軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第43話:雨降って地固まる

伯爵令嬢クラウディアを救出してから、数日が経つ。

何事もなかったかのように、マリアたちは学園生活を送っていた。

「クラウディアちゃん!今日も一緒にお弁当をたべよう!」

「ええ、マリアさん。いいですわ。それでは今日は中庭のバルコニーは、どうでしょうか?」

「ナイスアイデア! さすがクラウディアちゃんだね!」

もうすぐお昼の時間。

休み時間、マリアはクラウディアと談笑していた。

あれ以来、二人は親友のように接していたのだ。

「ねえ。二人もマリアたちと、一緒にたべよう?」

「そ、そうですわね。クラウディア様が一緒なら」

「ですわね」

クラウディアの取り巻きの2人とも、マリアは友だちとして接していた。

三人組のリーダー格であるクラウディアが陥落。取り巻きの二人も態度を変えたのである。

昼休み時間のお昼ごはんの時間になる。

マリアと三人組は、中庭で仲良くお弁当を食べていた。

オレも遠い木の上で休憩しながら、見守っておく。

「みんなで食べるお弁当は、美味しいね、クラウディアちゃん!」

「そうですわね、マリアさん。いつものお弁当が、こんなに美味しくなるものなんですわね」

あれ以来、クラウディアは様子が変わっていた。

プライドの高いお嬢様の口調は同じ。

だが、態度の端々どこかに優しさが感じられる。

もしかしたらクラウディアは素内になったのかもしれない。あの日の事件で、マリアの純粋さに接して。

「そういえば……マリアさんのお父様は、どんな方なんですの?」

「えっ? マリアのパパ? パパはやさしくて、強くて、かっこいいパパだよ!」

マリアとクラウディアの話題にオレになる。

まだ幼い二人は、父親についての話もするのであろう。

それにしても強いことに、オレも自信はある。だが優しさとカッコよさは、少し美化しすぎではないか、マリアよ?

「強くて、かっこいい方……確かにそうでしたわね……」

「あれ? クラウディアちゃん、顔が赤いけど、だいじょうぶ? 風邪かな?」

「ち、違いますわ。でもマリアさんのお父様の顔を思い浮かべると、なぜか胸がドキドキするのですわ……」

二人は楽しそうに何かの話をしていた。男のオレから見たら、不思議な内容である。

「クラウディア様……」

「それは 恋煩(こいわずら) いでは?」

二人の話に、取り巻きも混ざっていく。

女性特有の話をドンドン進めていく。オレは昼飯を食いながら、聞き流していく。

「こいわずらい?」

「マリアさん、異性の方を……男性を好きになると、いうことですわ。クラウディア様の場合は、マリアさんのお父様に……」

「あっ、それならマリアもわかるよ。マリアもパパのことが大好きだよ!」

女子の会話の内容は、遠耳で聞いてもよく分からない。

だがマリアの口から『パパ、大好き』という言葉がでてくる。

それだけもこの女子会というのは、凄まじく価値があるのかもしれない。

「あっ、鐘の音だね?」

そんな中、校舎から時間の鐘の音が響いてくる。

午後の授業まで、あと少しという知らせの鐘だ。

「そろそろ、戻りましょう、マリアさん」

「あっ、待ってよ、クラウディアちゃん! もぐもぐ……よし、いこう」

残っていた弁当を一口で食べ終えて、マリアは立ち上がる。

午後の授業に向けて、校舎へと駆けていくのであった。

(やれやれ……賑やかな女子会とやらだったな……)

