作品タイトル不明
131.余裕があるのはよいことです
「――――レティーシア様、レレナを寝室に運んでおきました」
「ありがとう。ご苦労様ねルシアン」
トマト煮込みを食べたレレナは、またもや泣いてしまっていた。
懐かしい味を口にし、張りつめていた糸が切れてしまったようだ。
泣き疲れ寝落ちしたレレナだったけど、寝顔は穏やかな気がした。
思いっきり泣いたことで感情を発散できたのかも……と考えながら、見るともなしに窓の外を眺めた。
夏の日差しの中、木陰で休むもふもふ達。
ぴよちゃんがぺったりと、顔を伏せ眠り込んでいる。
柔らかな羽毛にはいっちゃんと、少し離れてメランが体を埋め眠っているようだ。
「いっちゃん達は暑くないのかしら?」
しばらく見ていたが、いっちゃんに動く気配はなかった。
暑さより、ぴよちゃんの羽毛の心地よさが勝ったのかもしれない。
仲良しでかわいいなぁ。
もふもふ達の寝姿に、頬が緩んでしまった。
初対面の時は、最悪の仲だったいっちゃんとメランだったけど。
今は寄り添うとまではいかずとも、互いに快適な距離感ですごせているようだった。
「一緒に過ごすうちに、関係は変わっていくものね……」
私の脳裏に陛下と、そしてぐー様の姿が思い浮かんだ。
ぐー様の秘密を知って以来、私も陛下もやるべきことがたくさんあり、ぐー様の件についてじっくりお話を聞かせていただく時間が無かった。
陛下は今もなお、事件の後始末や調整、様々な公務がありお忙しいようだ。
ぐー様の件の話し合いは、もう少しだけ待たないといけないけれど……。
「いざ陛下と顔を合わせたら、視線をそらしてしまいそう……」
気まずい。
かなり気まずかった。
薔薇の集い当日は周りにたくさん人がいたし、「お飾りの王妃」としての役割を全うすることで、気まずさ恥ずかしさをやりすごすことができた。
しかし陛下と二人での話し合いでは、どうなるかわからないのが本音だ。
怖いような、でも待ち遠しいような。
そんな気持ちで、私は陛下とのお話の日を待っていたのだった。
◇ ◇ ◇
その後二十日ほどが、陛下とまともに顔を合わせることなくすぎていった。
陛下は多忙なようだし、私の方も庭師猫たちの面倒を見たり、離宮にお茶会にやってくる令嬢たちに応待したりと、それなりに忙しく過ごしている。
「レティーシア様、明日の夕飯はどうなさいますか? 今日の買い出し前までに決めて欲しいと、ジルバートさんが言っていました」
廊下を歩いていると、レレナが厨房からの伝言を携えやってきた。
「そうね、明日は――――んん? その髪形かわいいわね」
いつもと違い、二つ結びにした髪の結び目にぐるりと、編み込みが巻きつけられていた。
編み込みがリボンのように見える、おしゃれで可愛らしい髪形だ。
「えへへ、ありがとうございます」
嬉しそうにレレナがはにかんでいる。
猫耳がぴこぴこと動き、尻尾も上機嫌に揺れていた。
「今日は朝少し時間があったので、髪型を工夫してみたんです」
「よく似合ってるわ。髪をいじるのが上手なのね」
「上手くできてて良かったです。髪をいじるの、昔から好きなんです」
髪形にこだわることができるくらい、気持ちに余裕ができたようだ。
2回目のトマト煮込みを食べた日、感情を吐き出し楽になったおかげか。
レレナの雰囲気は明るくなり、以前よりのびやかに暮らせているようで嬉しかった。
「レティーシア様、お笑いになってどうしたのですか?」
「ふふ、なんでもないわ。……そうね、明日の夕飯だけど……」
少し考える。
するとたちまち、眉間に皺が寄りそうになってしまう。
明日の夕方、私は陛下のおわす本城に、招待を受けているからだ。
どんな顔をして陛下と会えばよいのか、今から悩ましいところなのだった。