作品タイトル不明
121.ないすしょっと、と褒められました
『――――投げよ雷の網‼』
「がっ⁉」
ベレアスさんへと、私の放った雷が直撃した。
殺傷力は皆無だが、しばらく体が動かなくなるスタンガンのような魔術だ。
ベレアスさんがリディウスさんから離れてくれたため、容赦なく使うことができた。
「な、あなた、は……」
痺れながら、ベレアスさんの瞳がこちらを見上げた。
まともに動くのは舌と眼球くらいで、手足は硬直している。
「レティーシア様、釣りは成功ですね」
ルシアンが縄を取り出した。
素早くベレアスさんを縛り、麻痺が解けても動けないようにしていく。
「釣り……あぁそうか、そうい、う、ことだったんですね……」
ベレアスさんも、こちらの狙いに感づいたようだ。
――――リディウスさんが私の離宮で不審な態度を見せた時。
その場で拘束することもできたが、私はあえて見逃すことにした。
リディウスさんが犯人では無いと、そう直感したからだ。
……リディウスさんは魔術バカで、演技のできない性格をしている。
そんな彼が周囲を欺きとおし、誘拐監禁に加担できたとは、到底思えなかったからだ。
リディウスさんが犯人ではないと考えると、一つ仮説を立てることができた。
きっとリディウスさんは身近な人間が、誘拐犯だと気づいてしまったのだ。
その相手をこっそりつけている間に、くるみ鳥の羽を落としてしまったに違いない。
もしリディウスさんが、誘拐犯がこれ以上罪を重ねないよう、機会を見て自首を説得するつもりだったとしたら?
キースに誘拐犯だと疑われても、真実を告げようとしなかったのも納得だ。
誘拐犯の罪が軽くなるよう、自首させようとしていていたのだ。
「無理やりリディウスさんを捕まえ、誘拐犯が誰か問い詰めても教えてくれないかもしれないし……。リデイゥスさんの身近に誘拐犯がいるなら、警戒させ逃げてしまうかもしれないもの。ならばリディウスさんを自由に泳がせて、誘拐犯が誰か探った方がいいわ」
呟きつつ、ベレアスさんを見つめる。
そろそろ麻痺は切れているはずだが、ルシアンがきっちりと縛り上げていた。
「ベレアスさん、教えてください。今レレナは、どこに監禁されているんですか?」
「……魔術局の中の、今は使われていない一室ですよ」
抵抗は無駄だと悟ったのか、ベレアスさんが白状してくれた。
「見張りは何人くらいいるの?」
「……一人もいません。本来は私が、見張りについている予定でしたから」
ベレアスさんの言葉に首を捻った。
誘拐したのに、見張りが一人だけなんてありうるのだろうか?
こちらを油断させるための出鱈目かもしれないけれど……。
なんとなく、嘘はついていないような気がする。
「……情報ありがとう。さっそく行かせてもらうわ」
魔術局の建物を見ると、ベレアスさんの気配がかすかに揺らいだ。
私たちがレレナの救出に行っている間に、どうにか逃げようとしているのかもしれない。
「ベレアスさんも一緒に来てくれますよね?」
「……そこの従者に、私をわざわざ運ばせるつもりですか?」
「違います。ルシアンの両手は空けておきたいですからね」
私が首を横に振ると、ベレアスさんが怪訝そうな顔をしている。
この場には見ての通り、ルシアンしか連れてきていなかった。
大人数を動かすと誘拐犯たちに察知され、レレナが害される可能性があるからだ。
「まさかレティーシア様自ら、私を運ぶおつもりで……?」
「正解です」
にっこりと笑ってやると、ベレアスさんが驚いている。
彼へ向かい、すばやく呪文を詠唱した。
『――――掴むは無形。木の葉の如くして。舞う先へ至りたまえ!』
「~~~~~~~‼」
吹き荒れる突風と無音の絶叫。
風に飲み込まれたベレアスさんの体が、梢をかすめ魔術局へと飛んでいった。
悲鳴が漏れないよう、風の向きは操ってある。
怪我はしないよう調整しているが、かなり目が回り怖いはずだ。
魔術局に到着してもしばらくは、足腰が立たないに違いない。
「よしよし、きちんと到着したようね」
「お見事です。これがレティーシア様が以前おっしゃっていた、『ないすしょっと』というものですね」
「それは少し違うような……?」
ルシアンに褒められながら、気絶するリディウスさんへと振り返った。
今度は慎重に、風で体を持ち上げてやった。
誘拐犯であるベレアスさん相手とは違い、優しく運ぶつもりだ。
リディウスさんを連れ魔術局へ向かうと、裏口近くでベレアスさんが気絶していた。
念のため凶器を持っていないか探らせると、鍵が一つ出てきた。
裏口の錠に当てるとぴったりで、ありがたく使わせてもらうことにする。
教えられた監禁場所へと、人気のない真夜中の魔術局の建物を進んでいく。
建物の端の方、修繕もままならない古ぼけた一角だった。
「レレナ、大丈夫⁉」
室内の様子を探り扉を開けると、八畳ほどの小さな部屋だった。
すみに寝台がおかれ、レレナが横たえられている。
ベレアスさんの言葉通り、見張りはいないようだった。
「……眠っていますね」
ルシアンが頬をつつくが、レレナは動かないままだった。
傷や痣は見当たらないので、ただ眠っているだけのようだ。
レレナが監禁されてから、丸一日以上が過ぎている。
気力がもたず、気絶するように眠り込んでしまったようだ
「起こすのもかわいそうね……」
どうせなら、完全に安全な離宮に戻ってから、目覚めさせた方が良さそうだ。
離宮までそっと、風の魔術で運んでやることにする。
眠るレレナと共にベレアスさんの元に向かうと、下からうめき声が聞こえた。
「うっ……。ここは……?」
壁に寄り掛からせていたリディウスさんが、意識を取り戻したようだ。
「レティーシア様……? 一体何が……?」
「ベレアスさんに気絶させられあなたを、ここまで運んできたんです」
「ベレアスに? ……っ⁉」
リディウスさんがはっとした。
周りを見回し、縛られたベレアスさんと眠るレレナの姿に目を見開いている。
「ベレアスは、レティーシア様に捕えられてしまったんだな」
「……私を恨みますか?」
私の問いかけに、リディウスさんが瞳をつむった。