作品タイトル不明
138.ぴよちゃんは食いしん坊です
ピザトーストを食べ終えた後、いくらか陛下とお話をし、私はお暇することになった。
離宮へと戻ると、グリフォンのフォンが出迎えてくれる。
「きゅあっ!」
「フォン、ただいま」
月明りに、大きなフォンの影が落ちている。
私を主と認めるフォンは、忠犬のように懐いてくれていた。
鳥目なのか夜はあまり視界が利いていないようで、空を飛ぶのではなく、四本の足で歩き近づいてくる。
「ぴぴゅい……」
「よーしよしよし。夜なのに出迎えご苦労様。今日もありがとうね」
首元の白い毛を、わしゃわしゃと撫でてやった。
こまめにブラッシングをしているおかげで毛並みは滑らか。
月の光に、仄かに滑らかな光沢を帯びていた。
ひとしきり撫でてあげると、フォンは満足して寝床へ戻っていく。
フォン専用に作られた、木で組み上げられた小屋だ。
開け放たれた入り口から入ると、わらの上へと座り込む。
手足を折りたたみちょこんと寝床におさまる姿が、遠目にも愛らしかった。
そして前庭を抜け離宮の建物へと入ると、今度はぴよちゃんがやってくる。
「ぴよっぴ!」
魔力補給させてくださーい、とばかりに。
近寄ってくるぴよちゃんを、私はやんわりと押しとどめた。
「ぴよちゃん、着替えてくるからちょっと待っていてね」
今着ているドレスは、陛下の前に参上するための、飾りの多い華やかで上等なドレスだった。
魔力を求めるぴよちゃんにくるまれたら、装飾に羽毛が引っかかってしまうかもしれない。
「わわっ!」
しかしぴよちゃんはお構いなしに、ぐいぐいと近づいてくる。
魔力が大好物のぴよちゃんは、かなりの食いしん坊なのだ。
しばらく押しとどめていると、しゅんとした顔をしてしまった。
小さく鳴き一歩引きさがると、きょろきょろと周りを見回している。
「ぴっ!」
「にゃっ?」
廊下を歩くいっちゃんへと近づくぴよちゃん。
ぴぃぴぃぴよぴよと、いっちゃんへ話しかけている。
「なぅ。ななぅにゃ」
いっちゃんの方も、なにやら相槌を打っているようだ。
猫語とひよこ語。
互いに意味は通じているのだろうか?
わからないけど、身振り手振りも交え会話は成立しているようだ。
「ぴきゅっ!」
しゃがみこんだぴよちゃんの、クリームイエローの羽毛がいっちゃんを包み込んだ。
いっちゃんもまんざらではないようで、ライトグリーンの瞳を細めふわふわの羽毛を堪能している。
微笑ましい二匹の交流を横目に見ながら、私は着替えへと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
服を着替え、ぴよちゃんにくるまれた私は、厨房で軽く調理を行っていた。
陛下に今日食べていたのと同じ食パンを用意する。
パンに生クリームと苺ジャムを塗って、くるくると端っこから巻いていく。
できあがった苺ジャムのロールサンドイッチを、いっちゃんへと持っていった。
「にゃにゃっ!」
目を輝かせたいっちゃんが、ロールサンドを両手で持ちくわえている。
もぐもぐと頬っぺたを動かしながら、至福の表情で食べ進めていた。
「うにゃうにゃ……」
食べ終えると、いっちゃんの目がとろんとしてくる。
うつらうつらと、船を漕ぎだしているようだ。
「ふふ、今日も庭師猫たちとたくさん動き回って疲れたのかしら?」
今、離宮には、いっちゃんを入れて四十八匹の庭師猫が住み着いている。
少し前、王家の薔薇園の修復作業をきっかけに、続々と庭師猫たちがやってきたのだ。
この離宮に一番最初から住んでいたいっちゃんは、他の庭師猫たちから頼りにされることも多いらしかった。
「この猫は、意外と面倒見が良いですからね」
ルシアンがいっちゃんを抱き上げた。
いっちゃんへの辛辣な発言が多いルシアンだけど、なんだかんだ可愛がっている。
猫のかわいさは偉大だもんね。
いっちゃんの方もルシアンをそれなりに信頼していて、抱き上げても逃げ出すことはない。
手を伸ばし頭を撫でると、いっちゃんが喉を鳴らした。
もふもふ、ごろごろ、もふもふ。
かわいいなぁ。
喉を鳴らすいっちゃんは、いつまでも撫でていられそうだ。
猫のごろごろ音は人間の健康にいい。
前世で聞いたその学説は、きっと本当なんだと思えた。
目を細めうっとりと撫でていると、やがで少しずつ喉の音が小さくなっていく。
「おやすみなさい、いっちゃん」
眸を閉じ、夢の世界へと旅立ったいっちゃんからは。
朝と同じようにふわり、と。
苺の香りが漂っていたのだった。