作品タイトル不明
108.ぴよちゃんと離宮のもふもふの遭遇
「……でも、ぴよちゃんはどうして、私に懐いたのかしら……?」
「レティーシア様を慕う気持ちはよく理解ですが、確かに少し不思議ですよね」
ルシアンとともに首を捻った。
懐いてくれるぴよちゃんは可愛らしいが、そこは謎のままだ。
どうも私は魔力量がずば抜けているようで、魔力が好きなくるみ鳥に、懐かれやすいのは確かだけど……。
魔術局に飼われていたくるみ鳥たちは、私以外にも懐いた相手がいた。
成鳥になってなお、誰にも特別懐いていなかったぴよちゃんは、珍しいくるみ鳥のようだ。
そんなぴよちゃんが、出合い頭に私に懐いた理由。
ただの偶然か、それともとんでも魔力量、つまり前世の記憶が戻った影響なのだろうか……?
「………」
右手を前にかざし、体内の魔力を操作し集めていく。
慣れた動作だったけど、注意して魔力を感じると、確かに数か月前に比べて、格段に魔力量が増えているのがわかった。
……ここのところ、料理してもふもふ達を愛でのんびりするのに忙しくて、魔術に向き合う時間は少なめだ。
たぶん、この国に来てから一番真剣に魔術を使ったのは、ケイト様に協力するために『整錬』で、塩のジャンデリア作りに試行錯誤していた時だ。
あの時も気が急いていて深く考える余裕がなかったけど、予想よりも多い回数、『整錬』が使えたのを覚えている。
てっきり、体内の魔力の有効活用率が高まった恩恵だと思っていたけど、どうも魔力の絶対量自体が増えた影響もあったようだ。
思い出した前世の記憶と、魔力に関するいくつかの変化。
一つ目に、魔力を持たない前世の記憶を思い出したことで、体内の魔力を或る種の異物として鋭敏に感じられるようになり、魔力の有効活用率がぐんと上昇していること。
二つ目に、詳しい仕組みは謎だが、魔力の絶対量自体が増え、今も増え続けているのかもしれないこと。
どちらも聞いたことの無い現象だ。
今のところ、自覚できたのはこの2点だけだけど、詳しく調べれば他にも、何か変化があるのかもしれなくて。
もしかしたらその変化こそが、ぴよちゃんに気に入られた理由かもしれなかった。
「……気になるわね……」
一度気づくと、むくむくと疑問がわいてくる。
前例の無い現象である以上、書物にあたっても答えは見つからない気がする。
自分自身で様々な実験をして、地道に解き明かすしか無さそうだけど……。
「離れて初めてわかるありがたさってあるわよね……」
実家のグラムウェル公爵家を思い出す。
魔術強国であるエルトリアで、長年公爵として続いてきた家だけあって、グラムウェル公爵家管理下にはたくさんの、魔術の計測器や実験設備を抱えていた。
実家にいた頃は、王妃教育の方に熱を入れていたし、魔術研究に関する環境についてはあまり関心が無かったけど、今思うとなかなかに恵まれた環境だ。
今日訪れていた魔術局にも、計測器は置かれていたけれど、あいにく私は部外者だ。
先ほどうっかりと、魔力量の計測器を壊してしまったように。
実験でどんな非常識な結果が飛び出すかわからず、魔術局での実験も難しそうだ。
……幸い、魔力関連で特別困っていることは今のところ無かった。
実験と検証を焦る必要は無いけれど、すっきりせず気持ちわるかった。
「ぴっ!」
「……よしよし。撫でで欲しいのね」
私の事情を知らないぴよちゃんが、嘴を膝にのせ甘えてきた。
お望み通り撫でてやると、瞳が細く糸のようになり、気持ちよさそうな顔をしている。
羽毛の手触りにうっとりと、こちらも目を細めてしまった。
撫でているとそれだけで、悩みが消えて行ってしまいそうだ。
くるみ鳥の羽毛を使った寝具は、使用者の魔力の回復を早める効果があり使い心地も抜群で、とても高級品だと聞いている。
「コツコツとぴよちゃんの羽を集めたら、そのうち布団ができそうね」
極上の寝心地を楽しみにしていると、馬車が次第に減速していく。
離宮の馬車止まりへと降り立つと、すぐ後ろにぴよちゃんがついてきた。
初めての離宮をきょろきょろと見ながら、ちょこちょこと歩き回っている。
「きゅあっ?」
上空から鳴き声が降ってくる。
翼をはためかせた、グリフォンのフォンだった。
私の隣に降り立つも、見慣れないぴよちゃんに警戒した様子だ。
「ぴっ‼」
「くあっ⁉」
猛然と、ぴよちゃんが突進していく。
フォンに体をすり寄せ、自慢の羽毛でくるもうとしている。
幻獣の一種であるフォンは魔力を帯びている。
くるみ鳥であるぴよちゃんの、魔力に惹かれる本能のようだった。
「きゅあぁっ……?」
もふもふすりすりとするぴよちゃんに、フォンは戸惑っていた。
ぴよちゃんに敵意がないため、爪による攻撃こそしていないが、困ったようにこちらを見てくる。
「ぴよちゃん、フォンが困ってるから離れてね」
懐から鈴を取り出す。
ボドレー長官から贈られたものだ。
魔術局で育てられたくるみ鳥は、鈴の音に従うよう躾けられている。
今手にしている鈴は、『誰にも触らず立て』という命令を伝える音だ。
「ぴぃ……」
思ったよりあっさりと、ぴよちゃんはフォンから離れてくれた。
安心していると、今度はぴよちゃんが、こちらに体をすり寄せてくる。
『やっぱり自分、こっちの魔力の方が好みです!』
と言わんばかりのすりすりっぷりだ。
鈴の音にあっさり従ってくれたのも、私の魔力が本命だからかもしれない。
「……不躾な毛玉鳥ですが、フォンを全く恐れないのは度胸がありますね」
呆れ半分、感心半分と言った声色で、ルシアンが呟いている。
ぴよちゃんは体こそ大きいが、翼は小さく全体的に丸っこく、とても強そうに見えなかった。
立派な翼に猛禽の爪を持つフォンと並ぶと、あまりにひ弱な印象だ。
「くるみ鳥は、愛され属性だからでしょうね」
「……愛され属性?」
護衛として同行していた、キースが首を捻っていた。