軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155 視線の先には誰がいる?

王子の背中を、遠くから見やる。

そのまま、ハルムはアセリアの背中に目をやった。

知らなかった。

ただ、それだけを思う。

知らなかった。アセリアがそれほどに想う誰かが居たなんて。

そして思う。

誰だ?

アセリアの言葉を反芻する。

『わたくしも、王子に捨てられたことで、知ることが出来ましたの』

『あなたが仰っていた、“最愛”というものですわ』

アセリアの“最愛”……。

思い浮かぶのは自分のことだ。

けれど。

口付けをして目覚めた?どこかのお伽話みたいに?

あまりの都合のいい展開に頭を抱えたくなる。

そんなわけあるか。

今まで、8年も一緒にいた仲だ。

これまで何もなかったのに。突然、口付けで変わることなんてあるだろうか。

ここで調子に乗って、失敗すれば永遠に顔も見られなくなるわけで。

「…………」

あー、いや、俺じゃない可能性の方が高いな。

他の一つは、別れのために吐いた嘘の可能性。

それと。

ハルムは、一つの可能性辿り着く。

それと、別れたことで、王子への愛に気付いてしまった可能性だ。

家へ向かうため、坂を降りていくアセリアの背中を眺める。

「お嬢様」

呼び止めると、アセリアがくるりと振り返った。

すこしムスッとした顔で、こちらを見上げている。

「なんですの?」

俺はそこで、頭に浮かんだことをそのまま口に出してしまった。

「お嬢様は、……王子を愛していたのですか」

なんてこと聞いてるんだ。

婚約者だったのだから、それはそうだろう。

そんなことを聞いて、自分から打ちのめされにいくなんて、正気の沙汰ではない。

アセリアは一つ、ため息を吐いた。

「わたくしは、王子を愛したことなどありませんわ。……婚約も、ただ、そういうものだと思っていましたもの」

そして、くるりと踵を返すと、また家への道をスタスタと歩いていく。

その歩調に合わせてついていきながら、ハルムは考える。

……愛したことがない?

じゃあ誰だ?

なんて思いつつも、愛したことがないという言葉が頭の中で反響する。

確かに、婚約中もデートのような予定はなかった。

観劇どころか、庭の散歩すら見たことはない。

王宮の行っている間、会うこともあるだろうとは思っていたが。

でもそうか。

王子を愛したことなどない、か。

そんなことで嬉しくなってしまうなんて、自分のことながら呆れてしまう。

家の門に入る手前で、アセリアの前へ出て、門の前で直立。手を差し出した。

するとアセリアが俺の手にその華奢な手を乗せてくる。

恭しくそのまま門をくぐり、家の扉を開けた。

アセリアの顔を見る。

昔の真似をしてみても、もうアセリアは、昔のままではなかった。

少し微笑んでいるような、それでいて怒っているような顔で、そっぽを向いたのだった。