軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アフターエピソード9:最後の決闘(後編)

戦鬼オードルと剣聖ガラハッドの二度目の真剣勝負、最後の決闘の幕が上がろうとしていた。

「さて。いくぞ、ガラハッド」

背負っていた剣から布を外し、オレは大剣を構える。

これは傭兵時代の愛剣。女鍛冶師ヘパリスの預けていた剣を、この日のために引き取ってきたのだ。

「おぉおお! その大剣は……もしや、この私のために用意を⁉」

「ああ、そうだ。“今のお前”相手に、出し惜しみはできない」

今回の決闘、オレは本気で挑む。

手にするのは自分の中で、最強の破壊力を誇る愛剣だ。

最近よく使っていた黒銀の腕輪の装備も、たしかに便利で強力。

だが古代文明の鉄巨人すら切断する、ガラハッドの剣技の前に、あの鎧ですら意味もない。

だから鎧は装備せず、大剣一本で剣聖ガラハッドに挑むのだ。

「有りがたき幸せ……私も最初から、“奥の手”で挑ませて頂きます!」

ガラハッドは腰から剣を抜く。

刀剣が真紅の金属の剣だ。

前回の魔女討伐の時には見ていない、新たなる剣聖の剣。

ひと目見て分かった。あれは普通の武器ではない。

「さすがオードルさん、お目が高い。これは“真紅の魔獣”から作り出した剣です!」

「真紅の魔獣だと? まさか、あの……」

「はい、あの“天位魔獣”です!」

“真紅の魔獣”は大陸の南方に、生息すると言われていた伝説の魔獣だ。

だが姿を見て生きていた者は、一人もいない危険な存在。

上位魔獣の更に上の“天位魔獣”とも言われている。

「“真紅の魔獣”は本当に強かったです。この私ですら何度も命を失いかけました。ですが私は諦めませんでした! 何故なら私に使命があったかです! オードルさんと再戦する、運命であり天命が!」

ガラハッドは叫んだ瞬間、剣が真紅の光を放つ。

明らかにガラハッドの闘気に反応していた。

「なるほど……魔剣という訳か、そいつは」

「はい、そうです。切れ味はこのとおり……保証します!」

ガラハッドは試しに、魔剣を一振りする。

ビュ、ザ――――ン!

試し振りした先の大気が……いや、空間が斬り裂かれていた。

信じられない能力。

“真紅の魔剣”は空間ごと相手を斬り裂く、凄まじい切れ味があるのだ。

「区間を斬り裂く魔剣の能力か。魔女討伐の時にあれば、便利だったな」

「ふっふっふ……そうですね。お蔭で今回は武器の性能は、互いにほぼ互角です!」

前回の決闘……ルーダ砦での戦いでは、オレは武器のハンディキャップを背負っていた。

だが今は互いに、最強の武器を装備している。今回はオレには武器のハンデはない。

「二年前か……当時と比べものにならないな、剣聖の圧は」

近くで対峙したからこそ分かる。ガラハッドの腕は二年前とは比べ物にならない。

あれから厳しい鍛錬を、剣聖は自分に課してきたのであろう。

「最強の剣士、剣聖か……」

今までオレが戦ってきた相手の中で、目の前の男は間違いなく最強。ガラハッドは“大陸最強の剣士”になっていたのだ。

「それに比べて今のオレは……二年前よりも弱くなっているのかもな」

「『オードルさん二年前よりも弱くなっているのかも』ですか? 冗談は止めて頂きたいものですね」

オレの独り言が聞こえたのであろう。ガラハッドは眉をピクリとさせた。

「オレは本気もつもりだが、冗談に聞こえたのか?」

「ええ、もちろんです! 前から思っていたのですが、貴方は自分の異次元の強さに、自覚がなさすぎます!」

オレの強さに対して、ガラハッドは崇拝者のように熱弁してくる。

「あの魔女との最後の戦いのことは、今でも私の目に焼き付いています。大地すら焦がす魔女の魔法の攻撃に対して、一歩も怯まずに進んで進んでいく戦鬼の姿を! あの時のオードルさんは、まさに人を超えた存在でした!」

