作品タイトル不明
第110話:古代の館
マリアとニースの後を追い、天空に浮かぶ遺跡に転移。
だがオレたちの前に、危険な守護者“パルマの鉄人兵”が立ちはだかる。
剣聖ガラハッドとの共闘で何とかと討伐。
マリアたちの気配がある、不思議な古代の屋敷に入っていくのであった。
「入るぞ、気を付けろ」
オレが先頭となり、玄関から中に入っていく。
今のところ危険は感じない。
「おお……これは凄い。これが古代文明人の暮らしなのか⁉」
屋敷の玄関ホールに入って、リッチモンドが声を上げる。
目の前に広がっている光景に、目を見開いて感動していた。
「これは当時のままなのか」
玄関ホールの調度品を調べて、オレも驚く。
古代文明は今から数百年前の文明も。
だが驚いたことに、調度品の全てが劣化していないのだ。
まるで屋敷の時間が止まったよう。
ホコリもたまらず現存しているのだ。
「まるで時間が止まったようだな、この空中遺跡自体が」
ここに来る道中の庭園や景色も、明らかに異様であった。
普通は人の手が加えられていなければ、雑草や大樹に呑まれているはず。
だが空中遺跡の全ては異様。
まるで古代のまま時間が止まっている、かのように存在しているのだ。
「『時間が止まった遺跡』……面白い表現ですね、オードルさん」
ガラハッドは特に古代遺跡には興味はない。
そんな剣聖ですら、この異様な現象を面白そうにしている。
「凄いわね、この芸術品の質。王宮でも見たことがないわ」
「そうですね、エリザベス様。この品も大聖堂でも見たことがありません」
『ワン!』
エリザベスたちも同様。
まるで夢の中いるように興奮していた。
「お前たち、そろそろ先に進むぞ」
だが今は古代文明の観光に来たわけではない。
マリアとニースを救いだすために、先に進む必要がある。
「リリィ、二人を感じるか?」
「オードル様、こちらの廊下の先に、二人を感じます」
リリィの聖女としての力が、行く先を示してくれる。
残念ながら闘気術で五感を強化しても、二人の気配は感じられない。
フェンの嗅覚でも追跡不能。
おそらく魔女の力で妨害されているのであろう。
これだけ大きな屋敷だと部屋を 虱潰(しらみつぶ) しで、調べていくだけでも時間がかかる。
今回ばかりは本当にリリィは有りがたい。
「わ、私だって戦いになったら役に立つわ、オードル!」
『ワン!』
エリザベスとフェンが張り合って、声を上げてくる。
そうだな、いざという時は、頼りにしているぞ、お前たち。
「さぁ、奥に進むぞ」
マリアたちのいる方向は分かった。
オレを先頭にして、館の中を進んでいく。
警戒をしながら進み、屋敷の廊下を進んでいく。
途中の別の部屋の扉もある。
だがマリアたちの位置は更に奥の場所だ。
「なぁ、オードル、この部屋の中を調べてみても……」
古代文明への探求心を、抑えきれないリッチモンド。
「ダメだ。時間がない」
部屋を一個一個調べていったら、リッチモンドは数年はかりそうだ。
今は時間が惜しい。
途中の部屋は全て無視していく。
「オードル様、この先です」
リリィの案内で、長い廊下を進んでいく。
そして突き当りに到達。
大きな扉のある広間にたどり着く。
「リリィ、この先か?」
その扉だけ、今までとは異質な雰囲気だった。
材質も普通ではない。
金属に似ているが金属とも違う。
先ほどの鉄人兵の装甲に少し似ている。
「はい、オードル様。この奥から感じます」
「そうか。開けるぞ。注意しろ、みんな」
オレの五感も何かを感じていた。
ここから先は特別な空間なのであろう。
これまで以上に警戒しながら、重い扉を開けていく。
「ん? ここは……」
扉を開けた先は、予想以上に不思議な空間であった。
今まで屋敷のように、人の住んでいた痕跡はない。
壁や天井は人工物だが、洞窟のような質感もある。
どこにも窓もなく地下室のような暗さ。
ところどころ壁が発光しているが、奥までは見渡せない薄暗さ。
まるで人工の迷宮のようだ。
「オードル様、ここの先に二人と、魔女の気配が……」
「そうだな、リリィ。いよいよ、魔女の住処という訳か」
