作品タイトル不明
154 嵐のようななんとやら、ですわね(2)
エドウルフが人払いをする。
「誰もついてこないように!僕はアセリアと話がある!」
よく響く声。
きっと、その声で村人まで制御出来ると思っているのだろう。
アセリアは、その場に凛と立ったままでいた。
「うちの執事は、連れて行きますわよ?」
エドウルフが、ハルムに一瞥をくれる。
「ああ。君のことにまで口を出すつもりはない」
そう言って歩き出す。
歩いた先は、畑がよく見える村外れだった。
小高い丘になっており、遠くまで畑が見渡せる。
その向こうの丘陵地帯まで。その向こうの切り立った山々まで。
エドウルフの髪が風になびく。
整った頬のラインがよく見える。
ああ、こんな人だったのだ。
アセリアは改めて思う。
知りませんでしたわ。こんな顔だったなんて。
婚約している相手がどんな顔かなんて考えたこともなかった。
王子という人が、正しく政治を行っているかどうかしか見る必要がなかった。
そういうものだと思っていたから。
けど、結婚というのは立場だけのものでもありませんでしたわね。
「アセリア」
エドウルフがアセリアに向き直る。
その瞬間、ハルムが気を張ったのがわかった。
アセリアは、ただエドウルフと向き合うだけだ。
「済まなかった」
静かな風が流れる。
アセリアは、その言葉の意味を考えてみる。
「君とは結婚出来ないと、翌日には謝罪を入れる予定だった。けれど、ルーシエンに行った時にはもう、君は家を追い出されていたんだ。ずっと探していた」
“謝罪”
そうか。謝っているのだ。この人は。
「王子は、今、次の王となるべく、国を守っているんですわよね」
その瞬間、ふっとエドウルフの表情が柔らかくなる。
「ああ。リネサが頑張ってくれている。僕は知ってしまったんだ。愛する人と、愛する国を守ることが、どれだけ尊いかということを」
「やるべきことをやっているのなら、謝罪は必要ありませんわ」
「いや、僕は、君さえよければ王都に戻そうと思う。あれは僕が悪かったことだ。君の希望を出来るだけ叶えよう。王宮に役職を作ることでも」
「いいえ」
思ったよりもキッパリとした声が出た。
「わたくしも、王子に捨てられたことで、知ることが出来ましたの」
エドウルフの目を、まっすぐに見る。
「何を?」
エドウルフの瞳には、空が映っていた。
「あなたが仰っていた、“最愛”というものですわ」
「“最愛”……」
エドウルフが、その言葉を噛み締めるように繰り返した。
噛み締めることで、その言葉を理解しようとしているようだった。
そして、尊いものを見るように、アセリアを眺めた。
「そうか……。“最愛”か……」
風が吹く。
遠くで森がざわめく。
もう、あのまま王妃になる道など考えることが出来ない。
もう、隣に居たい人に出会ってしまったから。
「けれどそれとこれとは別問題だ。本当に、済まなかった」
エドウルフが頭を下げる。
もう、終わったことなのだとわかってしまう。
アセリアはその場を離れるため、歩いた。
後ろから、ハルムはいつもの調子で歩調を合わせた。