軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

献上品

「ともあれ、皇帝陛下にご説明さしあげる際にご覧いただく品ですが……護身用の短剣が良さそうですね」

俺は鉱石の塊を前にして、カテリナさんやアネットさん、そしてヴィクトリアさんにそう告げた。

「なるほど。陛下が自ら前線に立って長剣を振るうことはありませんし、常に身に着けておける護身用の短剣であれば、いずれ完全な姿になったとき、その特性を最大限に活かせそうですね」

ヴィクトリアさんが落ち着いた声音で言って頷いた。

俺はそれに頷き返して言った。

「ええ。それに、この素材の特性上、長い刀身を万力や手作業だけで均一に成形するのは、少しばかり骨が折れますからね」

陶器で平皿を作るときのように、薄く平たく伸ばして、切り抜くなどすればできるのかもしれないが、今それができそうな器具がないので、致し方あるまい。

しかし、こうして方針が決まれば、あとは職人としての腕の見せ所だ。

俺は一番大きな石の塊を万力にセットし、ハンドルを回してじわじわと圧力をかけ、大まかに引き伸ばしていく。

普段の鍛冶仕事のように、カーン、カーンという小気味良い槌音は響かない。ギギギという金属の軋む音だけが工房に響く静かな仕事だが、その分、指先に伝わる感覚には極限まで神経を集中させていた。

ある程度形が出たところで万力から外し、今度は俺自身の指の力でじわり、じわりと細部を捏ねていく。常温のこの石は硬めの粘土のようなものだから、万力の平らな面と指先の圧力だけで鋭いエッジを作り、両刃の短剣の形へと整えていく。

刀身が形作られると、次は芯となる溝の作成だ。短剣の峰にあたる中央部分にタガネをあてがい、柄から切先の手前にかけて細く深い溝を彫り込んでいった。

「アネットさん、残りの〝竜の息吹〟をください」

「はい、こちらに」

アネットさんから受け取った小瓶から、俺は細い匙を使い、液体を慎重に溝の中へ等間隔に配置していった。

配置が終わると、溝の両脇の石をじっくりと押し潰して完全に蓋をする。粘土のように形を変える性質のおかげで合わせ目は完全に融合し、一本の無垢な短剣にしか見えなくなった。

俺は短剣を金床の上に置き、三人に説明した。

「さて、ここからが我慢のしどころです。具体的な話は出来ませんが〝竜の息吹〟はここではごく微弱な熱しか生み出せません」

「では、あの硬い状態になるまでには時間がかかる、ということですか?」

とカテリナさんが首を傾げる。

「ええ。石が内部からの微弱な熱をじっくりと吸い込み、硬くなるのを待つしかありません。完全に硬くなるまでには何ヶ月もかかるでしょう。ですが、一晩待てば先ほどよりはもう少し硬くなっていることが確認できるはずです」

――そして、翌朝。

俺たちは再び工房に集まっていた。

金床の上に置かれた短剣は、昨日のまま、星空のような美しい漆黒の姿を保っていた。俺はそれを手に取る。

「かなり冷たいですね」

「中の〝竜の息吹〟は発熱しているはずなのに、ですか?」

とヴィクトリアさんが言って、俺は頷く。

「ええ。炉の中でも結露を作るほど底なしに熱を吸うんです。内部の〝竜の息吹〟が発する熱を、外に逃がさずすべて内側へ吸い込み続けている証拠だと言って良さそうです。」

もう一度触ってみるが、表面は冷たく、色も黒いまま。俺は短剣を再び万力に挟み込んだ。

「昨日、溝を彫ったり形を整えたりした時の手応えは、俺の手が覚えています。昨日のままの柔らかさなら、この程度の力で簡単にひしゃげるはずですが……」

俺は万力のハンドルを握り、昨日と同くじわじわと回し始めた。

ミシッ……。

万力の金具が微かに軋む音を立てた。短剣の柄は圧力を受けて僅かに歪んだが、昨日ほどの劇的な変形は見せない。確かな抵抗が、万力を通じて俺の手に返ってきていた。

「見てください。今はまだ柔らかく、万力の力には負けて歪んでしまいますが……昨日のように粘土のようには潰れません。確実に硬度が増しています」

「本当ですね……。昨日なら、その力でぺちゃんこに潰れていたはずです」

カテリナさんが身を乗り出し、感嘆の息を漏らす。

「ええ。このままゆっくりと内部の熱を吸い続ければ、いずれはあの火床で赤熱した時のような、ハンマーさえ弾き返す硬さに定着するはずです」

「なるほど。完成までは時間がかかるが、熱を吸って硬化していくという理屈は、確かに証明されたというわけですね」

ヴィクトリアさんが納得したように頷き、アネットさんも安堵の笑みを浮かべた。

「ただ、どこまで硬くなるか、熱くなるかは未知数です。そこも陛下にはお伝えしますが、一旦はこれで完成といって良いかと」

俺がそう言うと、3人から拍手が返ってきた。

俺は万力から短剣を外し、軽く形を整え直してから、革の鞘へと収める。

いずれ絶対に折れず、曲がらない無敵の刃となる。陛下がその剣を必要とする頃には、立派な護身剣として完成しているだろう。

「さて、それでは行きましょうか」

俺はヴィクトリアさんに言った。

「この厄介で素晴らしい石の正体と、これからの展望を、陛下に報告しに。お取り次ぎ願えますか?」

「もちろん」

ヴィクトリアさんは、そう言って今までの中で一番の笑顔で微笑んだ。