作品タイトル不明
163 収穫祭が始まる
料理が並んだのは、ちょうど昼頃のことだった。
家にいたお年寄りたちや小さな子供たちも、広場に続々と集まってくる。
みんなクッションをひき、そうでなければ周りの家の窓から外を眺めた。
「うぃ〜」
村長の家の開け放たれた窓からは、粉屋と視察に来たギルライン伯爵家からの使いの騒がしい声がする。どうやらすでに酒をあおっていたようだ。
「いや〜、天気にも恵まれて、よかったですなぁ〜」
「ほんとに〜ほんとに〜」
内容の薄そうな会話だけれど、本人たちは楽しそうだ。
「ハルム!」
ふいに呼びかけられ、そちらの方へ寄っていく。
村長の家の中で、困った顔の村長がこっちを向いている。
「お前も、こっちに来ないかい?」
「ああ。いえ、私はまだお酒は飲めませんし」
村長がふっと笑う。
「そうだったか。若いなぁ」
しみじみした声。
「収穫祭、楽しんで」
「はい」
広場が騒めく。
もうすっかり村の人々が広場に入ったようだった。
「村長!」
そこで、村長に声がかけられた。
「挨拶お願いします」
もう、そんな時間か。
「村長〜!村長!村長!村長!」
村長コールだ。
「ああ。わかったよ」
村長が引きずられるように広場中央まで行き、舞台にあげられる。
「みんな。私は、今日という日を迎えられたことを、嬉しく思う。今日までご苦労だった。さあ。みんなで大いに楽しもうじゃないか」
短い挨拶に、村人たちがわっと歓声を上げた。
「アセリアちゃーん!」
不意に、アセリアの名を呼んだのは、ウィンリーだった」
「アセリアちゃん!アセリアちゃん!」
アセリアコールが始まる。
なんとも、気の合う村人たちのようだ。
村人の視線が、後ろで辺りを見回していたアセリアに注目する。
笑いながら、戸惑うアセリアの手を引いたのはバルドだった。
ドキリとする。
なぜ、寄りにもよってあいつなんだ。
この小さな村のことで、誰かを避けるなんて難しいのはわかっている。
アセリアは少し戸惑いながらも、穏やかな顔で舞台にあがった。
わっと歓声があがる。
ああ。いつだってあの子が中心なのだ。
王宮じゃなくとも。綺麗なドレスなど着ていなくとも。
俺とアセリアの差が、こんなところではいつでもハッキリと見えてしまう。
何も持たずにこの村に居たはずだった。
知り合いもおらず、着るものさえなかった。
それなのに君は、いつだって中心に立ってしまう。
「わたくしは、アセリアと申しますわ」
丁寧なカーテシー。
「この村に来て、数ヶ月」
よく通る声。
「わたくしはこれほどまで、受け入れてもらえるとは思いませんでしたの。みなさん、ありがとう。この収穫祭は、みなさんの頑張りによって作られたものですわ。より一層の豊穣を願って」
俺は、あの場所に立つことは出来ない。
けれど君は。
これほどまでにあっさりと。
なんて遠い。
この距離を、俺はいつだって、感じずにはいられないのだ。