作品タイトル不明
181 番外編 冬の朝に
その日の朝、パチパチと爆ぜる音で、アセリアは目を覚ました。
ぼんやりとした景色の中で、ハルムが暖炉に火を入れている。
じっと眺める。
うっすらと涙が浮かんだところで、それをハルムに見つかった。
「……どうした?」
心配そうな声に、少し笑ってしまう。
「もしまだ公爵家の人間だったらどうしようかと思いましたわ。今までのことが夢だったら……」
つい、心配になってしまったのだ。
ハルムが暖炉に火を入れる場面は、公爵邸で見たことがあったから。
「そうしたら、俺は公爵令嬢に恋をする執事ってことで、王都の作家どもが喜びそうだ」
アセリアがベッドに座り込み、改めて笑う。
「そうしたらわたくしは、執事を連れて逃げなくてはなりませんわ」
そこで初めて、部屋の中が暗いことに気付いた。
「あら……?朝ではありませんの?」
「朝だよ」
ハルムのその声に、アセリアは冷んやりとした窓のカーテンの隙間から、外を覗き込んだ。
雪が、空から降っていた。
「わ……」
窓のそばが冷んやりするのは、どこも同じだなんて思いながら、外の景色を眺める。
王都でも雪が降ることはあったけれど、果たしてこれほど積もるのを見たことなどあっただろうか。
「すごく、綺麗ですわね」
そんな言葉が出てくる。
この村では、雪は生死にも関わることだとわかってはいるけれど。
「今日は出かけられそうにないな」
「……ですわね」
確かに、雪がやむまでは外に出ないほうがいいだろう。
……ということは、今日はハルムとずっと一緒ですわね。
「ほら、こっちの方があったかい」
満足に火を入れられたらしいハルムが、アセリアを呼んだ。
「え、ええ」
つい、意識してしまう。
いやですわ。いつだってこの家に一緒だっていいますのに。
暖炉の前に二人で座る。
床に敷いたマットの上で、アセリアは爆ぜる火を眺めた。
「寒くないか?」
なんて気を回しながら、ハルムがキルトを肩にかけてくれる。
そのまま、キルトの両端を引かれ、ハルムと向かい合う。
暖炉の火に照らされて、ハルムがじっとこちらを見ていた。
心臓の鼓動が速くなる。
「ハル、ム……」
いつの間に、こんなに力強い人になったのだろう。
昔から、失敗することもなく淡々と仕事をこなす、頼れる人ではあったけれど。
そのまま、ハルムが近付いてくる気配がして、唇が塞がれた。
改めて向かい合うハルムは照れた顔で目を逸らした。
その瞬間気付く。
二人っきりを意識してたのは、わたくしだけじゃありませんでしたのね。
ずっと雪でもいいですのに。
パチパチと、火が爆ぜる。
長い冬が始まった。