軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

After story2 広がる絆

子供が泣いてる。いや、怒ってるのか?

小っちゃな身体で両手を広げて、何かを叫んでる。

その前に立ってるのは少し年上の子供。多分小学校高学年くらいが3人。

そいつらに向かって涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら何かを言いながら、後ろにもうひとりを庇ってる?

小さい子供より少し身体の大きな、赤いTシャツの奴が頭から血を流して倒れてる。

死んでるわけじゃない。それほど大出血ってわけじゃないし、痛みを堪えるように傷を抑えて呻いている感じだ。

3人組が小さい子供に何かを怒鳴りながらその肩を殴った。

多分邪魔だから退けとかって感じだと思うけど、そいつはどかない。

次は顔を殴られる。

けど、広げた両手は少しも下がらず、退くこともしない。

なんか、どっかで見たような光景。

止めたいと思ったけど、斜め上から見てるようなその場所に近づくことも、声を出すこともできない。

3人の真ん中にいた一番身体のデカいガキが、小さい子供の腹を思いっきり蹴る。

たまらず蹲る子供。

次の瞬間、庇われていた赤Tシャツの奴が雄叫びを上げながら立ち上がって、そのデカいガキに飛びかかった。

全体重を乗せた拳を顔面に叩きつける。

そして馬乗りになって2発、3発。

呆気にとられて立ちすくんだ残りのふたり。その片方の足を掴んで思いっきり持ち上げる。

転倒した奴の顔にサッカーボールキック。

……アレは、俺か?

頭から流れ落ちた血が顔を伝い、涙も混ざって酷い状態だ。

もうひとりのガキが悲鳴を上げながら逃げ出した。

これは……覚えてる。

確か小学校3年生か4年生だったっけ?

いつものようにたっちゃんと公園で遊んでたら、同じ小学校の上級生が来て俺たちにどっか行けとか言ってきたんだっけか。

嫌な奴らで、いつもたっちゃんの服装とかを馬鹿にしてた。

その時も自分たちが公園を使うから貧乏人は出て行けとか言って来たけど、俺は無視したんだよな。

そしたらいきなり石を投げつけてきた。

多分子供の拳くらいの大きさの石だと思うけど、それが俺の頭に当たって、しばらく痛くて動けなかった。

んで、何か怒鳴ってたのは憶えてるが、内容までは聞いてない。多分大したことじゃないだろう。

で、気がついたらたっちゃんがアイツに殴られたか蹴られたかで蹲ってて、そっからはあんま憶えてない。

確か誰かが大人を連れてきて、病院に運ばれて、次の日に学校でしこたま叱られた。

まぁ、元々乱暴で評判の悪い連中だったみたいで、俺はそれ以上怒られたりしなかったっけか。

あのときのたっちゃんは俺が怪我したこととか学校の先生に叱られたって滅茶苦茶謝ってくれてたけど、そうだよ、この時もたっちゃんは俺を庇ってくれてたんだよな。

母ちゃんにも先生にも「こーくんは悪くない」って言ってくれただけじゃなくて、この光景みたいに、俺よりずっと小っちゃな身体で、俺よりずっと弱いのに、必死になって身体を張ってくれてたんだよな。

ホント、昔っからたっちゃんには頭上がんねぇよ。

………………

「コーキ!」

耳元で響いたデッケぇ声でぼんやりしてた意識がはっきりしてくる。

って、痛ぇ!

右腕とか脇腹とかが滅茶苦茶痛いんだけど!?

思わず口からうめき声が漏れた。

「コーキ! 気がついた?」

「ジャ、ネット?」

喉がヒリついて変な声が出た。

「な、んで、ジャネットがここに?」

って、ここ、俺の部屋じゃねぇな。

病室?

腕はなんか吊されてるし、腹にもコルセットみたいなのが巻かれてて動かせない。

「もう! コーキがバイクで事故を起こしたって聞いてビックリしたわよ」

事故?

……思い出した。

仕事終わって帰ってる途中で思いっきりコケたんだ。

いや、そんな田舎道ってわけじゃないのにいきなり狸が道を横切ってきたんだよ。ビックリするじゃんか。

慌てて避けようとしたらスリップして、運の悪いことにそこがカーブの途中だったってこと。

多分ガードレールか外灯にでもぶつかったんだろうな。

ちゃんとヘルメットは被ってたし、パット入りのライダースーツも着てたから擦り傷なんかは無さそうだけど、打ち付けたせいで骨でも折れたんだろ。

「で? 今は何日の何時だ?」

「夜中の2時よ。まだ病院に運ばれて5時間くらいしか経ってないわ」

げっ!

たかが骨折でそんなに気を失ってたのか?

