると思いました。ぐー様の姿の時、美味しそうにピザを食べていましたものね」
ぐー様に好評だった料理と、陛下が美味しいと言ってくれた料理。
二つを満たす料理は何かないかな、と考えて、ピザトーストを思いついたのだ。
陛下はぐー様でもあるのだと、食の好みの面からも実感できた。
「陛下はご多忙ですものね。ピザを生地から作るのは時間がかかりますが、ピザトーストなら具材さえ揃っていたら、手早く作っちゃうことができます。今回、食パンを多めに持ってきたので、明日以降も小腹が空いた時に、厨房で作ってもらうと良いですよ」
「私のことを、考えて選んでくれた料理なのだな」
陛下はそう言うと、また。
反則な微笑を浮かべられたのだった。