作品タイトル不明
早すぎる再会
武闘大会が終了すると、王宮で祝賀会が開かれる。
これは貴族だけの集まりではなく、騎士の家族も招待されるという特殊なパーティーだ。
もしかしたらヴィルオルも参加しているかもしれない。
そう思って不参加のつもりだったが、武闘大会で優勝し、上機嫌な父に抱っこされ、会場まで連れて行かれてしまった。
廊下が冷えて寒いと言えば、マントで体を包んでくれる。
そういう配慮ができる人だったのか、と父の新たな一面を知った。
父を振りほどくこともできたのだが、休憩室で眠るディルクを連れていかなかっただけマシだと思って大人しくしていたのだ。
会場に到着すると、父はあっという間に人々に囲まれ、今日の戦いの賞賛を浴びていた。
父はまんざらでもない、という様子で話に応じている。
「そちらのお子さんは、もしやリウドルフィング公爵家の跡取りで?」
「いや、この子は長女で、跡取りは一歳になる長男なんだ」
「はあ、そうでしたか」
父のマントで半身が隠れていたので、着ているドレスが見えていなかった。加えて私は父似で男顔でもあったので、勘違いしてしまったのだろう。
私達が跡取りでないと聞いて、周囲の人々からのがっかりしたような空気が伝わってくる。
父が武闘大会で優勝し、将来有望な跡取りについての話を聞きたかったのだろう。
期待に堪えられず、父も落胆しているに違いない。
そう思っていたのだが――。
「この子、ユークリッドはしっかり者で、とても頼りになる娘なんだ」
驚いた。父が皆の前で私を褒めるなんて。
「私もまだまだ未熟なところがあるのだが、この子に教えられることも多くて、息子がいなければ、跡取りも任せていいくらいのできた娘なんだ。なあユークリッド!」
一度目の人生では父の言いなりになっていたのに、こんなふうに褒められたことなんてなかった。いったいどういうことなのだろうか。
逆に戸惑ってしまう。
「父上、喉が渇きました」
「おお、そうか」
父は傍に控えていたエルマを呼び、私を託す。
やっとのことで人の輪から抜け出すことができたのだった。
会場には立食式の軽食が用意されていて、エルマは嬉しそうに料理を摘まんでいる。
私は今日一日、いろいろありすぎて胸がいっぱいだった。
ジュースを飲み干すのでさえ、やっとだったのである。
「ユークリッドお嬢様、食べないの?」
「ああ、今はいい」
それよりもどこか人目に付かないところでゆっくり過ごしたいのだが、料理を食べるエルマの楽しみを邪魔したくなかった。
しょうがないので、エルマの陰に隠れていたが、「あっ、ローストビーフが焼きたてですって!!」と言って走っていってしまう。
隠れる場所を失ってしまった私は、壁際にでも立っていようかと思った。
けれども、背後から呼び止められてしまった。
「ユークリッド・フォン・リウドルフィング!!」
思わず振り返ったその先にいたのは、ヴィルオルだった。
私と同じように、彼もお付きの者とはぐれてしまったのか、単独での登場である。
まさか、名前を把握されていたなんて。
武闘大会前にエルマが私の名前を呼んだので、もしかしたらそこから特定されたのかもしれない。
「お前、よくもこの俺を無視したな!」
「すまなかった!!」
頭を下げて素直に謝ると、ヴィルオルは驚いた表情で私を見る。
「急いでいて、取り合う時間がなかったんだ」
「そ、そうだったのかよ」
話がわかる男でよかった。
私はヴィルオルのこういうところも好ましく思っていたのだ。
きっと彼は私が射的店で見せた銃の腕前について聞きたいのだろう。
けれども一回目の人生に習得した技術なので、深く把握されても困る。
そのため、こちらから話題を振ることにした。
「武闘大会での君の戦いを見ていた。本当にすばらしかった!」
「あ、ああ……。まあ、別に、強い奴はいなかったし、それほどすごいことでもないだろう」
「そんなことはない。父君も君を誇りに思っていることだろう」
「いや、そうだろうか?」
「そうに決まっている」
これからも騎士として励んでほしい、そう言って別れようとしたのに、ヴィルオルは「話はまだ終わっていない!!」と引き留めてくる。
「俺は射的店でのことについて聞きにきたんだ」
「ああ……」
一方的な話題に流されず、しっかり言いたいことは覚えていたようだ。
「お前、どうしてあんなに銃の扱いが上手かったんだ?」
「領地で暇なあまり、庭師が作ってくれた銃のオモチャで毎日のように遊んでいたんだ。それで、上手く見えたのだろう」
念のためにと言い訳について考えていたのだが、まさかここで役立つとは思わなかった。
「納得してくれただろうか?」
「あーまあ……」
ここでヴィルオルの従者がやってくる。私とは違って、従者を撒いてやってきたらしい。
「ヴィルオル様、父君がお呼びです」
「ああ、わかったよ。少し待て」
ヴィルオルは思いがけないことを言ってきた。
「お前、また後日、会って話せるか?」
「私と?」
「他に誰がいるんだよ!」
まだ私に追求したいことでもあるのだろうか。
それとも一度目の人生のように、ライバル視されてしまったとか?
ここで彼にはしっかりと、父親達とは違って敵対関係にないことを伝えておく必要があるだろう。
ただ、友達になるというのは難しいかもしれない。彼にもプライドがあるだろうから。
遠くから見守るだけの存在でありたい。
そう思った瞬間、ある名案が閃いた。
「私は君の大ファンでね。これ以上、プライベートな時間を共に過ごすと、他のファンを悲しませてしまいそうで、申し訳ないんだ」
「なんだよ、それ」
ヴィルオルにはファンクラブがあったのだ。今はあるかわからないが、そのうちできるだろう。そう思って、ファンであることを伝えておく。
「すまない、個人的に会話をするのはこの場限りにしよう」
タイミングよく、ローストビーフを食べ終えたエルマが戻ってきた。
「ごめんなさい、あら、お友達?」
「いいや、違う」
これ以上関わってはいけない人だ。そう思って踵を返す。
「おい! ユークリッド・フォン・リウドルフィング!」
ヴィルオルが呼んでいたものの、彼も父親からの呼び出しがあったからか深追いしてこなかった。
これでいい。そう思いながらエルマと共に会場を去ったのだった。
以降、ヴィルオルと私の人生は交わることなく過ぎていく。
十二年後――貴族学園の高学部に入学するまでは。