軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高名の依頼人

俺とリケは一瞬顔を見合わせる。そういえば、ここに客が来るのは随分久しぶりだな。

「はいはい、今行きますよ」

俺は扉に向かって行く。その間も扉はなかなか力強くノックされている。

まあ、この〝黒の森〟を一人でここまで来られるような人物であれば、男女問わず力強くても不思議はないのだが。

そういえば、ヘレンの時も随分とノックの音が大きかったな。などと考えながら、俺は扉を開ける。

その瞬間は一応飛び退れるよう身構えておいた。

扉が開いたが、その向こうにいる人物が暗殺者だったりすることはなく、普通にそのまま佇んでいる。

もし、その人物が暗殺者だったら、あっけなく仕事を果たしていただろう。

俺は身構えたまま、呆気にとられていたからだ。

「いやあ、なかなか悪くないところだな!」

その人物は、見た顔ではあった。過去数度だけ見かけたときとは装束が大きく異なってはいるが、射竦めるような視線とは裏腹に屈託のない、まるで子供のような笑顔を湛えている。

「陛下!」

「おう、今は客だ。あんまり畏まるな」

そう笑いながら言ったのは、アレクセイ・サフィン・アンドレエフ・ヴィースナー。帝国の皇帝陛下その人であった。

「どうぞ」

「おお、すまんな」

皇帝はそう言って、リケが出したハーブティーを啜る。ミントに似たハーブのようなものなので、湯で淹れてはいるが清涼感があり、この暑さではちょっとした癒やしになる。

鍛冶場の火は一旦落としたし、かなりマシなはずである。

「いやあ、話には聞いていたが、随分と危険で驚いた」

そう言ってカラカラと屈託無く笑う。ここまで来るには、ご本人の口調よりもかなりの危険があったはずだ。

そうでなくては「試験」として役に立たない。カミロに道を聞いたからと言って、ただただ辿り着けるわけではないのだ。

前々からフッ軽だなと思っていたが、ここまでだとは思わなかっただけで。

俺は居住まいを正してから尋ねる。

「で、ご用件は?」

「勿論、剣を打ってもらいに、だ」

「条件はご存じですよね?」

「ああ。本人が一人でここへ来ること。だろう?」

「ええ」

「それさえ守れば、相手が誰であろうと武器を打つと」

「はい。実際、魔族にも打ったことがあります」

それを聞いて、陛下の眉がほんの僅かに動いたが、すぐに元の顔に戻る。

「それを聞いて安心した。一人で来たぞ」

今ここにサーミャがいないのが悔やまれるが、あの皇帝陛下がこんなところでしょうもない嘘をつくようには思えない。

「では、早速ですが、どのようなものを? 儀礼用でも構いませんよ」

「まさか」

陛下は苦笑する。まあ、そんなものを作ってもらいに〝黒の森〟くんだりまで来たりはしないか。

「余……いや、〝俺〟の使う剣、そうだな、ギリギリ片手でも扱えるくらいの長さの剣がいいな」

「なるほど。失礼ですが、手を挙げてみてください」

「こうか?」

俺の指示に陛下はあっさりと従った。俺はチートも使って、筋肉の付き方や長さを見てとる。

それから導き出されるのは、刃渡り85センチほど、全長が1メートルくらいのものだろうと判断した。重さは鋼なら1.5キロくらいになるはずだ。

ただ、これだけでは完全に判断することは出来ない。いつもどおり、本人に確かめるのがいいか。

「確か試作品にあったな」

鍛冶場の壁際に並べている試作品を見てみる。多くは稽古で使われ、ヘレンからのフィードバックを受け取ったりしているものだ。

その試作品の中に、ほぼ同じものを見つけて、俺は手に取る。まあ、これくらいならいいな。

「どれくらいが適切かを見るのに、陛下の太刀筋を見せていただきたいのですが、よろしいですか?」

「うむ。もちろんだ」

「それでは外へ」

促されると、陛下は大きく頷き、入ってきたところから外に出る。

そこで試作品の長剣を渡そうとしたところで、

「お父様!?」

そう、彼の娘の声が〝黒の森〟に大きく大きく響いた。