作品タイトル不明
160 隣で小さく息をして
トンテンカンテン。
大工たちが広場で金槌を使う音がする。
橋が出来たすぐ後に、棟梁を始めとした大工たちは今度は広場の装飾係として村に雇われたのだった。
何もない広場の中央には円形の舞台が出来上がっていく。
ここにみんなで登り、劇や歌をやろうという寸法だ。
周りの家の前には、カウンターが用意されていく。
みんなで飲んで食べて騒いで、歌やダンスや劇を楽しみながら1日を過ごそうというお祭りだ。
舞台の周りにクッションを敷けばいいだろう。ここに村民全員が座るのは厳しいだろうけれど、村長の家を始めとした広場の周りの家全てが、家の中で舞台を鑑賞していいと客人を迎える準備を始めたのだ。
「舞台はいいですわね」
大工たちは、思った以上に艶々とした表面に仕上げてくれている。
木を組むだけかと思ったけれど、大工たちは、ちゃんと防水のカツカツと靴の音が響きそうな綺麗な舞台を作り上げてくれていた。
「料理も、粉屋と牧場には打ち合わせ済み」
確認しながら歩いていると、向かいからソフテがやってきた。今日は父親と一緒らしく、牧場からの牛乳を運んでいた。
声をかけようかと思った。
けれど、ソフテが歌っていたから、なんだか声をかけそびれてしまう。
「歌お〜、幸せの歌を〜♪」
そういえば、家族で歌いたいと言っていたっけ。
「うまいじゃないか、ソフテ」
「そうでしょ」
ソフテが笑った。
ふいにドキリとする。
あれが、家族というものですのね。
アセリアには家族はいない。
過去には、いた。……いたと言ってもいいだろうか。
まともに会話をしたことはない。
ましてや、歌を歌うなど。
ソフテが楽しそうに父親と笑い合っている。
ああいうもの、なんだろうか。
家族というものは。
親子というものは。
「どうかしましたか」
そこで、ふいに声がかけられた。ハルムだ。
「広場の確認をしてましたの。あとは、料理に、飲み物に……」
「私は今から帰るところなのですが、一緒にどうですか」
そう言って、ハルムが背筋を伸ばし、手を差し出してきた。
「え、ええ」
いつものようにハルムの手の上に手を乗せる。
すると、キュッと指先がハルムの手に包まれた。
「…………?」
いつもの、エスコートですわよね?
そうやって指先が包まれたまま、ハルムに手を引かれ歩いていく。
エスコートのはずなのに、なんだか顔が火照ってしまう。
エスコートにしては、あたたかく包んでくるその手に。
エスコートにしては、位置の低いその手に。
“家族”というその言葉がまた心の中に持ち上がる。今度は、違う意味を持って。
わたくしにはもう血の繋がった家族はおりませんけれど。
ハルムより少し後ろ側から、こっそりとその横顔を眺めた。
“家族”と呼んでも差し支えありませんですかしら。
アセリアは繋がった手を見て、そしてまたハルムの横顔を盗み見る。
心の中に湧き上がる華やかな気持ちを感じて、アセリアはこっそりと微笑んだのだった。