軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アフターエピソード8:最後の決闘(前半)

マリア誘拐事件から、月日が経つ。

帝都でのオードル一家は、順調に暮らしていた。

愛娘マリアは相変わらず楽しそうに、帝国大学に通っていた。

そういえば研究している分野で、マリアは大きな発見をしそうだという。

詳しくは知らないが、リッチモンドが大興奮しているのだから、かなりの発見になるのかもしれない。

もしかしたら大陸の歴史を、変える大発見に。父親として今後も楽しみだ。

末娘ニースも順調に上位学園に通っていた。

毎日、マリアとクラウディアと三人で、楽しそうに登下校していた。

ニースは勉強だけではなく、運動も優秀。

上位学園の運動会、徒競走とリレー競技で一位を取っていた。

他の三人も順調だった。

リリィは帝都のパン屋での修行の毎日。

最近はリリィの焼いたオリジナルパンが、店頭に並び女性客に人気を博していた。

帝都ではちょっとしたブームも起きているという。

エリザベスも帝国騎士団での修行の日々はげんでいる。

猛者ぞろいの帝国騎士団の中で、ついにトップ五に食い込む快挙を成し遂げた。

皇帝ガルもエリザベスのことを大層気に入っているという。

最後にフェンも元気にしている。

相変わらず食いしん坊。

どこにいってもマイペースな日々で、ザ・フェンな毎日だ。

そしてオレも元気にしていた。

今は帝都から少し離れた、ひと気のない草原に来ている。

「さて、待たせたな、ガラハッド」

「いえいえ。私もちょうど今着いたところですよ、オードルさん」

ここに来たのは、ガラハッドから招待を受けたため。この剣聖に会うのは久しぶりだ。

「そっちの準備は万全か?」

「ええ、もちろんです! 今日が楽しみ過ぎて、ここ数日は興奮が止まりませんでした!」

たしかにガラハッドの調子は、見たところ良さそうだ。

全身から放たれる闘気は穏やか。だが真剣のように研ぎ澄まされている。

剣士として気力体力ともに、今は最高の状況なのであろう。

「オードルさんの方も、相変わらず元気そうでね?」

「ああ、そうだな」

一方でオレの調子も良い。

現役を引退したとはいえ、傭兵時代から体調管理は常に欠かしたことはない。

「おい、オードル。それにガラハッドも。二人とも、本気なのか?」

この草原には三人の男がいた。

三人目の男、リッチモンドは静かに訪ねてくる。いつになく神妙な顔つきだ。

「もちろんです、リッチモンドさん!」

「ああ、そうだな。すまないが、リッチモンド。立会人の役目は頼んだぞ」

オレは今日、ここにガラハッドと決闘をしに来た。

一緒に連れてきたリッチモンドは、行く末を見守る立会人だ。

今日ばかりはエリザベスも置いてきた。

この草原の周囲には、誰も邪魔する者はいないのだ。

だが立会人であるリッチモンドは、まだ納得してない顔。

「ボクは学者だから君たち戦士のことは、よく分からない。どうして今さら決闘する必要なんてあるんだい⁉」

数日前に立会人を頼んだ時から、リッチモンドは渋い顔をしていた。

なんの生産性のない決闘に対して、学者として反対していたのだ。

リッチモンドの話は続く。

「一年前の魔女討伐の時も、キミたち二人は、あんなに協力し合ったのに⁉ どうして決闘……殺し合いをする必要があるんだい⁉」

リッチモンドの言うことも一理ある。

オレとガラハッドは最初、敵同士で出会い、ルーダ砦で剣を交えた。

だが、その後は協力している。

特に魔女討伐の時は、互いの背中を預け合い共闘した。

あの時は正直なところこの剣聖は、最高の相棒だった。

オレたち二人でなければ黒髪の魔女は、倒すことは出来なかったであろう。

「リッチモンドさん、その問いに答えましょう。たしかにオードルさんとの共闘は、大変素晴らしいひと時でした。ですが私にとって大事なのは、今日のため! オードルさんと雌雄を決する、この今こそが剣士である私にとっては、何よりもの生きがいなのです!」

