作品タイトル不明
109. 愛され属性のもふもふです
「……どういうことですか? 俺、くるみ鳥はかわいいと思いますが、野性の獣からしたらかわいらしさは関係なく、弱っちいくるみ鳥は格好のエサになりませんか?」
「キースは幻獣の定義は知ってる?」
「えっと、確か、なんらかの強い魔力を帯びた生き物、でしたよね……?」
正解だ。
様々な姿かたちの種類がいる幻獣だけど、その生態に魔力が大きく関わっているという一点で、他の獣とは明確に区別されている。
ヘイルートさんが連れていた鱗馬のような、地球ではみたことのない姿をした生き物でも、これといった魔力を持っていない場合は、普通の生き物として扱われている。
逆のケースで、いっちゃんのように外見が猫そっくりであっても、植物の成長を促す特殊な魔力を持っている以上、幻獣として扱われることになるのだ。
……ちなみにグリフォンであるフォンの場合は、空を飛ぶ時、よく見ると翼が光を帯びている。
翼の周りの風を操ることで、あの大きな体でも、空を飛ぶことができるのだ。
「幻獣にとって、魔力は生きていく上でかかせない存在よ。そしてくるみ鳥の羽毛は、魔力をため込みやすい性質を持っているの」
「……えぇっと、つまり……?」
キースは疑問符を浮かべたままだ。
獣人であり騎士であるキースは、魔力や魔術に関しては疎いようだった。
「人間も幻獣も、体の表面からいつも、微量の魔力が漏れているものなの。通常は垂れ流すしかないその魔力を、くるみ鳥は羽に蓄えてくれるのよ。チリも積もれば山になる、という言葉があるでしょう? くるみ鳥と仲良くしておけば、いざという時に貯めこんだ魔力を貸してくれるのよ」
「なるほど……。それは心強いですね」
キースも納得できたようだ。
「野生のくるみ鳥は多くの場合、他の幻獣と一緒に暮らしているそうよ。幻獣の側も、くるみ鳥の特徴を知っているから、大切に保護するらしくて、共生関係を築いているのよ」
「弱っちそうな見た目でも、上手いこと生きてるんですね」
「すごいわよね。ヒヨコが鶏にならないまま大きくなったような愛らしい姿も、ふわふわとしたこの羽毛が、一番魔力をため込みやすいからこそなのよ」
くるみ鳥は面白い生き物だ。
その愛くるしい見た目と珍しい性質のおかげで、いくつもの興味深い話が伝わっている。
「過去の目撃談の中には、ドラゴン狩りに向かったら巣にくるみ鳥がいた、なんて話もあるみたいよ」
ドラゴンの後ろから出てくる、もふもふとしたくるみ鳥のその姿。
気が抜けるような光景にも見えるが、目撃した張本人にとっては笑えない事態だ。
「ドラゴンと死闘を演じ魔力切れに追い込んだと思ったら、くるみ鳥からの魔力供給でドラゴンの魔力が復活するのよ……」
よくドラゴンを追い詰めましたもう一回戦えます死ぬがいい!
なんてことになるのだ。
「……その狩人からしたら、くるみ鳥は死神みたいなものですね……」
見た目によらず恐ろしいもふもふですね、と。
おののいた様子のキースだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私とキースがしゃべっている間にも、ぴよちゃんはくるみ鳥らしく、愛され属性を発揮していた。
「きゅあ……?」
フォンが首を傾げながらぴよちゃんを見つめている。
賢いフォンには、ぴよちゃんに敵意や危険が無いとわかったらしい。
そうすると、魔力をため込みやすいぴよちゃんの羽毛は魅力的なようで、ぴよちゃんが近づいてきても、逃げずにくるまれるままになっている。
精悍なフォンの体が黄色の毛玉に埋まっているという、なかなかに面白い光景だ。
「ぴぃ!」
「くぁぁ? くいきゅあっ‼」
鳥に似た姿の幻獣どうし、何やらおしゃべりをしている。
どこまで意思疎通ができているかはわからないけど、相性は悪くなさそうだ。
こつこつと、嘴をつつき合わせ遊んでいる。
微笑ましく思っていると、ぴよちゃんがふらりとフォンから離れた。
「もう満足できたの?」
「……ぴっ‼」
ぴよちゃんは周りを見回すと、二本の足でちょこちょこと走り出した。
気になるものがあるようだ。
「にぎゃっ⁉」
通りすがりのいっちゃんへ、ぴよちゃんが近づいていった。
いっちゃんが緑の目を丸くして、するりと木の上へ登っていく。
「ぴよっぴ‼」
「…………」
木の下で飛び跳ねるぴよちゃんを、いっちゃんが無言で見下ろしている。
苺には目が無いいっちゃんだけど、それなりに警戒心の強い性格だ。
新参者のぴよちゃんに、近づこうとはしないようだった。
「ぴよちゃん、こっちよ。今日のところはそっとしておいてね」
鈴を鳴らし、ぴよちゃんをこちらへと呼び寄せる。
ちらりといっちゃんに視線を送ると、これ幸いと木から降りてきた。
「にゃっ‼」
今日のところは、毛玉鳥がいるから退散します。
と言うように尻尾を一振りすると、木々の向こうへと消えていった。
「いっちゃん、どこへ向かっているのかしら……?」
謎だ。
数日前、王家の薔薇園から帰ってきた時も、いっちゃんは離宮から別方向へと歩いて行った。
苺畑のある方向とも違うため、少し気になっている。
猫のように自由気ままないっちゃんだから、ふらっと散歩でもしているのだろうか?
疑問を覚えつつ、離宮の建物へ入っていったのだった。