軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十八歳になるユークリッド

邪竜から受けた傷で倒れて命を散らし、二度目の人生を歩み始めてから、早くも十八年経った。

一度目の人生のように男装を強いられることも、魔法騎士になることも決められることなく、私はごくごく一般的な貴族令嬢として育ったのである。

七歳から十二歳までは貴族女性が通う 初等学校(プレップ・スクール) に入り、十三歳から十六歳までは礼儀作法やマナー、社交術などを学ぶ 花嫁準備学校(フィニッシング・スクール) に通った。

貴族女性として、いつでも結婚できるような準備が完全に整ったわけである。

同窓生の中には卒業後、すぐに結婚した者もいた。

しかしながら今現在、私に結婚の予定などない。

そもそも婚約者すらいないという状況だった。

いったいどうしてなのか?

父に聞いても、わからないと言われてしまう。

通常、貴族の結婚というものは父親が相手を選定し、話が進められる。

それに倣い、父も数名の知人に声をかけたものの、話が具体的に進むことはなかったようだ。

私は貴族女性として、一人前になったと思われる。

ドレスも着こなし、美容にも手間暇かけ、礼儀作法や教養だって備わっているだろう。

父が決めた相手ならば、誰にでも嫁ぐつもりだったというのに、申し入れすらないとは。

その理由については、エルマから指摘を受けてしまった。

「あなたは整然としすぎなのよ」

「それの何が問題なんだ?」

「なんて言うのかしら、こう、立ち姿から何から騎士らしいって言うの? そういう人と結婚したら、男の人って心が休まらないんじゃないの?」

「そんな」

騎士としての教育なんて受けていないのに、騎士らしく見えていたなんて。

衝撃を受けてしまう。

「けれども貴族の結婚というのは、利害の一致だ。リウドルフィング公爵と関係を持ちたい貴族もいるのではないのか?」

「うーん、言われてみればそうよね。だったら、どこからか圧力がかかっているのかも?」

「圧力?」

「ええ。誰かがあなたが結婚できないように、妨害しているとか?」

「いったいどのような目的で?」

「嫌がらせ?」

「なっ――!?」

これまで他人に対して嫌われるような行為を働いた覚えなどなく、誰からも好かれていると思い込んでいた。

ただ、すべての人々から愛されている人間というのは存在しないのだろう。

私もきっと、知らぬ間に恨みを買っていたのかもしれない。

「うーーん、困ったな」

国から届いた一通の封書を手に、眉間の皺を解す。

「ユークリッドお嬢様、そのお手紙は?」

「 貴族高等学校(ノーブル・スクール) の入学案内だ」

貴族高等学校――それは国内で唯一の共学貴族校で、十八歳から二年間、通うことが推奨されている。

入学の条件はただ一つ。婚約者がおらず、結婚の予定がない者。

「貴族高等学校は、貴族の発展を願って国王陛下が設立した施設でね」

男女の出会いの場を作ることにより、結婚を促すのが大きな目的である。

それ以外にも、貴族の結婚というものはどうしても血縁が偏ってしまい、病弱な者ばかり生まれることがあるという。それを回避する目的もあるようだ。

国外の留学生も積極的な入学を受け入れており、王族であることを隠してやってくる者もいるという。

「結婚の予定がない貴族出身者は、この学校に通うことを義務付けられているんだ」

「そうだったの」

神学校に通っていたエルマにとっては関係ない話だったので、把握していなかったのだろう。

「そんなわけで結婚相手が決まらない私は、再度学校に通わないといけないらしい」

花嫁準備学校を卒業後は結婚する気だったのに、婚約者候補すら決まらないので、貴族高等学校に入学することになりそうだ。

「予定ではすぐに結婚して、二十歳までに子どもを産む予定だったのだが」

「あら、そうだったの!?」

邪竜との戦いに備え、万が一命を落とすことを考え、子孫を残しておく想定だったのに。

「予定が多いにずれ込んだな」

一回目の人生では 幼等準備校(プレ・プレップスクール) に通ったあと、十歳で騎士隊に入隊し、そのあと十二歳のときにフローレスと婚約したので貴族高等学校に通うことはなかったのだが。

「そうだ、彼女ならば――」

「彼女?」

そう言いかけて口を閉ざす。

一度目の人生でフローレスにはたくさん心配をかけた。また、私のせいで異性装を強いらせてしまったのだ。

そんな彼に、これ以上迷惑をかけたくない。

二回目の人生では一度も顔を合わせることはなかった。

フローレスもきっと、私と同じように本来の性別で生きているはずだろうから。

「なんでもない」

「そう」

ひとまず、花嫁準備学校卒業後の結婚は諦め、貴族高等学校に入学するしかないようだ。

そこで、自力で結婚相手を見つけることができるのだろうか?

不安でしかなかったのだが、父の手腕には期待できないので、私自身が頑張るしかないのだろう。

貴族高等学校は全寮制なので、家族とは離れて暮らすことになる。

「ディルク坊ちゃまも寂しがるわねえ」

「ああ、そうだな」

一度目の人生ではほとんど関わることがなかったディルクだが、二回目の人生ではめいっぱいかわいがった。その結果、ディルクは私に懐き、慕ってくれるようになったのだ。

そんな彼は現在十五歳。

騎士隊に入隊し、魔法騎士としての人生を歩んでいる。

魔法と剣の腕前はヴィルオルに匹敵するほどだと言われており、将来有望と噂されていた。

ヴィルオルとは十二年前に会って以来、顔を合わせていない。

彼と会いそうな場には行かなかったし、そもそも接点がなかった。

ただ、ディルクは騎士隊でヴィルオルと付き合いがあるようで、たまに話を聞く。ディルクはヴィルオルを尊敬しているようで、たまに訓練もつけてもらっているようだ。

きっとこれから先も、ヴィルオルと人生が交わることなどないと思っていたのだが、想定外の場所で彼と再会することとなったのだった。