魔女との最後の戦いとは、マリアの身体が乗っ取られて時のこと。

大事な娘を助けるために、オレは全ての武装を解除。無我夢中で攻撃に向かって前進していったのだ。

「あの時に私は思いました。傭兵としての最前線から、オードルさんは退いています。だからこそ“逆に身につけた強さ”があるのでは、と」

「“逆に身につけた強さ”?」

不思議な表現だった。思わず聞き返してしまう。

「そうですね。傭兵としての“武の強さ”ではなく、“誰かを守る強さ”と言ったところでしょうか?」

「なるほど、そういうことか」

ガラハッドの説明に納得する。

たしかに最近のオレは『家族を守る』という想いで、不思議で強力な力を発揮していた。

自分では弱くなっていたつもりが、以前以上の力を発揮していたのだろう。

「さて、お喋りはここまでにしておきましょう、オードルさん」

話終えて、ガラハッドは真紅の魔剣を上段に構える。

今まで以上の闘気が、全身から発せられてきた。

「そうだな」

対するオレも大剣を構える。

全神経を集中して、相手の動きに備える。

剣を構えた二人が向かい合う。

不気味なほどの静寂が、周囲の空間を支配している。

――――ついに決着をつける時がきたのだ。

「“剣聖”ガラハッド・リーベンバルト、いざ参る!」

「“戦鬼”オードル、いざ尋常に!」

こうして因縁の戦いが幕を上げるのであった。

戦鬼と剣聖の真剣勝負。

大陸でも最強の二人の戦士と剣士の戦い。

戦いは開幕から、激しい打ち合いにあった。

「斬り裂け、《真紅の魔剣》よ!」

まず先手を取ったのはガラハッド。

目にも止まらぬ剣速の連続で、オードルに次々と攻撃を加えていく。

「くっ……これは⁉」

オードルは愛剣を盾代わりにして、致命傷を避けることに専念。

オードルの大剣も特殊な魔獣の素材で作られていた。だからこそ《真紅の魔剣》に能力にも、耐えることが出来ている。

「さすがオードルさん! 今のを受けきりましたか!」

「次はこっちからいくぞ!」

相手のほんの一瞬の隙を見逃さず、オードルは反撃を繰り出していく。大剣が竜巻のように空気を斬り裂く。

「ふう……危ないところでした。さすがはオードルさん。つぎは、こっちの番ですよ!」

ガラハッドは寸前のところで、戦鬼の攻撃を見切り回避。反撃に移ろうとする。

「むむ⁉ この衝撃は⁉」

だが完全に回避したち後に、衝撃波がガラハッドを襲う。オードルが放った特殊な斬撃に、剣聖は吹き飛ばされてしまう。

「いくぞぉお、ガラハッドぉお!」

その隙を見逃さない。吹き飛んでいく剣聖に、オードルは強烈な追撃を加えようとする。

「かかりましたね、戦鬼!」

だがそれこそがガラハッドの狙いだった。体勢を瞬時に整えた剣聖は、魔剣の鋭いカウンターが繰りだす。

「かかったのは、そっちだぞ、剣聖!」

更にそれを先読みしていた、戦鬼によるカウンター返し。

両者はノーガードで衝撃を受けて、互いに吹き飛んでいく。

「くっくっく……さすがオードルさんですね。もはや人を超えていますね」

全身にダメージを負いながらも、不敵な笑みで立ち上がる剣聖ガラハッド。

「それは、こっちのセリフだ。この化け物め」

そう言いながらも、戦鬼としての笑みを浮かべるオードル。

「いくぞぉおお!」

「いきますよぉお!」

――――そこから斬撃と剣戟の応酬。両者は休む間もなく、次々と斬り込んでいく。

勝負は完全に互角であった。

剣技と剣速、回避能力で勝るガラハッド。

一方で攻撃力と反射速度、耐久力で勝るオードル。

空間すら切り裂く“真紅の魔剣”の剣聖。

超重量の大剣の圧力で、大地ごと吹き飛ばす戦鬼。

両者の戦闘スタイルと武器は正反対。普通なら全く噛み合わない決闘だ。

だが荒野で剣を振るう二人の剣士は、完全に歯車が合致。

二人は見惚れるほど美しく、そして激しく剣を交えていた。

二人が戦う光景は、まるで剣舞を行う二人の演者。

戦の神に最高の剣舞を献上する、戦巫女のように神々しい。

――――そして荒ぶる戦神の怒りのよう、両者の斬撃は激しかった。

静かな荒野に響き渡るのは、魔剣と大剣が激しくぶつかり合う金属音。

人間離れした闘気が放つ、異常なまでの斬撃術の爆発音。

――――そして二人の男の口から放たれる、獣のような叫びだ。

戦鬼と剣聖の決闘。

これはもはや決闘と、呼べるものではない。

二匹の強大な獣による、爪牙と咆哮の応酬戦。

地上最強のオスを決めるべき戦い。互いの肉体と魂の削り合いであった。

