作品タイトル不明
111.北と南のお妃候補
翌日のお茶会は、予定通りの時刻に始まった。
よく晴れていたため、庭先に出したデーブルセットでの開催だ。
10人の参加者を3つのテーブルへそれぞれ案内し、お菓子と会話を楽しんでもらうことにする。
家格や令嬢ごとの関係に配慮し、できるだけ話の合いそうな組み合わせで割り振ったつもりだ。
ケイト様やナタリー様も、離宮でのお茶会開催を応援してくれている。
彼女たちからもらった、それぞれの派閥の令嬢の情報は、とても役に立っていた。
「ごきげんよう、レティーシア様。お茶会にお招きいただき嬉しいですわ」
ゆったりとした口調で、イ・リエナ様が話しかけてくる。
私が座るのは、イ・リエナ様とフィリア様と同じテーブルだ。
王妃候補である二人と一緒では、他の参加者たちが恐縮してしまう。
私が直に二人をもてなすためにも、このテーブル割りにしたのだ。
「ふふ、レティーシア様のお菓子を食べてみたい妾のわがまま、叶えてくれて嬉しいわぁ。この子もほら、レティーシア様に会えて嬉しそうにしているでしょう?」
イ・リエナ様の横できつね色のしっぽが五本、もふりと揺れ動いた。
イ・リエナ様の伴獣、二つ尾狐のしっぽだ。
二つ尾狐の中でも珍しい、五本のしっぽを持つ伴獣は、椅子の横で優雅に寛いでいる。
しっぽはよく手入れされているようで、毛並みに艶やかな光を宿していた。
「イ・リエナ様の伴獣は、今日も美しく愛らしいですね。揺れ動く尻尾をいつまでも、見ていることができそうです」
「ふふ、今日もお上手ですわねぇ。この子も褒められて喜んでいますわ。お礼に撫でてくれとせがんでいますもの」
「本当ですか? せっかくですし、撫でてみてもいいですか?」
「どうぞどうそ。ご自由に撫でてくださいませ」
イ・リエナ様の許可が降りる。
やったぁ! 待望のもふもふタイムだね‼
椅子を立ち二つ尾狐へと近づく。
すると触りやすいように、尻尾が顔の前に持ち上げられる。
もっふりとしたきつね色の毛が左右に揺れる、とても魅力的な姿だ。
「ふふ、気持ちいい。とても良い毛並みをもっているんですね」
頬が緩みすぎないよう気を付けながら、もふもふを堪能していく。
二つ尾狐は撫でられている間も、尖った耳を立て澄ました表情をしている。
ほっそりとした顔つきには気品が感じられ、マズルの先にちょんと乗った黒い鼻が可愛らしい。
美しく艶やかなイ・リエナ様とお似合いの伴獣だ。
豊かな毛におおわれたしっぽを従え、貫禄さえ感じる姿に、伝説の九尾の狐、『玉藻の前』を連想してしまった。
尻尾の数があと4本足りないけれど、もし玉藻の前が実在していたら、狐の時の姿は、こんな感じなのかもしれない……などと与太話を考えながら、なでなでタイムを終了させた。
ルシアンが持ってきてくれたボウルの水で手を洗うと、お菓子に手を付けることにする。
「美味しいです。このしふぉんけーきと言うお菓子、口にするとほわほわとしていて、雲を食べているみたいですね」
フォークを手に、フィリア様が舌鼓をうっている。
フィリア様は王国北部出身の、黒髪の公爵令嬢だ。
18歳と私より年上だけど、十代半ばにも見える可憐な容姿をしている。
体格も小柄で、細い指でフォークを握り、上品にシフォンケーキを口へ運んでいた。
シフォンケーキへの誉め言葉のように、ふわふわとした印象の、可愛らしいご令嬢だった。
「フィリア様、面白い表現をなさいますわねぇ。シフォンケーキ、お気に入りになそうですの?」
こちらも優雅にシフォンケーキをつまみながら、イ・リエナ様が声をかけた。
「えぇ、だって、とっても美味しいんですもの。雲を口にしたみたいで、いくらだって食べれると思いませんか?」
「雲を食べたことはないけれど……。美味しいという感想には同意しますわぁ。このケーキを味わえただけで、このお茶会にきた甲斐がありますもの」
にこやかに会話する、イ・リエナ様とフィリア様。
次期王妃候補として対立関係にある二人だが、険悪な雰囲気は感じられなかった。
本心から仲が良いわけでは無いと思うけれど……。
面と向かっての敵対は、避ける性格のようだった。
ふふふ、おほほ、と和やかだが素が見えない表情で笑いあっている。
イ・リエナ様は腹の中で計算を働かせていそうだし……。
……フィリア様はどうなんだろう?
可憐な顔立ちと雰囲気の方だけど、感情がわかりにくい相手でもある。
二人と歓談し観察しながら、お茶会は過ぎていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お茶会はつつがなく終わりを迎えることができたようだ。
私達以外の3つのテーブルでも、茶菓子の話題をきっかけに会話が弾んだらしい。
人間と獣人という関係上、ややぎこちない場面もあったが、お茶会が終わるころにはそれなりに楽しそうに会話が交わされていた。
「今日のお茶会も、成功したみたいね」
イ・リエナ様たちを見送ると、お茶会の片づけの指示を出していく。
シフォンケーキなどお茶菓子は好評だったけど、基本的に令嬢たちは小食だ。
別種族との会話とコネ作りが目的でもあるため、茶菓子の消費は控えめだった。
「わぁ……‼ 今日のお菓子も、とっても美味しそうです……‼」
片づけにやってきたレレナが、キラキラと目を輝かせている。
いつもの背伸びした様子は隠れ、子供らしくうきうきとしているようだ。
……そういえばレレナの姉のクロナも、甘いものに目が無かったな、と。
懐かしく思いしんみり見ていると、レレナが手際よく、テーブルの上のお菓子の残りを回収している。
お茶会の招待客には、あらかじめ作り箱詰めして置いた、お菓子のお土産を渡してある。
口を付けられなかったお茶会のお菓子は、使用人たちに食べてもらうことになる。
令嬢たち向けに、ふんだんに砂糖や果物を使ったお菓子は、使用人たちのお楽しみなのである。
「おっ、今日も、美味しそうなお菓子が並べられてたんですね」
ヘイルートさんが声をかけてきた。
画家である彼は、時折この離宮に訪ねにきて会話を交わす関係だ。
今日も身軽に、ふらりとやってきたようだ。