作品タイトル不明
第三十九話 燃えた棚の後で
放火の翌日、名前の家の前には大勢の人が集まった。
保護院の職員、領都の職人、村人、名簿所職員、そして子どもたち。誰かが呼びかけたわけではない。朝になると、少しずつ人が来て、焦げた木材を運び、水を汲み、床を拭き始めた。
私は煙で喉がかすれていたが、休んでいられなかった。
アンナには叱られた。
「奥様は指示だけです。釘打ちは禁止です」
「でも」
「禁止です」
強い。
私は大人しく、記録の確認と作業の振り分けをした。
リネリアは子どもたちと一緒に、小さな布を洗っていた。焦げた棚から救い出した名綴り布のうち、修復できるものを選ぶためだ。リンはその隣で、鈴の子たちに布の扱いを教えている。
「こわくない。ゆっくり」
リンの声はまだ小さい。
けれど、以前のように消えそうではなかった。
昼過ぎ、王都からセシリアとミーナが来た。
新聞で放火の記事を見て、急いで向かったという。セシリアは旅の疲れも見せず、裁縫籠を開いた。
「補修を手伝います」
「無理はしないでください」
「研修を受けた補助員ですから」
その言い方に、私は少し笑った。
ミーナはリネリアのそばへ行き、布を洗う手伝いを始めた。
「リネリア、大丈夫?」
「けむり、こわかった」
「うん」
「でも、リン、でた」
「よかった」
二人はそれ以上、難しい話をしなかった。布を洗い、水を替え、時々黒パンが邪魔をして笑う。
燃えた棚の再建には、テオドール様も加わった。
領主が自ら木材を運ぶことに周囲は驚いたが、北境の人々はすぐに慣れた。誰かが「辺境伯様、釘が曲がってます」と言い、彼は真面目に打ち直した。
夕方、新しい棚の枠が立った。
以前より低く、子どもでも見える高さにした。忘れない布の棚は、奥にしまうのではなく、明るい窓辺に移すことにした。見たくない日は布をかければいい。見たい日は、自分で布を上げられる。
テオドール様はエリスの布を新しい棚へ置いた。
「ここへ置いてもよいですか」
「もちろんです」
彼は少し微笑んだ。
リネリアがエリスの布の前に、小さな丸い石を置いた。
「これは?」
「きれいだったから」
理由はそれだけだった。
でも、テオドール様は深く礼をした。
「ありがとうございます」
放火犯はその日のうちに捕まった。
東市場の店主の仲間で、王都の商会から金を受け取っていたという。彼はダリウスの名を知らないと言い張ったが、持っていた指示書には中央局の古い符号が使われていた。
完全な証拠ではない。
しかし、線はさらに濃くなった。
夜、名前の家で小さな名呼びをした。
火事で怖い思いをした子どもたちに、この場所がまだ自分たちの場所であることを確認するためだ。
マリベルが名簿を開く。
「リネリア」
「はい」
「リン・エイル」
「はい」
「ノル」
「はい」
「ミーナ」
「はい」
ミーナの名前が北境の名呼びで呼ばれたのは初めてだった。彼女は少し驚き、それから嬉しそうに返事をした。
セシリアの目が潤む。
続いて、鈴の子たち。
まだ正式名はない。マリベルは慎重に言った。
「ちいさい鈴」
女の子が小さく手を上げた。
「大きい鈴」
男の子が鈴を握り、うなずいた。
それでいい。
今はまだ。
名呼びの最後に、マリベルは言った。
「名前の家」
全員が一瞬戸惑った。
それからリネリアが大きな声で返事をした。
「はい!」
子どもたちが笑い、次々と「はい」と返した。
名前の家も、呼ばれて返事をした。
燃やされても、ここにいる。
その夜、私は工房の片隅で焦げた木片を一つ拾った。捨てるためではなく、記録として残すためだ。
テオドール様が隣に来た。
「疲れたでしょう」
「少し」
「少しではないと思います」
「では、かなり」
彼は小さく笑った。
沈黙のあと、彼が言った。
「放火の報告を受けたとき、あなたとリネリア様が無事か、それしか考えられなかった」
私は木片を持つ手を止めた。
彼の声は静かだったが、いつもの職務上の心配とは違っていた。
「領主として、全員の無事を考えるべきなのに」
「全員を心配していました」
「ええ。ですが、最初に浮かんだのはあなたでした」
胸が静かに跳ねた。
私はすぐ返事をできなかった。
テオドール様は続けなかった。急がない人だ。感情さえ、こちらへ押しつけない。
しばらくして、私は言った。
「私はまだ、離縁の手続きが終わっていません」
「分かっています」
「娘の生活が最優先です」
「それも分かっています」
「それでも、あなたの言葉を、なかったことにはしたくありません」
彼は私を見た。
「それだけで十分です」
燃えた棚の匂いが残る工房で、私たちはただ並んで立っていた。
恋と呼ぶには、まだ慎重すぎる。
けれど、信頼の糸は確かに結ばれ始めていた。