作品タイトル不明
第44話:新たなる行事
リリィのパン屋の視察に行ってから、更に日が経つ。
このルーダの街に来てから、すでに三ヶ月になる。
街でのオレたちの生活は、順調に進んでいた。
「パパ! テストで満点をとったよ!」
まずはマリア。
前以上に初等部の勉強を頑張っていた。
毎日朝から午後までの授業を、真面目に受けている。
定期的に行われる学力テストでも、いつも好成績を収めていた。最年少の五歳にも関わらず、学年トップだった。
「あっ、パパ。こんど、クラウディアちゃんのお家に、またみんなで遊びにいってもいい!」
クラスメイトのクラウディアたちとも、相変わらず仲良くしている。
ルーダの街にあるバーモンド伯爵家の別邸に、クラスメイトと遊びに行くようになっていた。
最近、オレは心配性になってきた。そのためバーモンド伯爵家の別邸に、当初はマリアの様子をこっそり見にいっていた。
「クラウディアちゃんのお家は、お人形がたくさんあるから、楽しいんだ!」
だが監視の心配は不要だった。心配は杞憂。マリアたちは大人しく、女の子的な遊びをしていた。
またバーモンド伯爵家の別邸は、警備のレベルも合格点だった。あれなら普通の賊は、侵入できない。
マリアを遊びに行かせても安心である。
まあ……オレが侵入した気配を感知できないは仕方がない。
何しろ完全に気配を消したオレの感知できる奴は、この大陸の兵法者でも数人しかいないのだ。
「パパ、毎日、楽しいね!」
こんな感じでマリアは笑顔で毎日を過ごしていた。
◇
次に聖女リリィ。
彼女のパン屋の仕事も順調だった。
週に5日の仕事を、一日も休まずにこなしている。
「オードル様。試作のパンを焼いてので、食べてみてくださいませんか?」
最近では家の 窯(かま) で、パンを焼くようになっていた。
店の親方から教えてもらった、初心者向けのパン。まだ形は揃っていないが、かなり本格的な味だった。
さすが元々は実家がパン屋の娘。才能があるのであろう。
このまま順調に修行を重ねていけば、いつか本格的なパン職人になれるであろう。
今後も試作のパンを食べるのが、楽しみである。
「リリィ。すまないが、家の中でも、もう少し厚めの服を着てくれないか?」
「えっ、オードル様? あら、そうでしたわね。大変失礼いたしました」
そんな頑張り屋のリリィだが、家の中ではどこか天然なところがある。
目のやり場に困るから、風呂上がりに、そんな薄着でウロウロするクセは直し欲しい。
◇
白魔狼のフェンも元気にしていた。
パン屋のリリィの警護も慣れてきたのであろう。
最近ではしだいに活動範囲を広げていた。ルーダの街の中を散歩しながら、隅々まで自主的に探索をしているようだ。
「ん? フェン、そいつらは手下の野良犬か?」
いつの間にかルーダの街の野良犬と仲良くなっていた。
白魔狼族の力で従わせたのであろうか?
