作品タイトル不明
188 番外編 病気の時は休まなくては!
アセリアは、広場を全速力で走った。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
扉を叩くと、レアクはすぐに顔を出した。
「レ、レアク〜」
レアクにハルムを診てもらっている間、アセリアの足はパタパタと動きっぱなしだった。
「ふぅ」
というレアクの声と、
「ハックシュン!」
という、聞き慣れないハルムのクシャミが同時に聞こえた。
「そ、それで、ハルムは大丈夫なんですの?」
ソワソワとスカートを握る。
「風邪だね」
「風邪?」
「そ、それは……、どれくらい大変なことなんですの?」
いくらアセリアでも、風邪くらい知っている。ただ、生まれてこの方、風邪をひいたことはなく、もちろん風邪をひいた人間を見たこともなかった。ただ、周りの人間の言葉だけで知っているだけだ。『風邪なんてひいたら、今後の公務に支障が出ますので』『責任問題ですよ』
そんな風に、大変なものというイメージしかない。
「寝てれば治る」
薬師がにっこりと笑う。
「寝てれば」
それはどの程度ですの?動いてはいけないくらい?
「わたくしには、何ができますの?」
「そうだね、栄養があるものを食べさせて」
「わ、わかりましたわ」
「そんなに気を使わなくても大丈夫だよ。ただの風邪だから」
ハルムが苦笑するけれど、やはりいつもよりも元気がなく少し顔が赤いようだ。
「ではわたくし、レアクがいる間に栄養のあるものをたくさんもらってきますわ!」
「アセリア!」
という後ろから聞こえるハルムの声もそっちのけで、アセリアは村へと走った。
村の広場を出来る限りの早足でつっきり、牧場の門をくぐる。
アセリアが、牛小屋に勢いよく突っ込み、卵とミルクを手に入れて来るのに、それほど時間は掛からなかった。
「ハルムは無事ですの!?」
ガコン、なんていう音を立てて扉を開ける。
きょとんとしたハルムとレアクが、こちらを見ていた。
「じゃあ、私は帰るよ」
「えっ、帰るんですの!?」
そんな言葉ものともせずに、レアクは帰ってしまう。つい、不安になる。
帰るということは、大丈夫なんですわよね!?
アセリアは、ハルムのちょっとした変化も見逃すことがないよう、ぎゅぎゅっと見つめた。
ベッドに寝かせ、布団に包み、ポンポンと叩いて確かめる。
「大丈夫ですわね?」
そう問うと、
「大丈夫だよ」
と笑顔が返ってくる。
まったく、ヤキモキする返事ですこと!
「じゃあわたくしは、ミルクでも温めてきますわ」
キッチンへ行こうとすると、袖が引かれた。
ハルムが、布団から出した手で、袖を掴んでいた。
「そんなにひどい風邪じゃないから大丈夫だよ。雪と氷ちょっとナメてた。本当に。そんなことより、」
ハルムが横になったままこちらを見上げて来たので、目を合わせた。
「一緒にいてくれた方が、治る」
それがあまりにも真っ直ぐな目だったから。
アセリアは、ストン、とベッドのそばにあった椅子に腰掛けた。
「……そうなんですのね」
少しだけ恥ずかしくなって視線を逸らす。
「早く、治すんですのよ」
「ああ、わかったよ」
そう言ってハルムが笑ったから、アセリアも、布団からはみ出したその手を、きゅっと握った。