軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189 番外編 消えることのない幸せを

雪が溶ければ春になる。

そんなことが当たり前だというように、村にも春が訪れた。

アセリアとハルムは、ここぞとばかりに今年の計画を練る日々だ。

今日も二人は村長の家で、話し合いに励んでいた。

「隣の村に、定期的に苺を届ければいいわけですわね」

「そうなんだ。隣村で軽食を出す店を開く予定だという方がいてね」

「バルドに発注、っと」

ハルムが紙に書き付ける。

顔をあげると、ハルムはオタルさんをまっすぐ見た。

「オタルさん、豆の追加は考えてみました?」

「ああ」

言いながら、オタルさんがため息を吐く。

「もうすでに元気そうだから葉が。これで増やさないなんて言えないだろうが」

アセリアの目が、キラリと光る。

「では、豆は追加ですわね」

机に広げられた紙には、村の畑の地図が、大まかに書いてあった。

「では、今年はここからここまでを豆にしようと思いますの」

「デカくないか?」

「これくらいは取ったほうがいいですわよ」

「……お前らには勝てねぇな」

「それで、みなさん」

アセリアに注目が集まる。

「今年の目標として、牛を買おうと思いますの」

おじさま方の顔がハッと驚いた顔で止まった。

もう何年も、この村では子牛を飼ってはいない。

おかげで、乳牛3頭なんていう微妙な状況になってしまっている。

それにあたって、雄の牛を買おうというのがアセリアの提案だった。

「香袋もまた作りますし、今年も忙しくなりますわよ!」

話し合いが終わると、二人で外に出る。

村を出たところ、坂を降りるところで、ハルムが手を出してきた。

これは、執事のエスコートではなく、手を繋ぐ、ですわね。

そこに手を乗せると、きゅっと手を握られる。

暖かくなった風に頬が撫でられる。

「こっち」

ふいっと畑の方へ手を引かれた。

畑は、もうすでに麦たちが緑色の葉を生やしている。

そして畑では、青い空の下で、麦の周りをぐるりと一周するように、たくさんの赤い花が咲いていた。

フワフワの花が風に揺れる。

「……綺麗、ですわ」

ハルムはこんなものを隠し持っていましたのね。

確かに、ハルムは花の種の袋をソラマメと一緒に買っていた。真っ赤な花が咲くと言って。

確かに目の前には、真っ赤な花が道を描くように揺れている。

「なんていう花なんですの?」

「クリムゾンクローバーだよ」

それを聞いて、

「ふふっ」

つい笑顔になってしまう。

「クリムゾンクローバーは、豆科の植物ですわね。ただ、景観を整えるだけではなく、ちゃんと畑のことを考えているのが、ハルムらしいですわ」

「だろ?」

そばで、ハルムの笑い声が聞こえた。

繋がった手を見る。

ああ、あの頃ならこんな風に、手を繋げる日が来ると思えただろうか。

こんな日が来ると、信じることが出来ただろうか。

今なら思い描ける。

もっと大人になったわたくしたちを。

ここで暮らすわたくしたちを。

「ハールム」

ちょっと甘えた声を出してみる。

ハルムが、立ち止まってこちらを向いた。

「幸せですわね」

「ああ、もちろん」

ハルムに抱きしめられる。

抱きしめられたので、腕の中から顔を出し、その瞳と向かい合った。

そして二人はキスをする。

もう、決して消えない笑顔で。