いや、多分睡眠不足もあるんだろう。きっと。

よくよく聞いたら、事故ったときに救急車を呼んでくれたのは皇の爺ちゃんが俺につけていたボディーガードの人たちらしい。

ってか、そんなのくっつけて毎日仕事したり遊んだりしてたのか、俺。

まぁ、よくよく考えたら俺に何かあったらたっちゃんに迷惑かかるから仕方がないのか。ありがたいやら申し訳ないやら。

「コーキ、最近疲れてるんじゃない? 仕事忙しいの?」

「まぁ新人だしな。商社ってそういうもんだって話だし」

俺が就職したのは大手の総合商社だ。

将来たっちゃんの助けになろうと思って、あえて爺ちゃんと関わりのない会社に入るために大学でも結構頑張った。

で、いざ入社したは良いけど、商社ってのはかなり忙しい。

特に入社したての俺みたいな新人は資料整理や関連する業態の情報収集が膨大だし、憶えなきゃいけないことも多い。

先輩社員たちを見ても膨大なタスクを同時進行で処理するようなデキる人が多いから、付いていけるようになればかなりのスキルを身につけることがデキそうだ。

ただ、最近少し思うのが、これが本当にたっちゃんの役にたつのかってことだ。

俺が大学に行けたのも、両親が安定した生活を送れるのも全部たっちゃんと爺ちゃんのおかげだ。

だからこそいつかたっちゃんが困ったり、いや、困ってなくても何か力になれればと思って人脈を広げるためにも商社を選んだんだけど、商社の社員が関われる人脈なんて企業の担当者レベル。

たっちゃんやその彼女、あっ、今は奥さんか、穂乃香さん、それに天宮たちがもってる人脈とは土台、ステージが違う。

それに、忙しすぎて肝心のたっちゃんにも全然会えていないからな。

「ねぇ。コーキがビジネスマンとして成功したいだけなら何も言わないけど、今の仕事を続けていても本当の意味でプリンスと肩を並べることはできないと思うわよ」

「……まぁ、ジャネットの言うこともわかる気がするけどさ」

「会社勤めを軽く見ているわけじゃないわよ。実際に世の中を支えているのは地道に、実直に働いてくれている大多数の人たちだもの。でも、支えているのがその人たちだとしても、経済を動かしているのは別の立場の人たちなの」

「起業でもしろってのか?」

今から会社を立ち上げたところでもっと忙しくなるし、それでもたっちゃん並みの資産を作るなんて無理ゲーも良いところだ。

「会社を経営するっていうのも悪くないけど、プリンスやMr.スメラギの居る場所はそこじゃないわ。私のグランパもそうだけど、彼らは組織じゃなく経済の流れ自体を動かす立場にいるの。普通に働いて稼いだところで一生かけてたどり着ければ相当運が良いわね」

ジャネットの言葉が容赦なさ過ぎて泣ける。

となると、俺みたいな奴がたっちゃんの役にたとうとするなら武藤みたいに直接部下になるか護衛にでもなるしかない。

でもなぁ、それって別に俺じゃなくてもできそうだし、どうせなら俺じゃなきゃできない形でたっちゃんの助けになりたいんだよなぁ。

「だから、私がその場所にコーキを連れて行くわ」

「はぁ?」

「フォレッドのファミリーに入ればそれだけの人脈はすぐにも作れる。コーキなら間違いなくね」

「ちょっ、痛ぅ!」

思わず身体を起こそうとして激痛に悶える。

「もう、急に動いちゃダメだって」

「っ、い、いや、そんなのはどうでも良い! お前マジで言ってんのか?」

「何度も言ってるじゃない。私はコーキが気に入ってるの。というか、結婚したいと思ってるわよ。じゃなきゃ何年もつきまとったりするわけないじゃない」

「つきまとってるって自覚はあったのかよ!」

「コホン! それに、コーキがいつも断り文句にしてるフォレッド家がプリンスと敵対する可能性なんて絶対に無いわよ」

「んなもん、わかんねぇじゃねぇか」

「自殺行為だって言ってるの。確かに財力だけを比べたらフォレッドの方がまだ上よ。でも、周囲への影響力ではすでに拮抗してるし、なによりプリンスと敵対なんて恐ろしくてできっこないわよ」

いつの間にかたっちゃんが世界的大富豪に恐れられている件。

「むしろ、グランパはプリンスとの関係をもっと深めたいと思ってるの。でもプリンスには相手が居るし、他に血縁者はいない」

「だからっていまどき政略結婚かよ。ってか、そもそも俺とたっちゃんは別に兄弟でも親戚でもないぜ」

「兄弟以上でしょ。それに私だって相手がコーキじゃなかったらこんな話はしないわよ」

そう言ったジャネットの顔を見ると白い肌が赤鬼みたいに真っ赤になってる。

……マジか。

最初にジャネットに会った時は10歳くらい年上だと思ってたから完全に揶揄われてるって思ってたんだよな。

まぁ、実際には2歳上なだけで、思いっきりぶん殴られたけど。

それでも、超優秀な成績でアメリカの大学を飛び級で卒業して、自分で企業を立ち上げてるような奴が、俺みたいな一般家庭の当時学生に本気で好意を寄せるなんて信じられるわけがない。

その内、ジャネットが好きだの結婚しようだの言っててもいつものじゃれ合い程度にしか考えてなかったんだが……

「本気で考えてくれない? 私はコーキが好きよ。最初は打算でも構わないわ。絶対に後悔させないから。だから……」

「ジャネット、俺は……」

彼女の潤んだブルーアイに吸い込まれるように目が離せなくなる。

そして、湧き出してきた気持ちが口から出そうになった瞬間、

「コーくん、大丈夫!?」

かなり乱暴に病室のドアが開いた。