互いの闘気と体力は尋常でない。戦いは長期戦になっていた。

気がつくと両者とも全身の至る所に、傷を負っている。

凄まじい傷の数と深さ。普通なら致命傷になる攻撃を、互いに何度も受けていた。

だが、どちらも倒れることはない。両者の動きが鈍ることすらなかった。

信じられない現象が起きている。

開幕よりも二人とも剣速が上がり、技の精度が上がってきたのだ。

二人は戦いながら“進化”していた。

人生で最高の好敵手と出会い、互いに“新たなる門”を開き進化していたのだ。

“新たなる門”を開くと、人は未知なる領域に踏み込む。二人とも傷つきながらも、最高に気分に浸っていた。

――――それは戦士と剣士としての至高の状態。

この両者は若き時から“強すぎ”た。

そのために闘争心が完全に満たされたことは、今までなかった。

誰にも理解されてこなかった、絶対強者としての孤独。

凡人は理解できない悩みを今まで、互いに魂の底に抱えていたのだ。

――――だが“今”は違う。

目の前にいる相手は、互いに大陸最強の男同士。

今まで培ってきた自分の力をぶつけても、開眼した“新たなる門”の剣戟を加えても、未だに倒れない好敵手同士なのだ。

だから二人とも最高の時間を過ごしていた。

たとえ致命傷を負わされても、両者は口元に笑みを浮かべながら剣を振るっていた。

……『ああ……この至高の戦いの時間が、永遠に続いて欲しい』

その願いは両者とも共通であった。

――――だが万物に永遠はない。

長い至高の戦いの時間に、終焉を迎える時が来てしまったのだ。

「剣聖ガラハッットぉおおおおお!」

オレは獣のように叫び、斬り込んでいく。

すでに体力と闘気の限界に到達。両手の握力は無いに等しい。

「うぉおおおおおお!」

だがオレは叫びながら渾身の一撃を繰り出す。

これを外したら、もはや二撃目は出せない。魂のみで繰り出した、最後の一撃だ。

「戦鬼オードルぅううううううう!」

一方、相手のガラハッドも同じ状況。

自分の魂を削り出し、最後の一撃を繰り出してきた。

「ドリャァアアアア!」

「ウォオオオオオオ!」

もはや剣術も闘気術、先読み、何も無い世界だった。

残った気力だけで、剣を真っ正面からぶつけ合うだけだ。

――――くっ⁉

直後、目の前に真紅の刃が迫る。真紅の魔剣の刃先だ。

(ああ……オレは死んだな)

オレは死を覚悟した。

最後の打ち合いで、剣聖の執念が勝ったのだ。

見事だ、剣聖ガラハッドよ。素直に相手に敬意を払う。

(この勝負、悔いなし……)

オレは目を見開き、最強の剣士《剣聖》の姿を焼きつけようとする。

この男に負けるのであれば悔しさはない。むしろ死後の戦の世界で誇れることだ。

「…………」

だが、いつまで待っても、自分の死は訪れない。

「み、見事です……オードルさん……」

何故なら倒れたのは、ガラハッドの方。

ほんの刹那の差で、オレの最後の一撃が届いていたのだ。

「貴方に殺されたのなら、後悔はありません。むしろ誇らしくもあります……」

先に斬撃を受け、ガラハッドは後ろに倒れ込んでいた。

いつの間にか夕暮れに染まった空を、目を細めながら見つめている。

「楽しかったです、オードルさん……本当に楽しい、ひと時でした……」

「そうだな、ガラハッド。本当に楽しかったな……」

倒れ込んでいるガラハッドの隣に、オレは座り込む。こっちも満身創痍で、全身のいたる箇所が悲鳴を上げている。

だが、何とも言えない満足感で、気持ちは晴れ渡っていた。

「さて勝者の特権だ。こいつを使わせてもらうぞ、ガラハッド」

オレは懐から小さな小瓶を取りだす。

死に逝くガラハッドの首に刺して、液体を注入していく。

「こ、これは……身体が?」

「そいつは古代文明の回復薬だ。死なない限りは、回復できるらしい」

ガラハッドに注射したのは特殊な薬。

元黒髪の魔女カスミが密かに持ち出していた物を、オレが没収して念のために懐に忍ばせておいたのだ。

これでガラハッドが死ぬことはなくなった。

「私に生き恥を晒して生きていけ……ということですか、オードルさん?」

「いや、それは違う。今回はたまたまオレが勝っただけだ。だから次のための……だ」

「なるほど、そういうことですか……それなら私が更に腕を上げて、何年後、またオードルさんに再戦してもいいのですか?」

「ああ。楽しみ待っている」

こうして剣聖ガラハッドとの決闘は幕を閉じた。

「さて、みんなのところに戻るとするか」

戦鬼として戦いは終わり、オレは家族のいる平和な生活へ戻るのであった。