作品タイトル不明
187 番外編 外からのお客様(2)
村に、地質学者が来ている。
姿は見たし、アセリアと挨拶を交わしているところを遠目で見た限り、問題のある人間とは思えなかった。
それでも、どんな人間だか、調べておいて損はないか。
そんな気持ちで、ハルムは、その親子に会いに行った。
「こんにちは」
馬車のそばに居た親子に声を掛ける。
「"おや、こんにちは"」
驚いたことに、その言葉は王国の言葉ではなかった。
西側諸国で使われている言語か。
とはいえ、問題はない。
ハルムは、公爵邸ではアセリアと共に数々の言語を学んだものだった。
執事たるもの、主人の交渉事の内容が不明だったり、相手と交渉が出来なかったりすると、主人のスケジュール管理に差し障るためだ。
西側諸国の言葉もその一つだった。
流石にアセリアほど飲み込みは良くないし、発音も程々だけれど、会話には支障はない。
「"こんにちは"」
「オウ!」
返事をしただけなのに派手に驚かれる。驚く姿は、物語で見るドワーフのようだ。
「"君はうちの言葉が喋れるのか"」
「"そうですね。少しですが、勉強したことがあります“」
こんな時、執事モードが自然と立ち上がるんだな、なんて改めて思う。
執事だったことでアセリアと出会えたのだから、執事だったことを悪く思うことはない。
これも一つの、技能のようなものだろう。
「オウ!」
学者が、また驚きの声を上げた。
そこへ、学者の娘が戻ってきた。
学者が興奮したように言う。
「”娘よ、聞いておくれ“」
それを、言語が不得意な俺でもわかるほどの大袈裟な物言いで言うのだから、少し笑ってしまう。
「”どうしたの?パパ“」
「”この方はな、なんと、私たちの言葉が喋れるんだ“」
そこで、学者の娘がキョトンとこちらを向いた。
数秒の後、合点がいったとでもいうように頷いてみせる。
「“あのときのイケメンさんじゃない。この方はあのペラペラだった方の旦那様なのよ。ご夫婦揃って博識なのね”」
そう言って、持っていた日傘をくるりと回した。
そう言われて、アセリアのことを思い出す。
「”そうでしょう?私は、妻と一緒に子供の頃、いろいろな言語を学んだことがあるのです“」
そこまで言って、「あれ?」と思う。
アセリアと二人で住んでいるから、夫婦扱いされることは珍しくない。
村の半数以上は、きっと本気で俺たちが夫婦だと思っていることだろう。
けれど、この親子の前で二人で同じ家に住んでいるような話を、誰かがするだろうか?
「“どうして、夫婦だなんて?”」
素直に疑問を口にした。
すると、学者の娘はあるはずのないことを言ったのだ。
「“あら、奥様から聞いたのよ。私が気に入ったって言ったら、夫だからそういう案内役には出来ないって言われたわ。まあ私はイケメンに案内されたいだけだったから、いいのよ。粉屋の息子に案内してもらったわ“」
「……”アセリアが?“」
夫と?
夫婦だと言われることくらい慣れていたはずだった。
けれど、アセリアが言うのならば、話は別だ。
ハルムが顔を真っ赤にして口をパクパクすると、親子がそっくりな顔でニコニコと笑った。
「”あら、お熱いことね“」