軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128.薔薇の集いにて

「……庭師猫って、すごい生き物なんですね」

美しく蘇った薔薇を見て呟くと、近くにいた白い庭師猫がえっへんと胸を張っていた。

自分たちの働きを、誇らしく思っているようだ。

「見事な庭師っぷりだ。さすが、庭師猫と呼ばれるだけあるようだな」

陛下も感心しているようだ。

紫の薔薇に手を添え、花弁の様子を観察している。

「今年の薔薇の仕上がりは上々だったが……。同じかそれ以上に、美しく咲いているようだ」

「これなら、今年の薔薇の集いも開けそうですか?」

「そうだな……」

薔薇園を見渡し、陛下は考えているようだ。

「……少し花の数が足りないな。一輪一輪が立派で存在感があるおかげか見栄えは問題ないが、招待客に土産として渡す花束用の薔薇を摘むほどの余裕が、無さそうに見えるのが気がかりだ」

「お土産用の薔薇……」

確かに、お土産が無くては不完全だった。

薔薇の花一輪さえ用意できないのかと、侮られてしまうはずだ。

「他の薔薇園から、お土産用の薔薇だけもらうのは駄目でしょうか?」

「難しいな。王都ではこの薔薇園でしか咲かない品種を中心に、毎年花束を作っている。ありあわせの花束では、薔薇好きの貴婦人の目を誤魔化せないはずだ」

「そうでしたの……」

「かつては生の花ではなく、薔薇の意匠を用いた品を渡した年もあったが、今からではそれも難しそうだ」

薔薇の集いは、三日後に迫ってきている。

今から招待客の人数分、上質な品物を手配するのは厳しいようだ。

「…………あ」

一つだけ、間に合うかもしれない心当たりがあった。

前例にない品物だけど、上手くいけば人数分用意できそうだ。

「陛下、土産の品物について私に提案がございます――――」

◇ ◇ ◇

――――それから二日間。

目の回るような忙しさだったが、どうにか薔薇の集いに間に合わせることに成功した。

薔薇の集い当日、私は陛下と共に、薔薇園で招待客たちを出迎えていた。

「とても綺麗な薔薇ですわね」

華やいだケイト様の声が聞こえてくる。

仲の良い令嬢たちと一緒に、薔薇を見て回っているようだ。

「美しいですわね。今年の薔薇は一等、色鮮やかな気がしますわ」

「わかります。香りもとても素敵ですわ」

「こんなに見事な薔薇を見たの、私初めてじゃないかしら?」

令嬢たちが、薔薇を前に賑わっている。

隣の陛下と二人、招待客の様子を観察する。

聞こえてくる感想はおおむね、好意的なものが多かった。

ほんの数日前、この薔薇園が無残に荒らされていたとは、招待客たちは気づいていないようだ。

「いっちゃんたち庭師猫には、感謝してもし足りませんね」

「同感だ――――っと、そこを動くな」

「えっ?」

ぐい、と。

肩に陛下の手がかかった。

体が引き寄せられ、美しい顔が迫ってくる。

「陛下……?」

「蜂だ」

蜂の針から庇ってくれたようだ。

「ありがとうございま……」

お礼の言葉が途切れてしまった。

陛下の翠の瞳が近くて、ぐー様と同じ色をしていて。

思わず体が硬直してしまった。

「どうした? まさかもう、どこか刺されているのか?」

「い、いえ、違います。ありがとうございました」

どきまぎとする鼓動を宥めながら、陛下からそっと体を離した。

……できるだけ、意識しないようにしているけれど。

ぐー様と陛下が同じ存在であるということ。

そしてぐー様の姿の時の陛下に、色々とアレな私の姿を見せてしまったということ。

それらの事実を思い出すと、心臓にとても悪いのだった。

「どうした? おまえ、少し様子がおかしいぞ?」

陛下は目ざとかった。

こちらの様子を確認しようと、再び距離を詰めてきた。

「本当に何でもありませんわ。誤解されてもいけませんし、離れた方がよろしいと思います」

「……そうしよう」

陛下の体温が遠ざかっていった。

少し寂しいけど、これが相応しい距離感だ。

料理を通して陛下と交流を深め、ぐー様の秘密を知ったとしても。

私が期間限定の、お飾りの王妃であることは変わりなかった。

公の場で陛下と親しくしすぎるのは、望まれない立ち位置なのだ。

「……あ、陛下、見てください。リディウスさんも来たみたいです」

色鮮やかな人々の中に一人、黒衣を着て参加しているようだ。

目立っているが、あれは魔術局の制服でフォーマルな装いだった。

……誘拐犯であるベレアスさんを、庇おうとしたリディウスさん。

しかし同時に彼の動きのおかげで、レレナの誘拐が解決したため、功罪相殺となりおとがめは無いようだった。

魔術局の若手筆頭研究者として、薔薇の集いに招待されたリディウスさんを見ていると、その横を不機嫌そうな貴族の集団がよぎっていく。

「あの方たちは確か……」

「ディアーズの知り合いたちだな」

横に立つ陛下が、冷ややかに目を細めていた。

ベレアスさんの自白もあり、事件に加担していた人間は、全員捕らえることができたらしい。

今この場にいるのは当然、事件には無関係なディアーズさんの知り合いなだけど……。

どう見ても不服そうに、不機嫌そうな顔で薔薇を見ている。

事件に直接関わっていなくとも、犯人たちの計画を知り楽しみにしていた可能性は、十分考えられるのだった。

「ほぅ、やはり、あいつらも計画を知っていて止めなかったようだな」

不愉快な輩だ、と。

陛下が隣で吐き捨てていた。

「どうしたんですか、陛下? もしかして、あの方々の話している内容が聞こえたんですか?」

距離がだいぶあるし、周囲は歓談する人々の声であふれているけれど……。

「……狼は耳もいいからな。注意してよく聞けば、これくらいは聞きわけることができる」

「すごいですね……! ちなみにどんな会話を、あの方たちはしているんですか?」

「そうだな……」

陛下は唇を閉じると、耳を澄ませているようだ。