ガラハッドは声を高め答える。

強者と剣を交えることは、この剣聖にとっては何より重要なこと。

たとえ一時の仲間であろうが、その強い目的は変わらないのだ。

「そんな……だったら、オードル! 君には戦う理由はないよね⁉ だって、今のキミは普通の市民であり、傭兵は引退したんだろう⁉」

ガラハッドの説得を諦め、リッチモンドはオレの方に視線を向ける。

「そうだな、リッチモンド。たしかにオレは傭兵を引退した」

「だったら!」

「だから今日は“一人の男”して、ここに来た。剣聖との“約束”を守るためにな」

魔女討伐の戦いの前、剣聖ガラハッドと約束をしていた。

……『戦いに終わったら決着をつけてやる』と、古代塔の付近で誓っていたのだ。

「だから今回の決闘は、マリアたちのために、オレは行う」

結果としてガラハッドの尽力がなければ、マリアとニースを助けることは出来なかった。

だから傭兵としてではなく、一人の男として今回の決闘に応じたのだ。

「たしかに、オードル。あの時はそうだったけど……でも、今、二人が本気で戦ったら……」

眉をひそめるリッチモンドの読みは正しい。

今のガラハッドの実力は、二年前のルーダ砦で対峙した時の比ではない。

あの時はオレが僅差で勝利していた。

だが今の剣聖とオレとの実力差は、ほとんど皆無であろう。

本気で戦ったら、手加減など出来ない相手なのだ。

――――つまり決闘は“どちらかの死”で終わる可能性が大きいのだ。

「そんな、どちらか死ぬなんて⁉ 互いの剣聖の称号や、家族がある身なのに……」

「ご心配には及びません、リッチモンドさん。私は天涯孤独の身。今日ここで命の火が消えようとも、誰も悲しみません! むしろ、ここで決闘が行われなければ、私は剣聖の称号を捨て、自害する覚悟できています!」

ガラハッドの決意は本物だった。

今まで自分が築き上げてきたモノを、全てを捨てる覚悟だ。

剣聖ガラハッドとしてではない。

たった一人の“剣士ガラハッド”として勝負に臨んでいるのだ。

「オレの方も心配無用だ、リッチモンド。勝てる保証はないが、わざわざ死に来てはいない」

「でも、オードルにもしものことがあったら、マリアちゃんたちが……」

今回の決闘のことは、家族には内緒にしてきた。

何故なら我が家の女性陣は、心配性が多い。

特にエリザベスが教えたら、この場に押しかけてくるに違いない。今ごろは帝都でオレを探している最中だろう。

「アイツ等なら大丈夫だ。ああ見えて、オレの家族はたくましい」

万が一のことが起きて、我が家は立派に生きていける。

オレが残してきた財産があれば、学費や生活費も問題はない。

しっかり者のリリィと頑張り屋のエリザベスが、妹たちを立派に育てていくであろう。

オレが急にいなくなっても大丈夫なようにこの数年間、育ててきたつもりだ。

「でも、オードルが……」

「心配するな。さっきも言ったが、オレは死ぬつもりはない。立会人を頼んだぞ、友よ」

「…………ああ、分かったよ」

リッチモンドは少し間をおいて、了承してくれる。

決闘に関しては、今でも反対なのであろう。

だからこそ大事な友として、立ち会う覚悟を決めてくれたのだ。

「さて、待たせたな、ガラハッド」

「いよいよ、ですね、オードルさん」

オレたちは向かい合う。

リッチモンドは安全な丘の上に退避していく。

この場所ならオレたち二人が、全力で戦っても他に被害はでない。

こうして戦鬼オードルと剣聖ガラハッドの二度目の真剣勝負、最後の決闘が幕が上がるのであった。