軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アフターエピソード:本当の最終話:戦鬼と呼ばれた男と、その家族と仲間たち

帝都に来てから一年が経つ。

マリアは大学の全てのカリキュラムを履修して、無事に卒業となった。

通常は最短でも四年はかかる大学を、たった一年間で卒業。

帝国大学始まって以来の快挙。

若干八歳での卒業も史上最年少の記録だ。

「さて、いくぞお前たち」

帝都に来たのはマリアの大学のため。

目的を果たして、我が家が引っ越す日がやって来た。

「パパ、楽しい一年間だったね……」

「そうだな。また、帝都に遊びにくるか」

オレとマリア、ニース。

エリザベスとリリィ、フェン。

いつものように家族全員で、帝都の屋敷に別れを告げる。

屋敷は皇帝から頂戴したもの。

管理も頼んでおいたから、たまに帝都に遊びに来るのもいいだろう。

その後、我が家一行は帝都の正門で、いつものように見送りを受ける。

マリアとニースのクラスメイトたち。

その中にはクラウディアの涙する姿も。

皆で別れを惜しんでいた。

リリィは修行先のパン屋の店主から、新たなる認定証を受け取っていた。

それがあれば、どこの街でもパン屋を開業できる認定証だという。

店主に感謝しながら、リリィは涙を浮かべていた。

今回のエリザベスは凄かった。

なんと帝国騎士団の精鋭が見送りに来たのだ。

彼女はこの一年間で、帝国騎士たちと剣の道を切磋琢磨していた。

誰にもがエリザベスの帰国を惜しみ、そして敬意を払い見送ってきた。

エリザベスも後ろ髪を引かれる想いで、再会を誓い合っていた。

「また、酒を飲もうぞ、戦鬼よ」

驚いたことに皇帝であるガルが直々に、オレの見送りに来た。

この一年間、帝国領内では色んな事件が起きた。

その解決の手伝いをしたオレに、ガルは感謝の贈り物を手渡してくる。

“永世手形”と書いてある書状。

何でも帝城に自由に出入りできる許可証だという。

「そうだな。気が向いたら、また遊びにくる」

個人的にガルは昔から嫌いな男ではない。

もしも相手に皇帝という地位がなければ、友として肩を並べていたかもしれない。

リッチモンドを交えた三人で酒を飲んだ時間は、悪い時間ではなかった。

「それでは、出発するぞ!」

いつまでも別れを惜しんでいることは出来ない。

帝都の者たちに見送られながら、オレたち一家は出発。

辺境の村へと帰郷するのであった。

故郷に戻ってからは、平穏な日を過ごしていく。

マリアは村の学校で、子どもたちに読み書きを教えていた。

ニースも幼いながらもマリアの手伝い。

二人で楽しそうにしていた。

リリィは村のパン職人の下で修業を再開。

自分の両親の味を再現しようと毎日、試行錯誤していた。

エリザベスはオレと村の作業の手伝い。

農作業や森林の開拓など、肉体労働に汗を流していた。

フェンは村の周囲の哨戒の仕事を。

帝都や王都の屋台の料理が食べたいと、たまに愚痴を漏らしていた。

仕方がないのでリリィやマリアに、料理を再現してもらう。

フェンは嬉しそうに食べていた。

こんな感じで村に戻ってからの数ヶ月は、平和に時間が流れていた。

本当にのんびりした束の間の休息の時間。

忙しかった我が家にとって大事なリフレッシュ期間だ。

それから更に月日が流れていく。

帝都を離れてから、ちょうど一年が経つ。

今、オードル一家は王都に住んでいた。

理由はマリアのため。

「パパ、学園に行ってきます!」

朝食を食べ終えたマリアは、元気に王国学園に向かっていく。

「ああ。通学路に気を付けていくんだぞ」

通学路……マリアは王国学園の教師として働き始めていた。

帝国大学での大発見と論文が評価されて、特別教員として王国学園に招かれたのだ。

九歳での特別教員の就職。

これはもちろん王国学園でも史上初のこと。

いや、大陸の学会でも類を見ない快挙だという。