リリィに教えてもらうまでもない。
オレの直感も告げていた。
この先に危険な魔女がいる……と。
「さて、お前たち。ここから先は後戻りできない。出来れば、ここでオレの帰還を待っていろ」
鉄の扉の前で、全員に確認をする。
今までとは違い、ここから先は明らかにした異質な空間。
どんな危険が待ちかまえているか、このオレでも予想できないのだ。
「オードルの帰りをここで待っている、ですって? 面白い冗談ね! もちろん私は最後までオードルに付いていくに決まっているでしょ! 魔女と戦うことは出来なくても、マリアたちを助けるサポートくらいは出来るわ!」
最初に声を上げたのはエリザベス。
魔女に受けたダメージが残り、まだ体力は完全に回復していていない。
だがマリアとニース……妹二人のために覚悟を決めていた。
「そうか、エリザベス」
エリザベスが付いてくれるのは、正直なところ有りがたい。
直接的な魔女との戦力には当てにできない。
だが大事な役目を頼める。
オレが魔女を引きつけている間、マリアたちを救出してもらいたいのだ。
「私は戦うことは出来ません。ですが聖女として……いえ、オードル一家の一員として最後までお供いたします!」
続いてリリィが声を上げる。
天神に仕える彼女は、本来は争いごとを好まない。
だが大事な家族を助け出すため。
自分の持てる全ての力を使おうとしていた。
「そうか、リリィ」
今、正直なところリリィの存在は大きい。
この先はどんな危険な罠が待ちかまえているか予想もできない。
聖女の力を発動させているリリィは、本当に頼りになる。
『ワン……ワン!』
フェンも声を上げる。
食いしん坊で気分屋の白魔狼の小さな魔獣。
だからこそ小さなマリアとニースと、いつも遊んでいた。
こいつとって二人は家族であり、大事な友だち。
『ワン!』
「そうか、フェン」
いつになく真剣な鳴き声で、フェンも覚悟を決めていた。
本当に頼りになる奴だ。
「はっきりと言って、ボクはこの中じゃ一番役に立たない。でもマリアちゃんは大事な生徒だったからね。まぁ、あと古代文明に対する好奇心もあるけど」
リッチモンドは相変わらずだった。
下手する魔女に、その命を狙われる可能性がある。
だがそれ以上に探求心と好奇心が、恐怖の何倍も勝っているのであろう。
「そうか、リッチモンド」
謙遜しているが、リッチモンドの同行は有りがたい。
何しろ魔女の使う術に、普通の戦術は通じない。
古代文明の研究者として、この男との積み重ねた知識が頼りになるのだ。
「ふふふ……愚問です。たとえこの身が半分に裂かれたとして、今の私は怖くはありません。なぜなら“あの戦鬼”と肩を並べて、最後の時を迎えようとしているのですからね!」
最後にガラハッド。
この男が何を考えているのか、誰も分からない。
だがオレだけは感じていた。
上手く言葉にできない。
「そうだな、ガラハッド」
この剣聖は自分の生きる道……新たなる人生を模索しているのかもしれない。
それが何なのか、言葉では説明はできないが。
「これで全員。つまり全員付いてくるということか」
脱落者は一人もいなかった。
誰もが自分の意思で決断していた。
強い覚悟で、清々しい表情で、この場所に立っている。
本当に頼もしい家族、そして仲間たちであった。
「こんなオレに付いて来るとは、お前ら、本当にバカな奴らばっかだな。まったく誰に似たのやら」
これから向かうのは予想も出来ない危険な地。
立ち塞がるのは人外の魔女。
戦鬼と呼ばれたオレですら、生き残る可能性は少ないであろう。
それなのにお前たちは。
「誰に似たって……も、もちろん、オードルによ!」
「そうですね。オードル様の影響ですわ」
『ワン!』
「まぁ、昔からオードルには、ボクも影響を受けまくっていたからなー」
「ふふふ……愚問ですね」
全員が一誠に口を開く。
誰もが笑みを浮かべていた。
まったくこいつらときたら……緊張の欠片もないのか。
だがお蔭で助かった。
オレも肩に入っていた無駄な力が抜けた。
「よし、それではいくぞ!」
こうしてオレたちは最後の地へと向かうのであった。