作品タイトル不明
158 イチゴは誰が運びますの!?
ストン、と、アセリアはファエンのそばに置いてあった椅子に座る。
相変わらず安定の悪い小さな椅子で、バランスを取りながら、ファエンに話す。
ファエンはいつだって品定めするような目で話を聞いてくれる。
王都の、腹の中で何を考えているのか、張り付いたような笑顔を向けてくる商人たちよりは幾分かマシだろうか。
「いよいよ、イチゴが売れますわ。来年から」
「それは良かったな」
ファエンがパッと笑顔になる。細い目が、より一層細くなった。
「それでですわね」
「いや、ちょっと待った」
アセリアはキョトン、とする。
「何ですの?」
「オレは、この村のやつがやった方がいいと思う」
どうやらファエンには、イチゴを売ろうとしたことがお見通しだったらしい。
けれど確かに一理ある話だ。
頻繁に来るようになるとはいえ、今度いつ来るかわからない商人を相手に商売をするのは得策とはいえない。
イチゴは新鮮でないと、売り物にならないのだから。
だったら、自分たちで売りに行った方が効率はいい。
「けれど、この村には商人が居ませんわ」
「居るじゃないか」
「え?」
ファエンが、意味ありげにアセリアの後ろに視線を投げる。
くるりと頭を振り返らせると、そこにいたのはバルドだった。
唐突に注目され、驚いた顔のバルドと目が合う。
「俺?」
「ああ。君は村の人に小麦を売っている。金じゃなくても何かの交換で売っているだろう?それもこの村の人間全員を相手にして。愛想や会話はすでに体得しているというわけだ」
「ああ。確かにそうですわね」
「まあ、確かにそうだよ」
「抜けても粉屋が店を閉めないといけないわけじゃない。適任じゃないか?」
「いや、何の話だよ」
呆気に取られるバルドに、少し笑う。
「イチゴですわ。橋ができたので春になったらイチゴを売りに行きたいんですの」
「あ〜、そういうことか」
バルドは断ると思った。
何より、いつだって粉屋の仕事をしているのだから。
けれど、バルドは、一瞬考えただけで、
「ああ。いいよ」
と言ってのけた。
アセリアがパッと顔を上げる。
「いいんですの?」
「ああ。橋がつながっただろ?うちのパン、隣村に売りに行きたいってちょっと思ったんだよね。そのついでに」
そういうことなら、理解もできる。むしろ、イチゴとパンは相性がいいようにも思われた。
「では、わたくしは、この辺りの地理をお教えしますわね」
「あー。確かに、金の取り扱いも覚えなくちゃいけないもんな。地図的なやつを教えておいてくれたら、役に立つよ」
そんなわけで、イチゴはバルドが売ってくれることになった。
「これからまた忙しくなりますわね!」