作品タイトル不明
156 そんなもの、とっくの昔のことですわ!
「びびびびびっくりしたぁ〜!」
アセリアの前で、ウィンリー、ミラ、ベラの3人が飛び跳ねた。
アセリアは、呆れた顔で、こてん、と首を傾げる。
「アセリアちゃんが!王子様の婚約者だったなんて!!」
その驚きようが新鮮で、少しだけ苦笑する。
「昔の話ですわ」
「でもでもでも、あの会話って!」
そう、3人は王子との会話を聞いていた。まあ、村外れとはいえ、村のそばでよりにもよって王子が居れば、放っておけるはずもなく。
何かあったら大変と、数人……いや、十数人ばかりが待機していたわけである。
広場の中央でそんな話をして、周りは確かに騒ついているけれど、改めて驚いている様子の村人はいない。
つまり、すでに村全体に周知されている、ということだ。
「すでに婚約破棄されてますし、わたくしはもう一般市民ですの」
「だってだって!」
「だって!だって!」と、ミラがピョンピョン飛び跳ねた。
「あたし、王子に婚約者がいることも知らなかったぁ〜!」
「え、そりゃいるでしょ」
と突っ込んだのはベラだ。
「跡継ぎ作らないといけないんだし。正統な血筋、ってやつ?」
「せ、正統な血筋……」
ミラが、ギギギギ、とでも音が出そうな振り返り方をする。
「じゃあ、アセリアちゃんは、正統な血筋?」
「血筋でいえば、公爵家の生まれですわね」
「こ、公爵家……!」
3人が揃って目を見張る。
「天空の人だ……!」
「ど、どおりでアセリアちゃん、口調が上品だと思ったー!」
「おひいさま……!」
「もう、家は追い出されておりますし、関係ありませんわ」
「わ、私、今、そういう話読んでる……!」
と言い出したのはベラだった。
「王子の婚約者の公爵令嬢がね……!?すっごい巨乳で……!」
「巨乳!?」
ウィンリーがまじまじとアセリアの胸元を見る。
「きょ、巨乳……?ではないわね。……触り甲斐はありそうだけど」
「中身は聖女なんだけど、周りから勘違いされてて。『うっふ〜ん』とか言いながら、王子に捨てられるわけ」
「お、おぉ……」
ミラはどうやらこういう話が好きらしい。
「で、追放後、その公爵令嬢はその巨乳で老若男女を翻弄し……」
「ろ、老若男女!?」
「裏社会の番人となるの」
「す、すごい話だね……」
アセリアはなんとなく察してしまう。
おそらくアセリアの話を聞いた王都の作家の仕業だろう。創作として売られているようで、まだ良かったというべきだろうか。
そのあとは、その小説の話でさんざん盛り上がり、もうすっかりアセリアの話を聞く空気ではなかった。
元公爵令嬢ということを揶揄うわけでもなく、距離を取られるわけでもなく。
まあ、これはこれで良かったのですかしら。
広場には、いつもと同じ少女たちのはしゃぐ声が響く。
トン、と地面に降り立った猫が、スルスルと広場を横切って行った。