軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いつもの工房

明けて翌朝。俺は鳥のさえずりと、窓から差し込む日の光で目を覚ました。

帝都のふかふかした豪華なベッドも悪くはなかったが、こうして目覚めるのが一番馴染むような気がする。大きく伸びをすると、長旅の疲れはすっかり抜けていた。

「おはよう、みんな」

「クルルル」

「ワフッ」

「キュッ」

「おはよう!」

水を汲みに外へ出ると、娘達が待機していた。ちょっと間が空いたが、いつも通り……いや、少し気合いが入っているか? 元気なのは良いことだ。

クルルとルーシーに水瓶を持たせ、皆で湖へ向かう。

その湖も、相変わらず静かに水を湛えていて、そんな様子にホッとする。

そうして、いつもの通りに水を汲み終え、家に戻り、いつものように朝食を作る。

「水汲みはクルルたちがいるし、鍛冶も分かるけど、家事はもう1日くらいのんびりしてたらいいのに」

とはディアナの言だが、

「いやあ、早いところいつものペースに戻したくって」

と俺が押し通したのだ。

朝食の支度中、俺以外の皆が朝の支度をし、のんびりとした空気が家に流れる。

その空気は、朝食が出来上がってテラスの食卓で朝食をとるときもずっと続いていた。

のんびりはしつつも賑やかな朝食を終え、工房の重い木の扉を開けると、そこには朝の空気と共に、鋼と炭、そして油の混じった懐かしい匂いが満ちていた。

「やっぱり、ここは落ち着くな」

俺のつぶやきに、リケが深く頷く。

火床を準備し、「着火」の魔法で火をつけ、ふいごを「送風」の魔法で動かして空気を送り込むと、パチパチという小気味よい音と共に炎が燃え上がる。

帝都の工房にあった設備は立派で、それと比べればこぢんまりとはしているが、まあ、俺の肩書きから言えば、分相応だろう。

火床は魔法を併用しているが、温度上昇が不思議と早いなどと言うことはない。

他の準備をしつつ、作業ができる状態になるまで待つことになる。

その間に、

「じゃあ、ちょっくら行ってくる」

と、サーミャが家の方から声をかけてきた。

彼女……と、リケを除く家族皆は狩に出かけるらしい。これも「いつも」の一つで、帰ってきたんだなぁという感慨がまた一つ積み上がる。

「おう、気をつけてな」

俺がそう言って手を振ると、サーミャはニッと笑って親指を立ててから、森へと向かっていった。

残った俺とリケは、俺がいない間にも作ってくれていた板金を火床に入れて熱し、金床に置いて鎚で叩き、形を作っていった。

今までしてきていた作業で、特に何か違和感があるわけではないのだが、あの謎の鉱石の後では素直に言うことを聞いてくれる鋼に、少なからず愛しさのようなものを覚えてしまう。

カンカンと聞き慣れた音。ミスリルなど、前の世界にはなかった鉱石にはもう少し変わった音がするものも少なからずあるが、流石に鋼は音も素直で、1回打って音が響くごとに、ズレていた感覚が戻っていくような、そんな錯覚すらある。

「うーん、なんだか久しぶりで上手くいってるか、分からんなあ」

俺は焼き入れまでを通して、出来上がったものを眺める。チートは間違いなく良い出来だ(もちろん、高級モデルとしてだが)と判断しているが、少しずつ感覚が戻っているとはいえ、こう久しぶりではこれが本当に良いものか、些か迷いが生じる。

今まで何度も同じ作業をしていて、しばらくそれをしなかったあと、もう一度同じ事をしたら、例え様々なテストを経て、作業は正常であると分かっても、多少の違和感が残ってしまうことがある。

それと似たような感覚。これを解消するには、

「リケ、ちょっと見てくれないか」

信頼できる鑑定眼の持ち主に見てもらうのが良いだろう。俺が声をかけると、リケはすぐさまやってきた。

「はい。これですか? いえ、とても良いものだと思いますけどね」

「そうか。リケが言うなら大丈夫だな。変わったものを扱ったあとだと、何が正しいか分からん」

「確かに、親方は尋常ではないものを沢山扱ってますからね」

「普通のものが扱えないようにだけはならないようにしたいんだが……」

「そんなことになってしまうと、私も困りますので、なんとか食い止めていただきたいですね。まだまだ学ばせていただきたいことが山のようにあります」

リケはそう言って大きく笑った。俺も釣られるように笑い、鍛冶場の中には、「いつも」のように笑い声が響くのだった。