作品タイトル不明
122.目立ってしまいそうです
「……私を恨みますか?」
私の問いかけに、リディウスさんが瞳をつむった。
「いや、感謝している。……ベレアスがこれ以上罪を重ねる前に、捕らえられたのは幸運なはずだ」
「リディウスさんは、ベレアスさんを心配していたんですね」
「……心配?」
魔術以外には、興味が無いようにふるまうリディウスさんだったけれど。
決してそれだけでは無いはずだった。
「同僚としてベレアスさんを気にかけていたからこそ、怪しいと気づけたんですよ」
「何を言っているんだ? 僕にとってはベレアスの語る魔術理論が、興味深かっただけだぞ」
本気で首を捻るリディウスさんに、思わず笑いがこぼれた。
魔術バカなリディウスさんらしい言葉だ。
「どうしたんだ? なぜ笑っている?」
「いえ、リディウスさんって優しいというか、周りを大切にしているんだなと思ったんです」
水色の羽を何度もくっつけられるくらい、くるみ鳥にも懐かれているのだ。
魔術一直線で迷惑をかけることも多いけど、リディウスさんなりにくるみ鳥や魔術局の人たちのことを、大切に思っているようだ。
不器用な人だなぁと和んでいると、リディウスさんが顔を背けた。
「リディウスさん、どうしたんですか?」
「……僕よりずっと、レティーシア様の方が優しいと思う」
何やら呟くリディウスさんの耳が、心なし赤い気がした。
どうしたのだろうと思っていると、ふと違和感を覚えた。
「んん……?」
違和感の正体を探った。
リディウスさん?
いや違う。
その背後、窓の外に煙が流れている。
「火事っ!?」
慌てて外を見ると、周りの森が燃えている、煙が漂い、焦げ臭さが鼻に届いた。
「うっ、この匂いは……?」
ベレアスさんも目を覚ましたようだ。
火事に気づき、大きく目をみはっている。
「まさかこの炎、あいつらがっ⁉」
「この火事、心当たりがあるんですね?」
「……紋章具によるものです」
顔を青ざめさせながら、ベレアスさんが答えてくれた。
「ベレアスさんの仲間の、誘拐犯の仕業ですか?」
「おそらくそうです。予想外のレティーシア様の動きに気づき、紋章具を使ったようです!!」
「……なぜそんな物騒な紋章具まで用意していたのか気になるけれど……」
まずは消火が先だ。
魔術局もろとも、森が焼けてしまいそうだった。
「リディウスさん、魔術局に住むくるみ鳥たちの居場所はわかりますか!?」
「ここから右奥へ行ったところだ」
「ベレアスさんを見張りつつ、くるみ鳥たちの様子を見てこられますか?」
「わかった! だがレティーシア様はどうするんだ?」
窓からの炎の照り返しを受け、リディウスさんが叫んだ。
「建物に延焼しないよう消火を行ってきます!」
「一人で!?」
「やってみせます!」
時間がないため、走りながら答えておいた。
ルシアンと二人建物の外へ出て、素早く魔術を唱えていく。
『―――――恵みの滴よ!』
水属性の魔術が発動し、炎へ水が降り注いでいった。
ぶすぶすと煙を上げ、かききえたように見えたけれど……。
「これだけじゃダメね」
水が蒸発した途端、火が息を吹き返した。
試しに土を被せてみるが、隙間から炎が這い出してくる。
紋章具で生み出されただけあり、しつこい火事のようだった。
密集した木々ごとかまいたちで薙ぎ払っても、火が飛び延焼が酷くなるかもしれない。
「……しばらくの間、雨を降らせるしかないかしら」
天候操作は上級魔術だが、今の私の魔力量なら問題なく使用できるはずだ。
問題があるとすればそれは―――――
「目立つわね」
「目立ちますね」
ルシアンと声が重なった。
一定時間雨を降らす魔術は、上空に雨雲の生成が必要だ。
夜中とはいえ、王城の上空に雲を生み出せば、間違いなく騒ぎになるはず。
本物の雲よりはずっと小さいが、だからこそ不自然で目立つに違いなかった。
赤々と燃える火事のせいで、ただでさえ注目が集まっていそうな今、あまり使いたくは無いのが本音だ。
もし使ってしまえば、今ののんびり生活とはお別れすることになるけれど……。
どういたしますか、と。
ルシアンが目線で問いかけてきた。
既にここまで、いくつか火の粉が飛んできている。
残された時間は少なく、レレナやくるみ鳥たちが火傷してしまいそうだ。
こうなった以上、私が目立つのは仕方ない。
覚悟を決め詠唱をはじめようとしたところで――――
「えっ……?」
目の前に、信じられないような光景が広がっていた。
「この白いのは……」
氷だ。
炎のことごとくが消え失せ、木々が白い雪と氷で覆われている。
まるでそこだけ、真冬になったかのような光景だった。
「これはいったい……?」
ルシアンも驚きを隠せないようだ。
二人で呆然と、変わり果てた森を見つめていると、
「……ぐぅ」
聞きなれた鳴き声とともに、ぐー様が登場したのだった。