「そういえば、パパ。聞いてよ。この間、マリアのクラスの生徒がね……」

マリアは毎日、楽しそうに仕事の話を教えてくれる。

今受けもっているのは初等学園のクラス。七歳から十二歳までの生徒に、教鞭をとっている。

九歳の少女が、自分より歳上の生徒にも授業を行う。

一見すると異質な教室の光景。

だがマリアの授業の評判は高い。

生徒からも信頼が厚く、『マリア先生!』と生徒に呼ばれている。

本人は恥ずかしそうにしているが、授業中のマリアは真剣そのもの。

もう立派な一人前だ。

「マリア様、またニンジン残していますね?」

「リリィお姉ちゃん……だって、マリアまだ子どもだもん……」

だが相変わらず苦手な野菜はある。

こういった年頃の子供らしいところもあり、マリアの良いところなのだ。

マリア以外の家族も元気にしている。

「マリア、まだお子ちゃま」

まずは四女のニース。

今は王都の王国大学に通っている。

七歳の合格は、もちろん王国大学で史上最年少の記録。

あまり表情を出さない彼女だが、毎日楽しそうに大学で勉強している。

「オードル、古代文明を勉強したい」

ニースは大学で古代文明を専攻している。

自分を生み出した古代文明について、真っ正面から向き合っていた。

たまに王都に出張に来たリッチモンドと、ニースは近隣の遺跡の調査に行くこともある。

リッチモンドでも舌を巻く考察で、ニースは驚かせているという。

もしかしたら古代文明の解明をするかもしれない。

「オードル様、私も行ってまいります」

リリィも元気にしていた。

毎朝、王都にあるパン屋に出勤していく。

「リリィのパン屋、なかなか好評らしいな」

「ありがとうございます、オードル様。忙しくて嬉しい悲鳴の毎日です」

リリィは王都にパン屋を開業していた。

数年間の修行を経て、ついに自分の店を出すことにしたのだ。

出店場所はダジル商店の隣の一階。

そして今の我が家はパン屋の二階に住んでいる。

リリィの焼く美味しそうなパンの香りが、いつも二階の住居に流れてくる。

週末の繁忙日は、家族でパン屋の手伝いもしていた。

学業と仕事の合間に、ニースとマリアも売り子姿だ。

「オードル様。試作を食べてください!」

店を営業しながらリリィは、自分の故郷のパンの再現に挑戦していた。

今では何個かのレシピ化に成功。

リリィの店で商品化したところ、王都でも大好評を博していた。

このまま順調にいけば、いつか両親の思い出の味も完全に再現できるであろう。

「オードル、私も城に行っているわ!」

エリザベスも元気にしていた。

彼女は毎日のように王城に通っている。

目的は父親であるレイモンド王と、弟のチャールズ王子の仕事の手伝いだ。

「そういえば、オードル。最近、王国騎士団も少しはマシになってきたわ」

彼女が担当するのは王国騎士団の再興。

数年前から低迷していた騎士団を、徹底的に鍛え直している。

「王国軍は無駄なものが多すぎたのよね。もう少しスリムにしていくべき」

エリザベスは帝都時代に帝国式の軍務も学んでいた。

そのお陰もあり王国軍を次々と改革していっている。

以前は身分のある者しか、王国軍には入隊できなかった。

だが改革後の今は、市民なら誰でも入隊可能。

それにより素質のある青年が多く入団。

王国軍は以前よりもたくましい存在になっていたのだ。

「次期、女王ですって? 柄じゃないわ。それに私はオードル一家の長女だからね!」

そんな改革者エリザベスを次の女王に推す声も多い。

だが彼女はあくまでも弟チャールズの顔を立てていた。

とにかくエリザベスは充実した日を送っている。

『ワン、ワン!』

もちろんフェンも元気にしている。

毎日、マリアとニースの警護に余念がない。

そういえば数ヶ月前、フェンは新しい白魔狼族の仲間を見つけていた。

何でも北西部に住んでいる、遠い親戚にあたる一族だという。

これでフェンも同族と幸せに暮らしていく……誰もが覚悟していた。

『ワン!』

