作品タイトル不明
151 嵐の予兆
言うべきだろうか。
わからなくなる。
あの口付けは、本気だったと伝えるべきだろうか。
踏み出せない理由は、常に一つだった。
拒否された場合。出て行けと言われた場合。
アセリアはこの小さな小屋で、ひとりぼっちになってしまう。
生活は成り立っても、女性一人の生活は、何かと危険が付き纏う。
なら、もし、アセリアが俺を受け入れてくれたなら、問題はないのだろうか。
このまま、二人で。
そんな夢を見ることは、許されることなのだろうか。
そんな朝のことだった。
モスグリーンのドレスを着たミルドリックが、チョコチョコと近付いてくる。
耳打ちしたいのか俺の顔のそばに寄ってくる。
俺の顔にボンネットのヒラヒラとした飾りが被さってくる。
邪魔すぎる。
令嬢の品位はどうしたというのか。アセリアを見習って欲しい。
「どうしました?」
周りの目を気にして、敬語で受け答える。
「ハルム様」
こちらも外向けの真剣な顔か。
「とうとう、王子の馬車がこちらへ向かって出立したそうです」
「…………っ!」
本当に来るのか。
何をしに?
「途中、二泊ほどするそうです。従者はつれていますが、婚約者は連れていないそうで。明日か、明後日にはこちらに」
「……ありがとう。情報感謝する」
表情を柔らかく保つのは難しそうだった。
ミルドリックが、後ろへと下がり、強気な顔でニッコリと笑顔を見せた。
ハルムの後ろからやってきたアセリアに向かって、ミルドリックがちょこちょこと寄って行く。
そして、そのままアセリアの手を取った。
「アセリアお姉様!」
「プハッ」
その呼び方にあまりに驚いて、変な声が出てしまう。
”お姉様“?
「あら、どうなさいましたの?」
「わたくし、帰ることになりました」
王都に帰るのか。
まあ、それはそうだろうな、と思う。
ここで王子なんかと鉢合わせたら、ミルドリックが追放された俺と会っていたのがバレてしまう。
それが王都に漏れることがあれば、タリオン家そのものがどうなるかわからない。
ミルドリックがもう一方の手で、俺の手を取る。
アセリアと俺に、耳打ちするように近付いて来た。
「ハルムお兄様、アセリアお姉様。わたくしは、何処にいてもあなた方の味方ですわ。結婚式をする時には、呼んでくださいませね」
「なんてことを……っ」
熱くなる顔を持て余しながらアセリアの顔を見ると、ポンと音が出るんじゃないかと思うほど真っ赤な顔をしていた。
去り際に、ミルドリックが大きく手を振った。
「お姉様!必ずまた会いましょうね!」
馬車が遠ざかると、
「すみません、うちの従姉妹殿が騒がしくしてしまいまして」
すかさず謝りにかかる。
追放後は一体何処まで従姉妹の責任が俺に被さってくるのだろうか。
「いいえ」
と言ったアセリアは、少し拗ねたような顔でそっぽを向いた。
「気にしてませんわ。……可愛らしい方でしたし」
「寛大ですね」
つい、本心からそう言うと、アセリアが、
「いいえ。本心ですわ」
と畑へと歩いて行った。