作品タイトル不明
182 番外編 雪で遊びますわよ!(1)
アセリアが朝起きると、雪が積もっていた。
雪の照り返しで眩しく、窓の外がキラキラと輝いている。
朝、カーテンの隙間から外を覗いたアセリアは、
「…………」
言葉を失った。
……こんな世界もありましたのね。
王都で雪を見ることはあっても、これほど多く積もっているのを見たことがなかった。
朝も早いというのに、外では子供達の声がする。
「うおー!」
いや、バルドの声もする。
「あははは」
ウィンリーの声もだ。
「行ってみようか」
振り返ると、ハルムが、アセリアの赤いコートをすでに準備して待っていた。
「ええ」
コートを着るときには、ハルムが着るのを手伝ってくれた。
もうとっくに執事でもなんでもないというのに。
もうコートくらい、一人で着られるというのに。
もともと甲斐甲斐しい人なんですわね。
それにしても。
胸元の大きなリボンを真剣に結んでくれるハルムを眺める。
すっと通った鼻。
下を向いた時の存在感あるまつげ。
執事でもなんでもないと思うと、少し恥ずかしいですわね。
火照る頰を感じながら、アセリアは大人しくリボンを結んでもらった。
扉を開けると、そこは一面真っ白だった。
村はずれで誰もこないからだろう、門の外までずっと真っ白だ。
一歩、踏み出す。
ズボ。
「きゃ!?」
思った以上に足が雪の中に埋まり、驚いて後ろへ倒れる。
倒れたところをハルムに受け止めてもらった。
「アセリアちゃーん!」
ウィンリーの声がする。坂の上で、手を振っているのが見えた。
「雪というものはこういうものなんですのね」
足を踏みしめながら、アセリアが言う。
「俺も初めて見た」
王都での雪はこんなものではなかった。
塀の上に積もった雪を手で掬う。その程度のものだ。
綺麗で、キラキラしていて、水になるもの。
けれど、ここの雪は違う。
結局、ハルムに掴まりながら、なんとか家を脱出する。
「滑りますわぁ」
冬用のブーツだというのに、何が違うのだろう。
ザクザクとこちらへ来るウィンリーを眺めながら思う。
「こうだよ、アセリアちゃん」
ウィンリーが靴底に力を入れながら、ズンズンと歩いて見せてくれる。
「こうですの?」
言ったそばから、
「きゃっ」
雪の中へダイブする。
助け起こそうとするハルムに、雪玉が襲いかかった。
見ると、バルドとフィンが、ハルムに向かって雪玉を投げていた。
「おまえら……っ」
ハルムが、ザクザクと両手で雪玉を作りながら歩いて行ってしまう。
ぼんやりと、思う。
追いていかれましたわね。
この途方もない雪と、一人で戦わなくてはならないのだろうか。
誰かが近付いてくる気配がして、アセリアは顔を上げた。
そこにいたのは、ハルムだった。
雪玉を投げてから戻ってきたらしい。
「ほら、一緒に行こう」
差し出された手に、ぎゅっと掴まる。
「ええ」
また立ち上がり、ハルムと共に歩いて行く。
一人では心細いことがバレなかったと、胸をなでおろすアセリアだった。