だがフェンは王都に残ることを決断。

大事な同族よりも、オードル一家の末っ子として生きていくことを選んだのだ。

別れを覚悟していたマリアとニースたちも、これには大喜び。

今まで以上に仲良く遊んでいる。

『ワン……』

そうか、フェン。

お前も嬉しいのか。

『ワン!』

“人の街の方が美味しい食べ物が沢山あるからね!”か。

相変わらず、フェンはフェンだな。

まぁ、これからよろしく頼んだぞ。

こんな感じで我が家は全員、王都で元気に暮らしていた。

今回の王都滞在はどのくらいの期間になるか、まだ分からない。

数年間かもしれないし、もしかしたら一年間だけかもしれない。

マリアの今後の研究によって、我が家の住む街は決まっていくであろう。

そういえば我が家以外の連中も、元気にしている。

「おい、オードル! この仕事を手伝ってくれんか⁉」

隣の商店から、二階にいるオレに声をかけてくるのは大家ダジル。

人手が足りない時に、いつも仕事を持ってくるのだ。

特に予定がなければオレも手伝う。

大家としてダジルにはこれから世話になるからな。

「そういえばワシの可愛い孫の顔を見に来るか?」

人使いの荒いダジルも孫娘たちには甘い。

商店に遊びに来た孫たちにメロメロだ。

この分では当分は孫の自慢話は続きそうだ。

「ちょっと、オードル。この事件なんだけど」

黒髪のアイラは、今もダジル商店でエージェントとして働いていた。

たまに難易度の高い事件は、オレにも相談してくる。

「えっ……マリアの誕生会の招待状⁉ 私が参加してもいいの……?」

最近、アイラはマリアと普通に接することが出来るようになってきた。

相変わらず当人は遠慮している部分がある。

だがマリアの方はアイラのことを、お気に入りのお姉さんとして頼っていた。

家族の誕生日パーティーに友人の一人として、アイラも顔を出すようになっている。

今では我が家の親戚のような存在だ。

「えっ。大商人から結婚の申し込み?」

そういえばダジル商店で働くアイラは、王都の有力者から人気があった。

アイラの年齢は三十代前半だが、見た目は二十代前半にも見える若々しさ。

それに東方出身の美しい女性は、王国では神秘的とされているのだ。

「悪いけど今はそんな気分じゃないの」

だが、どんな有力者からの求婚も、アイラは断っていた。時には貴族からの申し出も丁重に断っていた。

「それに今の暮らしも気に入っているから」

アイラが生涯を独身で貫くのには、マリアの存在があるのかもしれない。

悪い意味ではなく、マリアと接する時のアイラは本当に優しい顔をしている。

「くっくっく……オードル、この道具を見てくれ!」

女鍛冶師ヘパリスも王都で元気にしていた。

時おり新作の道具を開発して、試作品としてオレに持ってくる。

前までは工房に引き籠っていた彼女だが、最近はよく我が家に来るのだ。

「驚いただろう、オードル⁉ これはアイラが持ってきてくれた魔道具を改造したものなんだよ!」

最近、ヘパリスが作ってくる物は、魔道具関係が多い。

アイラが発見した古代文明の発掘品を、ヘパリスが現代用に改造しているのだ。

女二人で危険なことをしているな、まったく。

武具ではなく日用品がほとんどなので、オレも目をつぶって試作に付き合っている。

「オードル殿、来年度の王国の軍事についてですが……」

エリザベスの実の父親、レイモンド王も元気にしていた。

たまにオレの元を極秘に訪れて、王国の政策について相談してくる。

「ありがとうございます。そういえばオードル殿、我が娘エリザベスももうすぐ二十歳……そろそろ……」

レイモンド王は相変わらず、エリザベスとオレと結び付けようとしていた。

だが毎回断っている。何しろオレにとってエリザベスは娘のような存在なのだ。

「なるほど。それなら妙案が。オードル一家の皆さんが、我がレイモンド家に入れば、戸籍的にもエリザベスはオードル殿の娘になります! そうなればオードル殿にも王位継承権が!」

