軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国の父娘

響き渡った娘の声は、〝黒の森〟にそのまま吸い込まれていく。

娘とは勿論、帝国第七皇女のアンネである。

「おう、アンネマリー」

「いえ、『おう』ではなくてですね……」

気楽な様子で片手を挙げる陛下を見て、いくらでも本心を隠した表情ができるはずのアンネの顔が引き攣っている。

「陛下。お初にお目にかかります。王国伯爵エイムールが妹、ディアナにございます」

ディアナが堂々たる仕草で挨拶をした。こう言うときに肝っ玉が据わっているのは、我が家では彼女が一番だな。

「うむ。ヴィースナーである。しかし、今の俺はただの客だからな。そこまで畏まらずともよい」

鷹揚に、しかし笑顔で返事をした陛下は、ゆったりと手を振ってディアナを制する。

「彼女らは狩りに出ておりまして。今戻ってきたところですね」

「うむ」

陛下は頷く。そこにややあどけなさを含んだ声がする。

「この人は『えらいひと』なの?」

声の主はうちの娘だ。炎の精霊、マリベルである。

「そうだとも」

陛下は取りあえずマリベルの素性は棚上げにすることにしたようだ。胸を張ってにこやかにマリベルに答えている。

「とは言うものの、実は今、そこまで偉くもない」

「そうなの?」

「うむ。だから、あまりいじめてくれるなよ?」

「いじめないよー」

ニッコリ笑うマリベルの燃え盛る頭を、陛下は躊躇無く撫でた。

実際、手を近づけても熱さは感じないのだが、見かけでは明らかに燃えているものなので、怖いと思ってもおかしくない。

陛下の器の広さが窺えるな。

とは言え、娘としては気が気でないようで、絶対零度の視線というものがあるなら、きっとこれのことだろうなと思えるような目で父親を見て言った。

「それで、何のご用で?」

「父親に向かって随分だな。まあいいか。普通に注文をしに来ただけだ」

肩をすくめる陛下。それを見て、俺は思わず笑みを零す。

しかし、こういったやりとりはきっと今しかできないのだろうな。帝国の宮廷では親子であってもこんなに気易くすれば、よろしくない評判を呼んでしまいそうだ。

アンネが俺を見たので頷く。彼女は続いてサーミャを見たが、サーミャも肩をすくめるだけだ。

少なくとも、裏に何か大きなものを隠しているわけではないらしい。

「……とりあえず、私たちは片付けに行って参ります」

「おう。行ってこい」

普通の父娘のような言葉を交わす2人。俺たちはなんとなくほっこりした雰囲気になってそれを見守るが、アンネはすぐに踵を返して倉庫のほうへ向かう。使った道具を片付けに行くのだろう。

他の皆もそれについて行った。

「他の者については後ほど紹介しますので、今はこちらの続きを……」

「お、そうだな。そうしよう」

陛下は俺が差し出した試作品の剣を手に取ると、二、三回軽く振り下ろす。

ビュンと空を切る音が豪快に響いた。

「よし、それでは始めるか」

俺が頷くと、陛下はスッと片手に持った剣を目の高さと同じくらいに構えたのだった。