『ちがうワン、オードル! 彼らはボクの友だちだワン!』
だがオレの予測は外れていた。
フェンは純粋な仲間として、野良犬たちと仲良くしていたのだ。
食いしん坊キャラのフェンだが、意外と人望があるのかもしれない。
『オードル。今日も鍛錬をつけてくれワン!』
あとフェンは戦いの訓練も積極的にしていた。オレが戦いの鍛錬を、フェンにつけてやるのだ。
夕方の空いた時間。家の庭で、フェンと1対1の戦闘訓練。対人戦や対魔獣戦のコツも教えている。
『やったワン! オードルの裏をかけたワン!』
鍛錬のお蔭で、フェンの戦闘能力は向上していた。油断するとオレでも反応できない時がある。
さすがは上級魔獣の白魔狼族。フェンは一族の中でも才能があるのかもしれない。
このままでいけば親の仇を取れる日も近いであろう。
◇
最後に女騎士エリザベス。
彼女は元気にしていた。
体調も常に良好。相変わらずハイテンションだった。
「とほほ……今日も仕事は見つからなかった……」
だが就職活動の方はイマイチだった。
不器用さを発揮して、未だに無職街道を爆走している。
「気にするな、エリザベス。人は向き不向きがある。時を待つのも兵法だ」
オレは無理をする必要はない、とアドバイスしていた。
何故ならエリザベスの本業は“女騎士”であり“戦う”こと。
ルーダは国境から離れているために、平和な街。戦いの無い街の暮らしでは、何もしないことも騎士の立派な仕事なのだ。
「だから今はフェンとオレとの鍛錬に我慢しておけ9
エリザベスも家の庭で、戦闘訓練を行っている。
対戦相手はフェンとオレが交互に。お陰で彼女の戦闘能力も、かなり向上していた。
特に対魔獣戦闘は、徹底的に教え込んでいた。前回の 鉄大蛇(てつだいじゃ) 戦闘のように、魔獣に対して後れをとることもないであろう。
「分かった、オードル……だが、ここだけの話、私だけ無職のままでは恥ずかしいのだ! マリアもフェンも頑張っているのに……くっ! 相談所に行ってくるぞ!」
こんな感じで、今日もエリザベスは仕事を探しにいく。プライドの問題なのであろう。
だからオレは止めないようにしている。
◇
こんな感じで、ルーダの街の生活は順調。
郊外の家を拠点にして、平日はそれぞれが仕事と勉強に精を出す。
週に二日の安息日は、家族みんなで一緒に過ごす。
庭の畑に野菜を植えて手入れをしたり、家の改築も行ったりする。
最初のころはホコリだらけだった家も、今では輝きを放つように綺麗になっていた。
これも家事と掃除を頑張る女性陣のお蔭。
ドタバタもあるが毎日が、ゆったりと時間が流れていた。
「みんなと一緒なら、こういう街の暮らしも悪くはないな……」
こうしてルーダの街でのスローライフを、オレは満喫していくのであった。
◇
こんな感じで、ゆったりと月日が流れていく。
ルーダの街に来てから、5ケ月が経とうとしていた。
「パパ! 大ニュースだよ!」
そんなある日のこと。
学園から帰ってきたマリアが、興奮していた。
「どうした、マリア?」
ここまで興奮したマリアを見たのは、初めてである。何事かと心配になってしまう。
もしや、また事件でも起きたのか?
「知りたい、パパ?」
マリアは勿体ぶってきた。この態度から事件ではなさそうだ。
まずは一安心。
では何かがあるのであろうか?
「どうしよーかなー、教えよーかなー」
再度、じらしてきた。この辺のマリアの態度は、子どもとして成長した証なのであろう。
父親としても嬉しいが、早く知りたい。
「ああ。とても気になる」
マリアのハイテンションの正体が知りたい。
後ろに隠している紙が、興奮している物なのであろうか?
「じゃーん。では、発表にします!」
マリアは隠していた紙を、前に出してきた。
何やら学園からの、お知らせの用紙である。。
「なんと、パパ! こんど、競技大会があるんだよ!」
「競技大会……だと?」
競技大会だと? 初めて耳にする単語である。
剣の腕を競い合う“闘技大会”なら聞いたことがある。一体何をする大会なのであろうか?
「パパ、これは、かけっこや、つな引きとか、するんだよ! うんどう会って呼ぶこともあるみたい!」
なるほど。そういうことか。
生徒だけで親睦を深めあう、運動の大会。大陸最強の戦士を決める戦い、に似た感じなのであろう。
それは楽しみだな。
「あと、家族の人の競技も、あるんだって、パパ!」
「なんだと?」
マリアの家族は父親のオレ。あと姉としてエリザベスとリリィがいる。
フェンも家族だが参加できるのであろうか?
「お弁当とかみんなで食べたりするんだって!」
「そうか。それは盛大になりそうだな」
お弁当は皆で作って、当日はお祭り騒ぎになりそうだな。
「うんどう会、楽しみだね!」
こうしてオレたち家族は、マリアの運動会に参加するのであった。