軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#. 良き夢、あるいは

暗い夜、リュエンは夢を見ていた。夢の内容はよく覚えていなかった。いや、あまりにも鮮明で、むしろ忘れたいのかもしれない。

現実を切り取って強制的に植え付けられた悪夢は、何度見ても慣れることができず、痛くて悲しくて耐えられなかった。

「うっ……、……ひく」

涙を流す資格さえもないはずなのに、何もできないという苦しさから涙が出た。いつものような、一人で耐え忍ぶ夜。

けれど、いつもの夜とは違う温もりが傍にあるような気がした。頬に触れる誰かの手があたたかかった。彼が強く抱きしめると、その誰かもまた彼を抱き返してくれた。

手を伸ばしてはならないのに。無意識に伸ばされた手が温もりを渇望する。空っぽの心を充たすように、誰かが彼の髪を優しく撫で下ろしながら囁いた。

「大丈夫よ、リュエン。大丈夫だから」

少し低めの、しかし涙が出るほどに優しく穏やかな声。リュエンを落ち着かせてくれる、ただ一人の声。

喉が詰まって声がうまく出なかった。それでもリュエンは彼女をきつく抱き締めながら、愛する者の名を呼んだ。

「プリシラ」

「ん」

「プリシラ。頼む、傍に……いてくれ」

「分かった」

どんなに無理な頼みをしても、笑って肯定してくれる彼女。有り難さよりも罪悪感が先立つのは、自分でもしてはならないことをしていると分かっていているからだろうか。

その事実に再び涙が流れる。止まらない涙を拭いながら、彼女がリュエンをそっと抱きしめた。

「傍にいる。だから、もっと寝ていいのよ。大丈夫、私が守ってあげるから」

トントン、と。

一定のリズムに混じり、低く柔らかな彼女の子守唄が続く。

決して上手いわけではないのに、崩れ去った心の一角を頑丈に支えてくれるその歌声に、浅い眠りの水面へと浮上しかけていた彼の精神が、徐々に沈み込んでいった。

薄暗い夜明け方になっても、やはりリュエンは夢と現実の区別がつかなかった。

当然のことだった。血塗られた記憶の中、彼が犯した行動は決して許されぬ罪であり、その罪のせいでリュエンは世界で最も大切なものを失ってしまったのだから。

罪の代償として、リュエンは一生を塔に閉じ込められ、永遠に苦しまなければならなかった。だから、今自分が横たわっているこのベッドが、この腕の中が、当然夢であるはずしかなかった。

プリシラの腕の中で目を覚ましたリュエンは、ぼんやりと彼女を見つめた。乱れた黒髪の下、彼女の端正な顔が現れた。記憶とは全く違う、しかし記憶と同じその端正な顔に、無意識に手を伸ばす。

リュエンの冷たい手が頬に触れると、固く閉じられていたまぶたがパルルと開き、彼が何よりも愛する青紫色の瞳が姿を現した。眠気に負けてとろけている視線に、リュエンがありありと映り込んでいた。

「……おはよ、リュエン。早起きね」

甘い夢。永遠に覚めたくない夢。リュエンが何も言わずに彼女を見つめていると、プリシラはリュエンを抱きすくめて目を閉じた。

「起きるには少し早い。もうちょっと寝ましょう」

合わさった肌が、あまりにも温かい。ぼんやりとプリシラの髪を撫でると、柔らかく揺れる髪が彼の手に沿って流れ落ちた。酷く現実感のある夢だ。

「プリシラ」

「ん?」

「そなた、私を見てくれないか?」

少し強引で強圧的な頼みに、枕に顔を埋めていたプリシラがゆっくりと目を開けた。薄暗い夜明けの光が彼女の瞳に宿った。透明で鮮明な、一対の瞳。

「どうしたの? リュエン」

プリシラの問いに、リュエンは答える代わりに髪を撫でていた手を下ろした。リュエンの大きな手が頬を通り、首筋に触れた。

小さく刻まれる脈拍が指先から伝ってくる。リュエンの異常な行動にもプリシラは物憂げな表情を浮かべるだけで、彼の行動を制止しない。

その対応が、このすべてがリュエンの作り出した都合のいい夢だということを反証していた。これがすべて夢ならば、もう少し彼女を感じていたい。

そなたが近くにいることを理解したい。リュエンはプリシラの頬を包み込んだ。彼の指先が、柔らかい頬を通り、赤い唇に触れた。

プリシラの瞳が少し大きくなるのが見える。夢なのに、こういう部分は現実的なのだろうか。

ならば、この後はどんな反応を見せるのだろう。

「プリシラ。そなたが私の傍にいることを感じたいのだ」

「どうやって?」

プリシラの問いに、リュエンは静かに唇を重ねた。触れ合った息遣いが、そなたが生きていることを教えてくれる。

唇が触れ合っただけの短い口づけ。ぼんやりと彼女を見下ろしていたリュエンは、再び彼女に唇を寄せた。今度は少し長く。

普段のプリシラなら「何してるのよ」とデコピンが飛んでくる時間だったが、夢の中のプリシラは静かに彼の唇を受け入れてくれる。

彼が唇を離すと、閉じていたプリシラのまぶたが開いた。リュエンがしたように、プリシラもまた彼の両頬を包み込んだ。赤い唇が弧を描いた。

「確かに傍にいるでしょう? もう分かった?」

「いや、まだ」

言い終えたリュエンが、もう一度唇を重ねた。今度はもっと深く。息遣いと呼吸が一つに絡み合う。普段よりも深く濃厚な口づけに不器用に応じてくれるそなたが愛おしくて、理性が溶けてしまいそうだった。

リュエンは何度も、執拗に唇を貪った。

「ちょっと、息をさせて」

唇を合わせたまま呼吸する方法を知らないのか、赤く火照った顔をしたプリシラが、乱れた息を吐きながら彼を見上げて言った。

酷く官能的なその姿に、リュエンは不意に、その時になってようやくこのすべての状況が夢ではないことに気づいた。

一拍遅れて現実を認知したリュエンが、プリシラを見下ろした。

「プリシラ……?」

「ん」

「これ。まさか……現実なのか?」

「何言ってるのよ。当然現実でしょう?」

「……?!」