軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食卓での報告会

その日の夕食は、留守を守ってくれていた家族たちが腕によりをかけた温かい料理が食卓に並んでいた。

俺が作ろうかと言ったのだが、帰ってきた日なんだからゆっくりしていろと家族全員に言われて、カテリナさん、アネットさんに引き続きお言葉に甘えることにした。

久しぶりに座る定位置の椅子。目の前には、猪肉の香草焼きに、野菜がたっぷり入った具沢山のスープ、そして焼きたてのパンが湯気を立てている。

俺はスープを一口啜り、その優しい味にふっと息をついた。帝都の豪奢な料理も確かに美味かったが、やはり家族が作ってくれたこの味が一番落ち着く。体の芯からじんわりと温まるような気がした。

「それで、親方! 帝都での仕事はどうだったんですか?」

食事も半ばに差し掛かった頃、リケが身を乗り出すようにして尋ねてきた。ドワーフの彼女は帝都でどんなものを扱ったのか気になって仕方ないらしい。

サーミャも口いっぱいに肉を頬張りながら、長い耳をピコピコと動かして俺の言葉を待っている。ディアナやリディも、興味深そうにこちらへ視線を向けていた。

「ああ、それなんだが……なかなか骨の折れる厄介な素材だったよ」

俺はパンをちぎってスープに浸しながら、帝都で向き合った「未知の黒い石」について話し始めた。

「その石は、普段は硬めの粘土みたいに柔らかいんだが、凄まじい吸熱性を持っていてね。周囲の熱を吸いつくすと、今度はハンマーでいくら叩いてもびくともしないような、とんでもない硬度になる代物だった」

「熱を吸って硬くなる? 普通の金属とはまるで逆ですね……」

リケが目を丸くして驚く。彼女の知識にもない性質なのだろう。ドワーフも知らない、ということは相当珍しいものだったんだな。

「そうなんだ。だから、常温の柔らかい状態のまま万力と指の力だけで短剣の形に捏ね上げて、その中心に〝竜の息吹〟を封じ込めてきた。あれは魔力を吸って熱を出すからな。まぁ魔力は薄いだろうから時間はかかるだろうが、数ヶ月もすれば完全に熱を吸い込んで絶対に折れない剣になる……と思う。こればっかりは実際その時にならないと分からない」

「なるほど」

ディアナが感心したように微笑む。リディも隣でウンウンと頷いている。

「それで、その剣を帝国の偉い人に渡して、帰ってきたってわけか?」

サーミャが尻尾を揺らしながら尋ねる。

「そうだな。皇帝陛下、まあ、アンネのお父上だな、に直接献上してきたよ。で、これがその時の褒賞だ」

俺は革袋から、ずっしりと重い金貨の袋と、帝国の紋章が深く刻まれた銀のメダリオンを取り出し、テーブルの上に置いた。

ランプの光を反射して銀色に輝くメダリオンを見た瞬間、帝国皇女であるアンネの目の色が少し変わった。

「エイゾウ……それ、もしかして最上位の国賓の証拠じゃない?」

「さすがにアンネは知ってるか。これを見せれば、帝国内はほぼどんなところも通してくれるらしいぞ」

「国賓!? 親方、それってとんでもないことじゃ……!」

リケが絶句し、サーミャも「よくわかんねえけど、すげえってことだな!」と目を輝かせている。

「ただの鍛冶屋には重すぎる称号だけどな。だが、皇帝陛下は俺を無理に帝都に縛り付けるようなことはしなかった。俺の腕前を一番活かせるのは、俺が一番心安らぐ場所で槌を振るっている時だと、そう判断したらしい。だから、最大限の自由を保証しつつ、帝国に何かあった時は頼むという、そういう距離感でいくみたいだ」

俺がそう締めくくると、アンネが小さく息を吐いて深く頷いた。

「陛下はエイゾウを気に入ったのね」

アンネの言葉に、家族全員がホッとしたような表情を浮かべた。

「そうそう、アンネの母上にも会ったぞ」

「えっ!?」

アンネの目が丸く見開かれる。

「一応お忍びで陛下と一緒に俺のとこに来てな。お前の様子を聞きに来てた。楽しく暮らしてるって言っておいたけど、良かったよな?」

俺がそう言うと、彼女は一瞬眉を顰めたが、

「勿論」

そう言って微笑む。俺は頷いて続けた。

「母上はそれを聞いて大層喜んでた。まぁ、これは本来なら帝国の秘密ってことなんだろうが」

「おいそれと来る人もいない〝黒の森〟の中だし、良いんじゃない?」

アンネは笑い、それは家族の間に広がった。

ディアナとヘレンがアンネの肩を優しく叩きながら、「良かったね」と少し涙ぐんでいる。

「しかし、これで王国でも帝国でも、わりと自由ってことかぁ」

たとえ帝国の国賓になろうと、俺の根っこは変わらない。家族のために、そしてこの森での暮らしを豊かにするために、鋼を打ち、道具を作る。俺はいつだって、ただの一介の鍛冶屋だ。

「気にする必要はないんじゃない?」

ディアナが何でもないことのようにそう言って、なぜかそれは俺の胸にすうっと馴染んだ。

「そうだな。色々あったが、無事に帰ってこられて良かったよ。明日からはまた、いつも通りだ。リケもよろしくな」

「はいっ! もちろんです、親方!」

リケの元気な返事が食堂に響く。

食後の温かいお茶を飲みながら、俺は家族たちの笑い声を心地よく聞いていた。

明日は何を打とうか。そんなことを考える平穏な時間が、今は何よりも愛おしかった。