作品タイトル不明
124.ルシアンがぐー様を見下ろしています
「本当に本当に、申し訳ありませんでした……!」
一通り叫び、羞恥心を発散させた私は、まず陛下に謝ることにした。
「今までぐー様のこと、何度も撫でまわし申し訳ありませんでした……」
「……やめろ。謝られても困る」
淡々と、陛下が言い返してくる。
いつも通り硬質な美貌の陛下だけど、今は直視することができなかった。
「陛下と知らなかったとはいえ、私はぐー様になんてことを……」
身もだえしたくなってしまう。
遠慮なく撫でかわいがって、時にはからかってみて……。
思い出すと、非礼失礼のオンパレードそのものだ。
不敬罪で訴えられたら、勝ち目のない有様だった。
「……忘れろ。それがおまえの義務だ」
「そんな無茶ぶりを言われましても……」
どうしろというのかと、遠い目になってしまった。
動揺しまくりの私に対して、陛下は涼しい顔をしている。
私とは鍛え方が違うかも、なんて。
よくわからない感想が浮かぶ始末だった。
「……お見苦しいところをお見せしました」
深く息を吸ってはいて、とりあえず気分を入れ替える。
衝撃の事態に頭がついて行かないけど、まずやるべきことが山積みだった。
「じっとここにいては、誰かに見つけてくれとでも言うようなものです。落ち着いて互いの情報交換をするために、一旦ここは引き揚げませんか?」
「……概ね同感だ。おまえの離宮に邪魔させてもらうことににしよう」
陛下が浅く頷くと、輪郭が淡くにじんだ。
一瞬光が放たれ、陛下がいた場所に、ぐー様が現れたのだった。
「……先ほどのはやはり、見間違いなどでは無かったのですね」
グレンリード陛下からぐー様への変化を見て。
ルシアンがぼそりと呟いている。
この場で私以外に、ぐー様の秘密を目撃したのはルシアンだけだ。
リディウスさんは魔術局の建物の中で、気づいた様子も無さそうだった。
「ルシアン、陛下のぐー様への変化については――――」
「わかっております。内密に、ですよね」
「話が早くて助かるわ」
さすがルシアンだ。
ルシアンさえ黙っていれば、ぐー様と陛下について、すぐさま漏れる心配はなさそうだ。
胸を撫でおろしていると、ルシアンがぐー様を見下ろしていた。
「ただの狼、獣だと思っていましたから、レティーシア様に懐く姿も静観していましたが……」
どこか非難を含んだ視線に、ぐー様が顔を背けたのだった。
◇ ◇ ◇
リディウスさんとくるみ鳥の無事を確認した後、私たちは離宮に戻ることにした。
ベレアスさんは無力化してあるし、じきに森の異変に気が付き、人がやってくるはずだ。
レレナを連れて、ぐー様と離宮へ到着。
応接間でひとまず、情報を交換し整理することにした。
「――――なるほど、だいたいの経緯はわかった。ベレアスら誘拐犯については、改めてこちらでも対処しておこう」
レレナ誘拐に関するあらましに、陛下が頷いている。
陛下は再び人間の姿に戻り、向かいの長椅子に腰かけていた。
「ご協力いただけ助かります。………今度はそちらの事情を、お聞かせしてもらってもよろしいでしょうか?」
「銀狼へ……ぐー様への変化についてか?」
私は首を縦に振った。
恐る恐る、最大の懸念事項を尋ねる。
「ぐー様として行動していた時の記憶も、陛下にははっきりと残っているんですか……?」
「……おおよそな」
「ゔっ……‼」
思わずよろめいてしまった。
うぅぅ……。
予想していたとはいえ、ダメージの大きい回答だ。
私がぐー様を撫でまわす姿も、鼻歌を口ずさむところも全部全部。
ぐー様だった陛下はしっかりばっちりと目撃し、記憶しているということだ。
羞恥心で死にそうで、いったいどんな顔でこれから、陛下の顔を見ればいいんだろうか?
「……心配するな。そこのあたりはお相子さまだ」
一人身もだえる私に、陛下の声がかけられた。
「私がぐー様であった時にしたことと、その時おまえがしていたこと。どちらも互いに、口を噤んでいればすむ話だからな」
「……そうですね……」
陛下の助け舟に、力なく頷くことしかできなかった。
恥ずかしくてたまらないけれど……。
陛下の性格を考えるに、私のあられもない姿について、言いふらすことはないはず……と信じたかった。
「……そういえば陛下は、ぐ―様の時正体を隠していたのに、なぜ先ほど私の前で人の姿に戻られたのですか?」
「少し 変化(へんげ) の調子が悪かっただけだ」
狼から人への変化とは、やはりムラがあるものだろうか?
気になるがこの場で色々と、つっこんで聞くのもはばかられた。
陛下にどんな事情があったにせよ、あの時陛下が姿を現し、炎を鎮めてくれたことで私が助かったのは確かだ。
雨雲を生む上級魔術を使わずにすんだ私は、これからも目立たずに暮らせそうだった。
……まだまだ気になること、聞きたいことはあるし、ぎこちなさも消せないけど、とりあえず詳しい話は、また明日以降にということにした。
夜はもう遅く、陛下は翌日も多忙なはずだ。
陛下はぐー様の姿へと変化し、自身の部屋へと帰って行ってしまった。
「どっと疲れたわね……」
陛下を見送り、ぼすりと自室の寝台に身を投げ出した。
体は疲れているのに精神は興奮していて、すぐには眠れなさそうだ。
「ぴぃ?」
ぴよちゃんが、首を傾げるようにして覗き込んできた。
私の魔力を好むぴよちゃんは夜の間、私の寝室が定位置になっている。
もふふわとした羽毛でくるむように、体を押し付け甘えてきた。
「癒される~。……癒されるんだけど……」
じっとぴよちゃんの黒々とした瞳をのぞきこんだ。
澄んだ瞳はまっすぐに、こちらの顔を見つめているようだった。
「……実はぴよちゃんも、誰か人間が変化した姿だったりとか、そんなことは無いわよね……?」
ぐー様イコール陛下の衝撃の事実に、つい疑い深くなってしまった。
そんな私の質問に対しぴよちゃんは、
「ぴぴよぴっ!」
もっとくるんで欲しいのくっついて欲しいの?
とばかりに嬉しそうに、羽毛をすり寄せてきたのだった。