作品タイトル不明
132.いい性格をしているようです
明日の夕方。
ついに私は、陛下と二人でお話をすることになる。
今までの訪問のように、私の作った料理を手土産に持っていくつもりだけど……。
神経が図太い方の自覚がある私でも、食事を楽しむ余裕があるか自信がないのだった。
「レティーシア様、どうなさったのですか?」
私が思い悩む気配を察知したのか、レレナが心配そうにしている。
表情には出さないようにしていたけど、レレナは聡い子だった。
「少し考えていたの。明日の訪問時に、陛下にどの料理をお持ちしようかってね」
「レティーシア様でも悩まれるんですね」
「悩むわ。どんな料理を選ぶべきか迷うもの」
会話の邪魔にならないよう量は少な目で、さっぱりとした料理がいいだろうか?
けどそれだけだと、満腹感がなく陛下には物足りないかもしれないし……。
悩みどころだった。
「陛下にお持ちするお料理でしたら……。レティーシア様の作られる料理なら、どれも美味しいので嬉しいと思います」
「陛下にもそう思っていただけたら嬉しいのだけど……。そうね」
言っている途中で気が付いた。
そうだ。
色々と気になることはあるけど、一番大切なのは美味しく食べてもらうことだ。
もし、私と陛下の関係が変わってしまうのだとしても。
陛下に美味しい料理を食べていただきたいという、私の気持ちは変わらないはずだ。
「レレナ、ありがとう。おかげで料理が決まりそうよ。明日の夕飯は陛下と食べてくるから、離宮では用意してもらわなくても大丈夫だと、ジルバートさんによろしくね」
「はい! 承知いたしました」
レレナの返事を聞きながら、私は明日の夕食に思いを馳せたのだった。
◇ ◇ ◇
あけて翌日。
日が暮れる頃、本城から出迎えの馬車がやってきた。
「こんばんは、レティーシア様。本日は私が、お迎えにまいらせていただきました」
陛下の側近であるメルヴィンさんだ。
優雅なエスコートに導かれ、私はルシアンと共に馬車へと乗り込んだ。
「お迎えありがとうございます。珍しいですね。メルヴィンさんがこちらまで迎えにきてくださるの、初めてですわよね?」
「えぇ、初めてになります。今日は少し、お話したいことがありまして」
走り出した馬車は、盗み聞きのされない密室になっている。
他人には聞かれたくない、私に話したいことがあるらしい。
「どのようなお話でしょうか?」
「ちょっとしたご確認です。レティーシア様は今日、ぐー様について陛下とお話されるつもりですか?」
この場でわざわざ、ぐー様のことを口に上らせたということは、
「メルヴィン様も、ぐー様と陛下の秘密をご存じなのですね?」
「さようにございます。驚かれましたか?」
「……いえ、納得いたしました。陛下のお傍にも誰か。秘密を共有し協力する人間がいなければ、今頃騒ぎになっていたでしょうから」
思えばメルヴィン様は、ぐー様に妙に含むところがある態度だった。
私が、『ぐー様、少し意地悪なところもあるけど、優しく可愛らしい子ですね』と言った時、メルヴィン様はぐー様を見ながら、『……可愛らしい……』と笑いをこらえるような表情をしていた。
ぐー様の正体を知ったのはつい最近だけど、気づかないだけでヒントは転がっていたのだ。
「メルヴィン様は最初からぐー様の正体を知っていて、私たちのことを見守っていたんですよね?」
「お二方の微笑ましいやり取りを、楽しく見守らせていただきました」
「メルヴィン様……」
食えない人だと思っていたけど、やはりなかなかにいい性格をしているようだ。
「おや、呆れられてしまいましたか?」
「味方である分には、頼りになるお方だと思っただけです」
「光栄なお言葉です。私もレティーシア様のことを、頼りがいのあるお方だと思っております」
この流れで頼りがいがあると言われても、言葉通り受け取っていいか悩むところだ。
それとなくメルヴィン様の様子をうかがっていると、にっこりと笑みを向けられた。
「私が、レティーシア様の存在を歓迎しているのは本心ですよ。レティーシア様は陛下の秘密を知ってなお、拒絶することはなかったでしょう?」
「陛下が秘密を明かしてくださったのは、私を助けようとしてくれたからです。感謝こそすれ、拒絶などいたしませんわ」
衝撃は受けたし、走馬灯が駆け巡り醜態は晒してしまったわけだけど。
陛下を拒絶したり、嫌うような理由はどこにも見あたらなかった。
「ふふ、だからこそありがたいのですよ。人間が狼に変じるなんて、普通はとても受け入れられない出来事です。レティーシア様はさすが、器が大きくていらっしゃいます」
「ありがとうございます」
賛辞を受けたので、素直に笑みを浮かべておく。
……この世界では、人間が狼や獣に変じるのが本来ありえないことなのだとしても。
私は前世で触れた漫画や小説のおかげで、人間が獣に変化するという話にも馴染みがあった。
陛下の正体を知った時も、おかげで比較的早く冷静になれたわけで、漫画や小説さまさまなのだった。