作品タイトル不明
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歴史の片鱗らしきものを今は納品箱へと押し込め、俺はテラスへと戻った。
「待たせたな」
空いていた椅子に腰を下ろすと、少しばかり硬くなっていた場の空気がふっと緩んだ。俺はニルダに向き直る。
「さて、それじゃあもう一つの依頼の方だ。刀を見せてくれるか」
「うむ」
ニルダはこくりと頷き、腰から鞘ごと外して俺に差し出した。ヘレンの気配が強ばる。
俺が刀を受け取ると、ずしりとした重みが掌に馴染む。俺が打った時の感触そのままだ。同時にヘレンの気配が緩むのが分かった。すまんな。
ゆっくりと鯉口を切り、鞘を払う。スッと微かな音を立てて、片刃の刀身が姿を現した。夜の帳が下り始めたテラスのランプの光を反射する刃を、様々な角度から透かして見る。
「……なるほど。確かに、少しばかり『疲れ』のようなものが出ているな」
見て分かるような刃こぼれや欠けはない。だが、刃の線がごく僅かに鈍くなっている部分があり、鋼そのものが持つ張りのようなものが微かに落ちているように感じられた。魔界の過酷な環境で幾度となく斬り伏せてきた結果だろう。
だが、俺がそれ以上に感心したのは、刀身に歪みや曲がりが一切生じていないことだった。
「いい使い方をしてるな」
「ほう、わかるか?」
「ああ。硬いものと無理に打ち合ったり、力任せな斬り方をすれば、どうしても刀身に負担がかかって微かな歪みが出る。それがない。お前さんの腕の良さがよく分かるよ」
鍛冶屋としての視点からの評価を口にすると、ニルダはふっと誇らしげに口元を綻ばせた。
「当然だ。無様な使い方はできぬよ」
その言葉を聞いていたヘレンが、「ふん」と小さく鼻を鳴らした。
対抗心を燃やすヘレンに苦笑しながら、俺は刀をそっと鞘に収めた。
「研ぎ直して少し調整してやれば、すぐに元通りになると思う。明日、じっくりと手入れさせてもらうよ」
「うむ、よろしく頼む」
ニルダが深く頷いたところで、俺は改めて皆を見渡した。
「明日は刀の手入れに、俺はあの遺物の調査もある。それに、湖に沈めてある猪の解体もだ」
「おう! 明日は肉だぜ!」
サーミャが耳をピンと立てて喜ぶ。リディがポンと手を叩いて言った。
「大物ですからね。皆で手分けしてやりましょう」
「そうだな。そういうわけだから、今日はこの辺でお開きにして休むとするか。ニルダ、お前さんも長旅で疲れてるだろう。部屋を用意する」
「すまんな。また世話になる」
ニルダの言葉を聞くと、ディアナとリディが立ち上がり、ニルダを客間へと案内し、他の皆もそれぞれついていきつつ、寝る準備に入るようだ。
まあ、ニルダもこの家を知らないわけではない――確か以前に来た時はまだテラスがなかったから、内心驚いているのかも知れないが――ので、馴染むのは早いだろうし、寝たことのあるベッドだから、眠れないのではという心配もない。
テラスの片付けを終え、俺は一人で夜の森へ向かって大きく伸びをした。
かすかに虫の音が聞こえるだけで、木々は静かに佇んでいる。あの遺物から漂う「澱んだ魔力」や、過去の転生者の影など微塵も感じさせない、いつも通りの〝黒の森〟の夜だ。
深く息を吸い込むと、ひんやりとした空気が肺を満たし、頭の芯を少しだけ冷やしてくれた。
色々と考えるべきことはあるが、焦る必要はない。明日もまた、いつも通りにやるだけだ。
俺は戸締まりを確認し、些か賑やかな家の中へと戻っていった。