作品タイトル不明
凛花、再び
光が来た。
ゲートハブの中央に、白い光の柱が立った。
ナビが「ゲート経由の来訪者を確認」と言った。
光が絞れた。
人の形が見えた。
凛花が、歩いてきた。
左腕にスリング。右手にバッグ。一歩踏み出すたびに、光の残滓が足元から散っていった。
ひなたが「凛花さん!」と走り出した。
凛花が「静かに」と言った。
ひなたが止まった。
「わかりました、でも嬉しいです」
「それなら構いません」
凛花がゲートから完全に抜け出た。光が背後で収まった。
俺は凛花を見た。
凛花が俺を見た。
「無事に来られました」
「そうですね」
「ゲートは、問題ありませんでした」
「あなたが開いた初めての市民輸送になりました」とナビが言った。
「市民輸送」とひなたが言った。「なんか急に現実的な言葉」
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凛花の左腕が、ゲートに近づいた瞬間に反応した。
スリングの上から分かるほど、腕が震えた。
ひなたが「凛花さん、大丈夫?」と言った。
美鈴がすぐに凛花の前に立った。
「見せてください」
スリングを少し緩めた。
包帯の上から美鈴が手を当てた。数秒、目を閉じた。
「融合が進んでいます。ゲートのエネルギーに反応した。でも——」
美鈴が目を開けた。
「拒絶じゃない。受容です。身体が受け入れ始めている」
凛花が自分の左腕を見た。
震えが止まっていた。
「痛みが——今も、ない」
「ゲートが近いから、なじんでいるんだと思います」と美鈴が言った。「正直、こんなに速く進むとは思っていませんでした。あなたの身体、ゲート素材との親和性が高い」
「……そうですか」
「いい意味です」
凛花が小さく頷いた。
レオンが「合理的な判断だったということだ」と言った。
「来たことが?」と凛花が聞いた。
「ああ」
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準備が始まった。
レオンが装備の確認をした。元軍人の段取りは速い。何が必要で、何が不要か、即断できる。
美鈴がデータをまとめていた。古代文字の解読結果。バベルの坑道の構造メモ。設計者が残した記録の抜粋。
ひなたが地図を出して凛花に説明していた。「ここがバベルの坑道の入口で、ここにウロボロスの連中がいて、第三の管理者はここの十二層です」と言いながら、地図に書き込んでいた。
「詳しいですね」と凛花が言った。
「調べました。というか、情報整理は私の仕事です」
「いつから?」
「師匠のチームになった瞬間からです」
凛花が少し微笑んだ。
俺はそれを少し離れた場所から見ていた。
五人が、一つの空間にいた。
三ヶ月前、俺は一人でダンジョンに入っていた。S級になって、チームができて、世界が変わって、今ドイツにいる。
来週にはイラクにいる。
《構造透視》が動いていた。
この五人の構造が、見えた気がした。
それぞれの位置。それぞれの役割。どこが動いて、どこが支えて、何が全体を繋いでいるか。
「師匠、考え込んでる顔してますよ」とひなたが言った。
「考えています」
「何を?」
「いい構造だと思いました」
ひなたが「褒めてくれたんですか?」と言った。
「そうです」
「嬉しい——でもなんか照れくさい言われ方ですね!」
美鈴が「確かに」と言った。
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凛花が俺の隣に来た。
全員が準備を進めている間に、少し離れた壁際に立っていた。
左手を、ゆっくり開いていた。
閉じた。
開いた。
俺は凛花を見た。
「動きますか」
「まだ完全じゃない」と凛花が言った。「でも、握れる」
「それで十分です」
「……そうですね」
凛花が左手を、もう一度、ゆっくり握った。
少しの間があった。
「ありがとうございます」と凛花が言った。
「何が」
「三年前の話から——ずっと」
「三年前に俺はいませんでした」
「でも、今いる」
それ以上は、どちらも言わなかった。
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配信を短く入れた。
「こんにちは。チームが揃いました。イラクに向かいます。詳細は向こうから入れます」
コメントが流れた。
「最強パーティじゃん」「海外ダンジョンとか熱すぎ」「凛花さん大丈夫?」「ひなたちゃん無事で」「レオン誰」「美鈴さんって誰」「次の更新が楽しみすぎる」
俺はコメントを見た。
三百万人が見ている。
これだけの人間が、俺たちの方向を向いている。
「行ってきます」
俺は言った。
配信を切った。
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バベルの坑道。
イラク。
深夜。
暗闇の中に、光があった。
構造物が発する、かすかな青い光。
その光の中に、少女が座っていた。
銀色の髪。褐色の肌。年齢は俺たちと変わらないくらいに見えた。
彼女の周囲に、構造が積み上がっていた。
柱。壁。梁。自分のスキルで作り続けた構造物が、崩れていくダンジョンを支えていた。
三年と四ヶ月。
彼女はその場所で、一人で、世界の端を押さえ続けていた。
遠い振動が来た。
はじめての振動だった。
ゲートハブからの、かすかな信号。
彼女は顔を上げた。
来る。
誰かが来る。
鼓動が速くなった。
四年ぶりに、怖いと思った。
裏切られることへの恐怖ではなかった。
救われることへの、恐怖だった。
そして。
もっと深い暗闇の中から。
足音が聞こえた。
自分のものではない足音。
白いコートの裾が、闇の中で揺れていた。
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【第5章「世界の構造」完】