レイモンド王の提案は適度に流しておく。

何しろオレは国王の器ではない。

今の市民の暮らしが丁度いいのだ。

「オードルおじ様! 今日も剣の稽古をお願いします!」

そんなレイモンド家の屋敷で、剣の稽古を願ってくるのはチャールズ。

以前は病弱だった王子が元気になっていたのだ。

「ボクの病が治ったのも、オードルおじ様のお陰です。本当に感謝しています!」

今から二年程前、オレが帝都に住んでいた時、ある秘薬を手に入れた。

特殊な上位魔獣の体内からだけ精製できる、希少な万能薬だ。

帝国領内の魔獣討伐の後に、病弱なチャールズに飲ませてみた。

そのお陰でチャールズは普通の暮らしが出来るようになっていたのだ。

「オードルおじ様、聞いてください。先日の騎士見習いの訓練で、ボクが一番になったんです! これもおじ様のお陰です!」

チャールズに稽古をつけ始めたのは、王都に越してきた一年前から。

元気になったこの王子は、急激に剣の腕を上げていた。

エリザベスの弟ということもあり、元々は剣の才能があったのであろう。

中でも相手の動きを先読みする才能は、姉以上。

もしかしたらチャールズは将来、大陸でも屈指の剣士になるかもしれない。

「ボクはとにかく王国の民のために、役に立つ存在になりたいんです……」

王位継承権的に次の国王はチャールズ。

誰よりも他人のことを案ずるこの王子なら、将来は立派な国王になるであろう。

今の王国は大きな戦がない平時。

レイモンド王が望むオレのような乱世の英雄は不要な時代なのだ。

「マリアさん、ニースさん、こんにちはです」

伯爵令嬢のクラウディアはたまに我が家に遊びにくる。

今、彼女は王都の花嫁学園に通う生徒。

親友であるマリアとニースと、また一緒に街に住むことができたのだ。

「オ、オードルおじ様。このケーキ、良かったら食べてみて下さいませ。私、頑張って作ってまいりましたの……」

花嫁学園でクラウディアは料理と家事、お菓子作りなどを学んでいる。

たまに試作品をオレに個人的に差し入れてくれる。

形はまだ不安定だが、味はなかなかだ。

「お、美味しいですが⁉ 本当ですか⁉ ありがとうございます……」

クラウディアも今では十歳。令嬢として乙女らしくなってきた。

マリアとニースとも、今後は大事な親友でいてくれるであろう。

「ねぇ、オードル。伯父様の保養所に行ってきたんだけど……」

エリザベスの言う伯父とは、ルイ前国王のこと。

今あの男は実家の田舎がある保養所で、静かに暮らしていた。

激務の王職から離れて、気が抜けてしまったのであろう。

最近は少し痴呆も入っていた。

自然に囲まれた保養所で、静かに幸せそうに暮らしているのだ。

「オードル、久しぶりだね。帝都土産だ」

王都に久しぶりにやってきたのは旧友リッチモンド。

今この男は帝国大学の教授であり、王都学園の理事。

同時にルーダ学園の理事で、更に古代文明の帝国王国協同研究所の所長。

とにかく大陸中を常に動き回っているのだ。

「そういえば一ヶ月前に、東の方で新たな遺跡を発見したんだ!」

リッチモンドの専門は古代文明。

新たな遺跡の調査の時は、オレも手伝うことにしていた。

今のところ前回のような危険な遺跡は見つかっていない。

だがアイラの記憶では大陸のどこかに、まだ稼働可能な遺跡も存在しているという。

今後もリッチモンドと共に危険を排除していく。

「あと、彼女……ヘパリスへのプレゼントのことなんだけど……」

彼女、そう、リッチモンドと女鍛冶師ヘパリスは良い仲になっていた。

古代文明の金属の加工をきっかけにして意気投合。

いつの間にか恋人同士になっていたのだ。

これには流石のオレも驚いた。

何しろ賢人であるリッチモンドは立派な体格ではない。

一方で大陸屈指の鍛冶師ヘパリスは、美しい顔だちだが見事な体躯。

二人が並ぶとアンバランスな見た目なのだ。

「オードルは女心が分かってないわね? 互いに無いものを魅力的に感じるのよ?」

二人を仲介したのはアイラが、そう言っている通りなのかもしれない。

大事なのは見た目や肩書ではない。

二人の感性が大事なのであろう。

とにかく色恋が苦手なオレは、このカップルは遠くから見守っておくだけだ。

「戦鬼よ、久しいな」

リッチモンドの訪問の後に、皇帝ガルが我が家をお忍びで訪ねてくる。

何でも王国と帝国の友好同盟の延長調印式で、王都を正式に訪問していたという。

たった二人の護衛だけしか引き連れて来ないお忍びの訪問。

皇帝ではあり得ない非常識だが、この男は今も腕利きの剣士。

王都の治安なら問題はないのであろう。

「さて、戦鬼よ。帝都から美味い酒を持ってきたぞ」

ガルの目的はオレと酒を飲むこと。

リッチモンドを加えた三人で、我が家のリビングで晩酌だ。

「オードル殿、失礼する……おや、これは……」

さらにそんな酒盛りのタイミングで、今度はレイモンド王がお忍びでやって来た。

まさかの場所で皇帝ガルと顔を合わせて、互いに苦笑い。

