作品タイトル不明
583 阿鼻叫喚
「何かさ、見た目から違わないか?」
塩とニンニク醤油の両方を貰ったランデルは、その見た目に驚いていた。
他で食べたからあげは、油をたっぷりと吸った衣が付いていて、見た目が濡れたかの様にベショッとしていた。
しかし、莉奈から貰ったからあげ串は、カラッとしていて香ばしい匂いがする。
「「え?」」
「見た目も楽しめよ」
ランデルが初見の感想を述べていれば、ハービスとマリサはすでに、からあげ串にかぶりついていた。
「「んんんーーっ! な〜に〜こ〜れ~!?」」
肉汁がどうとか言う前に、この表面にあるカリカリッとした衣が、もうすでに美味しい。
ちょうどいい味付けの塩が、衣のいいアクセントとなっていて、それだけでも満足出来る。
「やっば!! 何このからあげ!!」
「肉汁うまっ!」
「止まらないんだけど!!」
「ねぇ、これが本当の"からあげ"だとしたら、ゴルゼンギルで食ったアレは何だったの?」
「「油煮」」
そう揶揄したくなるくらいに、ゴルゼンギルで食べたからあげは、脂っこかったとランデル達は語っていた。
莉奈のからあげとは、雲泥の差だと感嘆している。
余程、酷い店に当たったのかもしれない。
「リナのからあげは、匂いも衣も美味しいのよねぇ」
「わかります。カリッとしていて香ばしいですよね」
アーシェスは自分で作った事があるからこそ、からあげの難しさが分かっていた。
ローレン補佐官は、出張先で見かけて食べる事もあるが、食べるたびに首を傾げたくなる。「あれ? コレはからあげなのか?」と。
ランデル達が大袈裟に言った"油煮"が妙にしっくりくる。
カラッとではなく、何故かベチャッとしている店が多い。ただ油で揚げるだけなのに、こうも違うのかと食べるたびに思う。
「まぁ、その辺で売っているのは、鶏肉ですらない場合もあるしな」
からあげを食べ終えたフェリクス王は、瓶入りの冷たい紅茶を飲みつつそう言った。
「「「え?」」」
"鶏肉ですらない"?
莉奈を筆頭に皆、どういう事だと一斉にフェリクス王を見た。
「今の需要に供給が間に合うと思うか?」
フェリクス王の口には、ものスゴい悪い笑みが浮かんでいる。
言われてみれば確かに、今からあげが流行っているからといって、すぐに鶏が卵をいっぱい産む訳じゃない。ましてや、その卵が鶏に成長するには時間がかかる。
ヴァルタール皇国は富裕層が魔物の"ロックバード"を食べる様になったから、鶏が庶民の口に入る訳だが……数に限りがある。
「どゆこと?」
莉奈の頭の中には薄っすら、違う生き物が次々と浮かんでは消えたが、鶏以外の何かが"牛"や"豚"ではない気がする。
魚ならまだしも、それですらなかったら何かだなんて、想像すらしたくなかった。
「紛いモノもあるんですよ」
「いや、うん。それはなんとなく分かりますけど……」
ローレンは苦笑いしているのだから、フェリクス王の言う意味は分かっているのだろう。
「何肉使ってるんだ?」
エギエディルス皇子は、純粋に鶏でなければ何だろうと思った様だ。
例え鶏肉以外でも、エギエディルス皇子にはほとんど関係ない話である。だって、彼は皇子様だからね。
安心と安全は確保された生活を送っている……ハズ。
エギエディルス皇子が疑問を口にすれば、フェリクス王はさらに悪そうな笑みを浮かべた。
「"ネズミ"」
「「「えっ!?」」」
「"ネズミ"」
「「「……」」」
こっちの世界でもあまりポピュラーではないのか、訊いたエギエディルス皇子はもちろん皆絶句していた。
莉奈はそう聞いた瞬間、頭の端に灰色のドブネズミが浮かんで消えた。
「マジかよ!!」
「え? 俺、ネズミ食ったかもしれないのか!?」
「いやぁぁァァーーッ!!」
ランデルとハービスはお腹や頭を抱え、マリサはブルブル震えて叫んでいる。
まだ自分達が食べたモノが、ネズミだと断定された訳ではないが、言われたらそうかもと想像したみたいだ。
「まぁ、食っちまったものは仕方ねぇだろ」
他人事なフェリクス王は、あっけらかんとしてそう言っていた。
確かに、野山の大型ネズミは食用にしている国や地域があると、日本にいた時に聞いた事はある。
しかし、民家の近くに住むネズミは、寄生虫や菌を保持している事が多く危険だ。
しかも、日本ではあまりポピュラーじゃないから、莉奈は拒否感が……。
食べたかもしれないランデル達は、もはや阿鼻叫喚である。
「チャーリーくん達は大丈夫なのかな?」
そういえば昨日別れたチャーリー達も、どこかでからあげを食べていたなと莉奈は思った。
どこで食べたか訊いてなかったけど、大丈夫なのかなと少し心配になる。
「ヴァルタール皇国内なら大丈夫ですよ」
心配している莉奈に、ローレンがひっそりと教えてくれた。
規制が厳しいヴァルタール皇国内なら、余程の事でない限り大丈夫だそうだ。だが、許可を得ていない店、いわゆるモグリな店の場合は保証が出来ないらしい。
「「「あぁァァーーッ」」」
わざわざローレンがひっそりと言うものだから、聞こえなかったランデル達はネズミを食ったかもと、まだ悶絶している。
大丈夫だと教えてあげればイイのに、意地が悪い2人だなと莉奈は笑っていた。