軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第244話】ホッケハルンの決戦⑥ リュゼルと新兵

ロアと第二騎士団が攻防を始めるより前、ホッケハルンの砦にはすでにルシファル率いる反乱軍の布陣が完了していた。

「すげえ、、、、俺たちの倍以上いるぞ、、、」ゴクリと生唾を飲むのは第10騎士団の新兵、ロズヴェルだ。

隣にいる同期のノーキーが、手汗で矢を取り落としてカランと鳴らす。

今回の戦いにおける彼らの役割は、塁壁上での守備兵だ。

彼らはリュゼル隊ゆえ本来は騎兵であるが、ロズヴェル達に限らず、今回の戦いにおいて新兵は塁壁の上で矢と礫の雨を降らせるのが役目。また、ベテラン弓兵への補給などの補助も、彼らの大切な仕事である。

「おえっ」

緊張が極限に達した新兵の誰かがえずいた。

「おいおい、様子を見にきてみれば、もう吐きそうなのか?」

「リュゼル隊長!」

新兵からは”鬼”と恐れられているリュゼルの登場に、みな思わず姿勢を正す。

「まあそう緊張するな。肝心な時に持たんぞ。それに、この砦は塁壁が高い。内側まで攻め込まれない限り、そう簡単に死ぬような場所じゃあない」

「は、、はいっ!」

「お前らだって初陣というわけじゃないんだ。訓練通りにやればいい」

そんな風に言うリュゼルに、ロズヴェルが手を挙げる。

「あの、リュゼル隊長の初陣の時はどうでしたか?」

「俺の? うーん。。。。。だいぶ前の話だからなぁ、、、ただ必死だった記憶はあるが、、、ああ、そういえば、ロアは大したものだったぞ」

「副団長がですか?」

「ああ。お前達は知らないと思うが、あいつが初めて戦場に出たのは去年のことだ」

「え!? 去年ですか?」新兵はまさかと言う声をあげ、その頃になると、第10騎士団以外の兵士もこちらに耳を傾け始めていた。

「そうだ。あいつはそれまでは文官だったからな。聞いたことはないか?」

「そりゃ、もちろん知っていますけど、、、、第10騎士団付きの文官なのかと思っていました」

そんなロズヴェルの言葉に、リュゼルは思わず吹き出してしまう。

「騎士団付きの文官って、、、どんな立場だ?」

答えたロズヴェルも恥ずかしそうに苦笑し、周辺の新兵達も少しだけ笑顔を見せる。それを見てリュゼルは少し肩の力が抜けたな、と満足そうに頷く。

「ロアは初陣では戦いに参加していない。初めて戦場を駆けたのは2度目の戦いの時だ」

「副団長はどんな感じだったんですか?」

「戦いがあったのはハクシャと言う大きな河のある地域だ。当時の第六騎士団長が夜中に500の兵で5000以上のゴルベル兵に囲まれた。しかも、河が氾濫して逃げることもできず、救援も間に合わなかった。俺たちを除いて」

「リュゼル隊長達を除いて?」

「ああ。詳しい話は省くが、俺たちは第六騎士団長の危機を事前に察知することができた。けれど、第10騎士団の本隊はまだ到着していなくてな、動かせる兵士は俺の部隊の700しかなかった。だが、実質初陣のロアは俺に言ったんだ」

「なんて言ったんです?」

「僕と一緒に死んでください。あいつはそう言うと、俺たちの部隊だけで第六騎士団長救援の策を立て始めた。そして俺たちを連れて、5000のゴルベル兵に突っ込んだ。流石の俺も死を覚悟したぞ」

「本当ですか?」あまりに突飛な話に、ロズヴェルも他の兵士も訝しげだ。

「事実だ。疑うなら助けられた本人に聞けばいい。この戦いが終わったら、ゆっくりとな」

「助けられた本人?」

「ウィックハルトだよ。ウィックハルトはロアに助けられたから、あいつに剣を、、いや、ウィックハルトの場合は弓か。弓を捧げたんだ」

「ウィックハルト様が、、、、」

「そういえばウィックハルト様が第六騎士団長だったのは、聞いたことがある、、、」

新兵がざわつきながら、リュゼルの話が本当なのか意見を交わし始めた。

「もう一つだけいいですか?」ロズヴェルの言葉に「なんだ?」と答えるリュゼル。

「副団長は昔からそんなに度胸があったんでしょうか?」

「度胸、、、度胸か、、確かに度胸があったといえば、、、いや、少し違うな。なんというか、あいつはいつだってギリギリになった時に、、、、そうだ、開き直るのがうまい、そんな感じだ」

「開き直るのがうまい?」

「ああ。腹を決めると言い換えても良いか。どうしようもない状況になった時、諦めることをしない。なんとかして打開しようと必死になるんだが、その時の覚悟がずば抜けているんだ」

リュゼルは言葉にしてみて、ひどく腑に落ちる。

ロアは、あいつは覚悟が違うのだ。熟練の老兵が数多くの経験を重ねて、ようやく腹に溜め込んだような、強力で、ブレない覚悟がある。

まるで、一度人生を一周こなしたような、、、、

そこまで考えて、リュゼルは馬鹿なことを、そんなことはあるわけがない。と少しだけ苦笑する。

だが、そんなロアに惹かれたからこそ、俺は今あいつを支えようとしているのかもしれないな。

少し感傷的になった気持ちを振り払うと、リュゼルは手をパンと叩く。

「戦闘に関しては、はっきり言ってお前らよりも弱い元文官のロアが、2戦目であれだけの気概を見せたんだ。第10騎士団で出世したければ、こんな安全な場所で震えている暇なんてないぞ」

「リュゼル隊長! 俺は震えてなんかいません! これは武者震いです!」

そんなロズヴェルの言葉に、リュゼルはまた少し吹き出し、

「それじゃあ、結局震えているだろ?」と突っ込む。

そんなやりとりで新兵達からも笑いが起き、リュゼルはひとまず大丈夫だと、密かに胸を撫で下ろすのだった。