作品タイトル不明
127.庭師猫は賢い生き物です
茂みから現れた庭師猫は、合計二十九匹いるようだ。
白に黒、茶トラに錆トラ、ポインテッドに靴下猫……。
毛皮の模様は様々だけど、全員ただの猫ではない証拠に、危なげなく二足歩行をしていた。
「すごい光景ね……」
庭師猫は幻獣だけあり、希少な存在のはずだった。
今までいっちゃん一匹しか見たことが無かったのに、一気に三十匹近くに遭遇だ。
庭師猫たちはみゃあみゃあにゃあにゃあと、互いに会話を交わしているようだった。
「……いっちゃん、どういうことか説明してくれるかしら?」
こちらを見上げるいっちゃんから、情報を引き出し整理していく。
――――ここにいる庭師猫はそれぞれ、王都やその近くの町でひっそりと暮らしていたようだ。
外見は猫そっくりだから、まぎれこむのは難しくないようだった。
「猫として暮らしていれば、乱獲の手からは逃れられるけど……。人間に料理を頼むことはできないわよね」
私の言葉に、庭師猫たちが一斉に頷いた。
かわいい。
二本脚で立つ庭師猫たちが集まった光景は、童話そのものでとてもファンタジーだ。
そんな童話の住人のような庭師猫は、自らの好きな食べ物を育てる習性を持っている。
いっちゃんほど食に熱意を注ぐ個体は珍しいようだけど、好物をよりおいしく食べたいという欲求は庭師猫全体に共通する、いわば本能のようなものらしい。
毎日の食事に不満を持つ同族たちの声を、いっちゃんは聞いてしまったようだ。
「だからいっちゃんは、この離宮へ来れば料理を作って貰えるかもしれないって、王都やその近くの町まで足を伸ばして、庭師猫たちと話し合いと勧誘をしていたということ?」
「にゃうっ‼」
その通りです、と。
いっちゃんが鳴き声をあげてきた。
食にこだわりを持ついっちゃんだからこそ、同族の境遇を無視できなかったようだ。
私が王都の街中に行った時見かけたいっちゃんは、ちょうど勧誘活動の最中だったらしい。
「いっちゃん、優しいのね……。でも私、結構心配したのよ? その子たちの勧誘のために離宮から離れていたなら、教えてくれたら良かったじゃない」
じっとりとした目を向けると、いっちゃんが庭師猫たちを指し示した。
ついで手を交差させ、バツ印を作っている。
「えっと、待って。考えるわ……」
いっちゃんの言わんとすることを、ルシアンと二人で翻訳しようとした。
「……あ、そうか。いっちゃんじゃなく、王都の庭師猫たちの願いだったのね? あの時庭師猫たちはまだ、この離宮にくるか決めかねていたから、人間である私に対して、自分たちの存在を言わないで欲しかったということね」
乱獲された歴史を持つ庭師猫は、警戒心が強いそうだ。
見ず知らずの人間である私のことも当然警戒し、いっちゃんに口止めをしていたらしい。
庭師猫たちは今も私から、一定の距離をとったままだ。
「初めまして。私がこの離宮の主人のレティーシアよ。私としては、あなたたちを受け入れたいところだけど……」
これだけ大量の庭師猫を住まわせるなら、陛下の許可を取った方が良さそうだ、と。
そこまで考えたところで、
「なるほど、そういうことね」
私と庭師猫たちを、今このタイミングで引き合わせた、いっちゃんの思惑に思い至った。
「薔薇園の薔薇を咲かせる手伝いを、あなたたちもしてくれるのね?」
庭師猫たちは二十九匹もいた。
これだけ数が揃っていれば、荒らされた薔薇園もなんとかなるかもしれない。
「あなたたちは薔薇園のために働いて、その代わり陛下に、離宮に住む許可を与えて欲しいということ……?」
そこまで、あの場で咄嗟にいっちゃんが考えたことに驚いた。
賢いとは思っていたけれど、人間と同じか、それ以上に庭師猫たちは、頭のいい種族なのかもしれない。
すごいなぁと感心する私へいっちゃんが、
『この取引、受けてくれますよね?』
と言うように鳴いたのだった。
◇ ◇ ◇
「こいつらが本当に、薔薇園を元に戻してくれるのか?」
半信半疑といった様子の陛下が、庭師猫たちを見下している。
さっそく薔薇園へと連れてこられた庭師猫たちが、かしましく鳴き声をあげていた。
「みー」
「にゃー」
「うにゃうにゃ?」
庭師猫たちは手分けして、傷ついた薔薇を確認しているようだ。
薔薇園中をくまなく回ると、一か所に固まり相談らしきことをしていた。
私も初めて見る、二本足で立つ猫たちの集会だった。
「どう、いっちゃん。いけそうかしら?」
「…………にゃっ!」
頷いてくれるいっちゃん。
庭師猫たちがばらばらと、薔薇園の四方へと散っていった。
「わぁ……!」
庭師猫たちが前足を伸ばすと、肉球に光が宿った。
光が折れた薔薇の蔓に触れた途端、みるみる傷が治っていく。
薔薇園のあちこちで光が灯り、甘い香りが漂ってきた。
「こんなに一斉に、薔薇が咲くところを見られるなんて……!」
夢のような光景だった。
傷が癒えた蔓に蕾がつき、次々に花弁を綻ばせていく。
咲き誇る薔薇は芳しくも瑞々しく、一つ一つが芸術品のように美しいのだった。