「それでは私も一杯頂こうとするか」

話の流れでレイモンドも飲み会に参加。

大陸の二大国家の当主二人が、我が家の庶民的なリビングで酒を注ぎ合う。

両国の重鎮がこの光景を見たら、気絶してしまうかもしれない異様な事態。

だが我が家には身分の差を気にしない家訓がある。

マリアとニース、そしてフェンという末っ子三人軍団は、両国の君主に楽しそうに遊んでもらっていた。

「おい、オードル。美味そうな匂いじゃのう? 一体何の宴じゃ?」

「くっくっく……オードル、この魔道具なんだけど……」

大家ダジルと女鍛冶師ヘパリスが、同じタイミングで訪ねてきた。

無類の酒好きの二人は、帝国の美酒が飲めるとあって参加することになる。

「ほほう。オヌシがリッチモンドの噂の恋人とは。この男は学生時代から色恋には疎かったが……」

「へー。それは初耳。それにガルだっけ? あんたも皇帝にしておくには惜しい武人だね。必要ならいつでもアタイが剣を作ってあげるわ」

「ふん。この偏屈な女鍛冶師が気に入るとは、皇帝も悪くないのう」

「ちょ、ちょっと、ヘパリス、それにダジルさんも。ガルは皇帝なんだから、もう少し言葉に気を付けないと……」

「気にするな、リッチモンド。この戦鬼の家の中では、身分のことは無し。余は……今のオレは一人の男ガルだ」

無礼講の飲み会の雰囲気は悪くない。

誰もが本音で語り合い、親交を深めていた。

「身分や肩書もなくても、これほどの場を設けられるとは、さすがはオードル殿。今は乱世でなくとも、やはりオードル殿は我が王国を背負って立つべき存在ですな」

「王国を背負って立つだと、レイモンド王よ? それは困るな。何しろこの戦鬼は、いずれ我が帝国の皇帝となるべき男。我が息子とのマリア嬢との婚姻をもって、余は戦鬼に皇帝の座を譲るつもりだ」

「それは困る、ガル皇帝。何しろオードル殿に先に目を付けたのは私の方。エリザベスを王妃として迎え、オードル殿を我が王国の新たな王として戴冠させようと考えているのだ」

両国の二人の君主が、なんとオレをトップの座に据えようと本気で競い合っている。

酒の席とはいえ、なんとも壮大な話だ。

リッチモンドは横で呆れ笑い、ヘパリスとダジルは酒を煽りながらそれを面白がっている。

はあ……こいつらは俺の家を何だと思っているんだ、まったく。

だが、こんな飲み会もたまには悪くはないな。

そんな平穏な王都での毎日。

今日は休日で家族が全員家にいる日だ。

だが、その時、家の外が騒がしくなった。

玄関を叩く音がし、門番を務めていたフェンが念話を送ってくる。

《オードル、大変だワン! 王城から、また慌てた使者が来たワン!》

何かと思えば、今度は何事だ?

「申し訳ありません、オードル様!」

玄関先に現れた王国騎士団の使者が、汗だくで平伏する。

「王都の北東、未踏の荒野に……『正体不明の遺跡』が出現いたしました! 何者も近づけず、調査もままならない異常事態で……申し訳ございませんが是非ともお力を貸してもらえたら……」

その言葉を聞いた瞬間、リビングの空気が一変した。

いや、エリザベスは興味津々に耳を傾けて、マリアたちも「遺跡?」と興味津々に身を乗り出す。

「遺跡……? 古代の……?」

マリアの瞳が、黄金色に輝き始める。

帝国大学での研究を終えた今、彼女にとって遺跡は恐ろしい場所ではなく、知的好奇心を刺激する最高のお宝だ。

ニースもまた、古文書を読み耽る時のような真剣な眼差しで、地図を広げ始める。

「遺跡……面白そう!」

マリアのその言葉に、オレは思わず肩をすくめる。

せっかくの休日だというのに、どうしてこうも面倒事は向こうからやってくるのか。

「パパ、マリア行ってみたい! どんな秘密があるか調べてみたいよ!」

娘のキラキラした瞳。

そして、冒険の匂いを嗅ぎつけたのか、嬉しそうに尻尾を振るフェン。

エリザベスはすでに出発の準備をしている。

ニースとリリィも荷物をまとめていた。

エリザベスも、騎士団の改革で鈍った腕を鳴らすかのように、腰の剣に手を置く。

リリィさえも、エプロンを外し、冒険の準備を整えようと腰を上げる。

オレは、そんな家族を見渡した。

娘たちの好奇心、姉妹たちの決意、そして何より、自分自身がかつて「ただの旅人」であった頃の冒険の血が騒ぐのを感じる。

「やれやれ……せっかくの休日だというのに、どうしてこうも面倒事は向こうからやってくるのか」

オレはそう言って、わざとらしく溜息をついた。

だが、その表情には隠しきれない笑みが浮かんでいる。

かつては血に染まった戦場に引きずり込まれた。だが今は違う。これは自分たちが「選ぶ」冒険だ。

「……仕方ないな」

オレは立ち上がり、家族の輪の中心で力強く宣言する。

「準備はいいか? みんなで、調べに行くか!」

その言葉に、家族全員が今日一番の笑顔で応える。

(さて、家族みんなで行くか…)

こうして戦鬼と呼ばれた男と、その家族たちの新しい冒険の幕が、いま再び上がるのであった。

【完】