作品タイトル不明
162 収穫祭が始まりますわ!
その日は朝から大忙しだった。
早朝から、人々が騒めき、楽器の音が鳴った。
女性も男性も力を合わせて大量の料理を作った。
そう、収穫祭の朝だ。
収穫祭は、昼過ぎから行われる。
子供たちやたくさんの家族たちが、舞台にあがり自分たちの出し物を見せる。劇もあれば歌もある。
その時間を楽しく迎えるために、ある者は火を起こして肉を焼き、ある者はパンに潰した卵を挟んだ。
「肉が焼けたぞー!」
「こっちだ!こっちで盛り付ける!」
「よっしゃー!!」
アセリアはその光景を眺め、ワクワクしている自分に気付く。
「お嬢様?」
隣から声が掛かる。
ハルムはチェックリストを抱え、やらなくてはならないことを一つ一つチェックしていたところだった。
その光景には既視感がある。
執事だった頃のハルムは、夜会の前はいつだってそんなチェックリストを持っていた。
『本日、王妃様は青いドレスをお召しのようです』
『本日は、遠方よりお越しのガラド伯爵には必ずご挨拶を。最近陶器で名をあげていらっしゃいます』
懐かしいけれど、今のハルムはやはりどこか違う。
目の力強さだろうか。どことなく身体つきが変わってきたから?
そんなことを思ってしまう自分に、また浮かれている事実が突きつけられる。
「いけませんわね、わたくし。この祭りを成功させなければなりませんのに、なんだかワクワクしてしまいますの」
それを聞いて、ハルムが真面目な顔をした。
少しばかり眉を寄せるほど。
「果たしてそうでしょうか」
「なんですの?」
首を傾げる。
それに対して、ハルムが大真面目にアセリアの一歩詰め寄ってきた。
「ソフテならこう言うと思いますよ。『アセリアちゃんも楽しんでこそ、お祭りの成功なんだよ!』」
「…………」
少しだけ呆気に取られる。
何が起こったのかわからず、まじまじとハルムを見てしまう。
そして、確かにそれは言いそうだとか、むしろハルムだって言いそうなのだからモノマネはいらなかったんじゃないかとか、あまりにも似ていなかったとか、そんなことが頭の中で現れては消えていく。
「ふっ」
アセリアは、目を逸らす。
「ふくくくくく。ふっ、ハ、ハルムったらっ」
クスクス笑いが止まらなくなった。
「そ、そうですわね」
なんて同意の言葉を口にするけれど、笑いを誤魔化すことは出来そうになかった。
「わたくしも、存分に楽しもうと思いますわ」
もう隠せもしない笑い声と、真っ赤な顔と涙の中で見上げたハルムは、思いの外恥ずかしそうな顔をしていた。
その顔がまた面白くて、
「ソフテが言うんですもの。楽しまなければね」
なんて言っておく。
「……お嬢様」
嗜める声。
「ふっ……ふふふふふ」
もう、アセリアの笑いは、しばらく止められそうにはなかった。