そんな光景を遠目で見ながら、オレはひと息をつく。

ちなみに覗くつもりはないが、五感が強いオレは、どうしてもマリアの会話を拾ってしまう。

だから、学園に入る時は、マリアのことを見守っているのだ。

「バーモンド伯爵家の方も片付けた。学園生活はなんとか平穏になっていくだろうな……」

先日のクラウディア誘拐事件のことは、彼女の保護者には内緒にしてある。

これはクラウディア本人の希望であった。

自分の勝手な行動により、事件を起こしてしまったことへの後悔である。

運のいいことに、オレ以外の目撃者は誰もいなかった。

また誘拐犯たちにも、念入りに口止めをしておいた。

そのため事件が公になることはないであろう。

「さて、オレは家に一度戻るとするか」

清掃員の仕事は、今日も朝一で終わらせていた。

だからオレの今日の終業時間は終了。あとは自由な時間である。

「そうだ。その前に、リリィの様子でも見に行くとするか」

街の商店街のパン屋で、聖女リリィが働き始めている。

帰宅のついでに、こっそりと見に行くことにした。

学園から商店街まで移動する。

昼過ぎということで、商店街は賑わっていた。

少し進んでいくと、目的のパン屋が見えてきた。

街角に身を隠して、パン屋の中の様子を確認していく。

「おっ、リリィいたな。頑張っているな」

パン屋の中で、黒髪の少女が働いている様子が見える。

彼女は元聖女であるリリィ。今はパン屋の見習い少女だ。

「なかなか忙しそうだな。それに重量労働だな」

パン屋と聞けば華やかなイメージがある。

だが実際にはかなり重労働だ。

朝早くから材料の準備。沢山の数のパンを焼いていく。

高熱の 薪(まき) オーブンの前で、長時間にわたって作業も必要だ。

また繁忙時間は、売り子の仕事もしかねればいけない。

見習いとはいえ、リリィも懸命に動いていた。

「それにしてもテキパキと動いているな、リリィのヤツ。たいしたものだな」

働き始めて間もないというのに、リリィは一生懸命に働いていた。

他の見習いの男子に比べても、何倍も効率よく動いている。

「あれも熱意があるからか? それとも、リリィの不思議が力のお蔭か?」

リリィには不思議な力があった。相手のことを見抜く感覚である。

「フェンのこともひと目で見抜いたし、勘がいいのかもしれないな」

恐らくは聖女として、何か特別な力があるのかもしれない。

勘がいいというか、普通の者には見えないモノが見えるのかもしれない。

「だがリリィが頑張っているのは、本人の意思の強さだろうな」

リリィは一生懸命に働いている。

文句をも言わずに懸命だ。自分の努力だけで、頑張っていた。

その姿は、見ているだけのオレも感名も受ける。

「さて、もう一方の奴は、ちゃんと仕事をしているかな?」

パン屋の裏の路地に、視線を向ける。

そこには一匹の白い子犬がいた。

「フェンも、ちゃんと仕事をしているようだな」

フェンの日中の仕事は、リリィの警護である。

何しろ彼女は大陸に一人しかない聖女。

今は死んだことになっているが、今後はどんなことが起こるか予想もできない。

だから 嗅覚(きゅうかく) と危険察知に優れたフェンを、パン屋の近くにいてもらったのだ。

パッと見は普通の野良犬しか見えない。

「さて。フェンのヤツをテストしてやるか……」

抜き打ち検査は大切。

オレは完全に消していた気配を、少しだけ解除する。

同時にリリィに向けて、微かな殺気を向けていく。

『⁉ グルル……』

直後、路地にいたフェンが反応する。

耳を立てて周囲を警戒した。オレの殺気に気が付いたのであろう。

店内にいるリリィを守るように、路地裏から店の前の通りに出てくる。周囲を索敵していた。

一見すると普通の野良犬の何気ない行動。

だが実際にはリリィを守る完璧な行動だった。フェンもちゃんと警備の仕事を全うしてしていたのだ。

《オードル、聞こえる? リリィを見ているヤツの気配がある。どこにいるか分からない。でも、ヤバそうな相手だから、来て!》

フェンから念話が飛んできた。

リリィの身を守るための連絡である。

自分の手に余る相手だと援護を求めてきた。これもオレの事前の指導の通りの対応だ。

(なるほど。満点に近い対応だな、フェン)

そんなフェンの行動を見て、オレは思わず嬉しくなる。

普段は食いしん坊な奴だが、ちゃんとリリィのことを警護していた。

これなら大概の敵が来ても、フェンなら対応してくれるであろう。

《聞こえているぞ、フェン。その嫌な視線はオレだ。だから安心しろ》

少し様子を見守ってから、オレはネタ晴らしをする。

フェンに念話を送って、大丈夫だと伝えておく。

《えっ? そうったの⁉ なんだー、オードルの意地悪!》

《まあ、そう言うな、フェン。これも鍛錬の一種だ。誰かを守ることは、戦うことよりも難しい。強くなりたいのなら、気を抜くな》

両親を殺した黒魔狼に、フェンは復讐を願っていた。

だから幼く弱い自分を変えようとしている。

そんなフェンのためにも、この抜き打ちのテストは効果的だと教えておく。

《そうだったんだね、オードル! よし、次はオードルの居場所を、ボクは見つけてやるんだから!》

理由を聞いてフェンは、やる気を出していた。

これまで以上に集中して、周囲を警戒している。

《ああ、期待しているぞ。じゃあ、オレは先に行っている。リリィのことは頼んだぞ》

《うん、任せて!》

フェンの頼もしい返事を聞いて、一安心する。こいつも白魔狼族の戦士として、確実に成長してきているな。

《……ふふふ……リリィは仕事終わりに、余ったパンをくれるから……今日も楽しみだな……》

フェンの煩悩の念話が聞こえてきた。

やれやれ、そういうことか。

随分と仕事熱心だと思ったら、食べ物のご褒美もあったのだ。

まあ、フェンもまだ幼い2歳の子ども。

楽しみながら警護することも必要であろう。見逃してやろう。

「さて、戻るとするか」

リリィとフェンの仕事っぷりを確認できた。家に戻るとするか。

「ん? あれはエリザベスか?」

そんな帰路の中で、エリザベスにばったり会う。彼女は浮かない顔をしていた。

「どうしたエリザベス? そんな顔をして?」

「うぅ、オードル……実は今日も仕事が見つからなかったのだ……」

不器用なお嬢様のエリザベスは、今日も就職活動を敗退していた。

剣を振るうことと、力仕事以外は得意ではないのだ。

「そろそろ、諦めたらどうだ?」

「諦めんぞ! 私だけ無職では長女として示しがつかいのだ! くっ……」

よほど悔しいのであろう。

涙目になりながらエリザベスは立ち去っていく。

「やれやれ。相変わらず元気なヤツだな」

学生のマリア。パン屋で働くリリィと警護のフェン。そして休職中のエリザベス。

こうして我が家の女性陣は、今日も元気であった。