軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

息を吹き込む

俺はぐにゃりと曲がってしまった小刀の試作品を見つめながら、思考を巡らせていた。

この未知の鉱石は、熱を飽和させることでとんでもない硬度を発揮する。まぁ、ちゃんとしたモース硬度を測ったわけでもないが。

実戦で武器として使う度にいちいち炉に放り込むわけにはいかないのは明白なので、他の手段が必要だ。

例えば熱を出すような魔法をずっと使い続けるとか。

いや、だめだな。俺たちの家がある〝黒の森〟ならいざ知らず、ここは都市部であり、魔力は薄いだろう。

それに、簡単な魔法なら使える俺でも魔力を四六時中、それも精密に操り続けるような器用な真似をしろと言われたら無理だし、武器の使い手にそれを要求するのも現実的ではないだろう。

ならば、素材そのものに持続的な熱源を組み込むしかない。

俺は記憶の引き出しを探った。自ら一定の熱を発し続ける素材はなかっただろうか。

「……〝竜の息吹〟か」

思わず俺の口に出た呟きに、カテリナさんが反応した。

「竜の息吹、ですか?」

「ええ。ドラゴンの体内にある特有の器官の名前でしてね。その中に入っている液と併せて、そう呼ばれているんです」

俺はカテリナさんとアネットさん、ヴィクトリアさんに説明した。

〝竜の息吹〟は、周囲の魔力を吸収して自ら発熱する性質を持っている。鋼を加工できるほどの高温にはならないため、鍛冶の主熱源としては使い道がないが、あの黒い石に熱を供給し続けるものとしてなら機能するかもしれない。

「ここなら、宝物庫かどこかに保管されていませんかね?」

俺が尋ねると、ヴィクトリアさんが真剣な顔つきで頷いた。

「素材の名前は聞いたことがありませんが、ドラゴンを討伐したという話は耳にしましたので、きっと備蓄はあるかと。掛け合ってきましょう」

そう言ってヴィクトリアさんが工房の外へ向かう。その間に、俺は新たな実験の準備を始めた。先ほどと同じように常温の黒い石をじわじわと押し潰して小刀の形を作る。

ただし、今回は刃の峰の部分に沿って、液体を流し込めるような細い溝――血流しのようなものを深く成形しておいた。

そうこうしていると、ヴィクトリアさんさんが金属製の小箱を持って戻ってきた。流石は帝国、仕事が早い。

「ありました。これが〝竜の息吹〟だそうです」

箱の中には、袋のようなものが納められていた。見てみると、中には液体が入っている。確かに俺の知っている〝竜の息吹〟と一緒だ。

俺は慎重に小刀の溝にその液体を流し込んだ。そして、溝の上から蓋をするように石を密着させて塞いだ。

常温でなら粘土のように形を変える石だからこそできる加工法だな。

「さて、どうなったかな……」

間に昼食を挟み、その間にも〝竜の息吹〟が微弱な魔力を吸って僅かに発熱し、その熱を黒い石が内側から残らず吸い尽くしているはずだ。

俺は指先で刀身に触れてみる。外側からは全く熱を感じない。

完成した小刀を万力に挟み、そっと指で押してみる。

先ほどよりも小刀の刃が曲がりにくい。それだけ熱を吸収したからだろう。

「多分、これで少しは上手くいくかと。本当はもっと魔力のあるところに持って行ったほうが良いんでしょうけどね」

「もうできたのですか?」

ヴィクトリアさんが目を丸くするが、俺は首を横に振った。

「いえ、これではまだ完成とは言えません。〝竜の息吹〟からほんの僅かに出た熱を石が吸収し、吸収されたぶん〝竜の息吹〟が再び熱を発する……この循環で十分な硬さが得られるかどうか、まだ分かりませんし、得られたとしても恐らく時間がかかるかと思いますので」

「なるほど。そうですか……」

やや落胆するヴィクトリアさん。そんな彼女に俺は、

「まあ、全く歯が立たないわけではないですし、使い道はあると思いますので」

と言って、僅かばかりの希望を残しておいた。