作品タイトル不明
新魔法の報告2
「いえ、魔力譲渡の属性不一致にはファラとアスナは参加しておりません。カルア、ゲディング、トルーバを始めとする男の子達とまず試し、その後オヴェリア達に相談して本人達の了承を得て行いました」
ファラとアスナの協力を得て、属性一致による魔力譲渡魔法の検証をある程度終えた後のこと。
当然、属性不一致による魔力譲渡の検証を行うことにしたんだけど、フェイから『属性不一致を試すのは止めないけどさ。
魔力譲渡できないどころか衝撃と激痛が凄いから、お勧めはしないよ』という発言があった。
『リッド様、私は一向に構いません。さぁ、やってください』
彼の言葉を聞いてもファラは意に介さず、僕の手を強く握りしめてくれた。
でも、『属性不一致に衝撃と激痛が伴う』と聞いた以上、彼女に施すわけにはいかない。
本人は頬を膨らませ『だからこそ、私でしてください』と迫ってきたけどね。
僕とアスナの説得を受け、彼女は渋々了承。
その後、カルアやゲディング達に協力をお願いし、魔力譲渡魔法の属性不一致を試した。
結果、フェイの言うとおり、術者の僕と対象者の皆に拒絶反応と思われる衝撃と激痛が全身を駆け巡り、地面を転がって悶絶したことは言うまでもない。
『魔力変換強制自覚』の数倍はあろうかという痛みだった。
属性不一致の魔力を対象者に流し込んだ瞬間、強烈な静電気が発生したような音が全身に響き、雷に打たれたような衝撃と電流のような激痛が体中を駆け巡ったのだ。
できれば二度と味わいたくない感覚だったけど、魔力譲渡魔法の仕組みをより理解するため、僕は幾度となくこの痛みを体験することになった。
何度、拒絶反応の衝撃と激痛に耐えきれずその場で蹲り、僕と皆の悶え苦しむ声が牢宮に轟いたことか。
まぁ、それでも僕は目に涙を浮かべつつも楽しかったけどね。
『うぐぅ、痛い。痛いけど、この痛みは魔法の理解に繋がる産みの苦しみなんだ。痛いけど、痛くないぞ。あは、あはは、あっははは』
『お労しや、リッド様。どうかお気を確かに』
『……リッドって、魔法のことになると後先考えず狂気じみて性格が変わるよねぇ』
蹲って悶絶しながら笑っている僕の姿を見たファラは心配し、フェイは呆れ顔で肩を竦めていたっけかなぁ。
「なるほど、な。報告書の内容は理解した。地上に戻り次第、この報告書をサンドラにも渡しておこう。きっと驚くはずだ」
「そうでしょうね。彼女も魔力譲渡魔法の研究はしていましたから」
サンドラは母上の魔力枯渇症を完治させる方法を探しつつ、魔力譲渡についての研究も行っていたからね。
僕は相槌を打つと、「ところで、父上……」と畏まって切り出した。
「一度地上に戻り、この魔力譲渡魔法を母上に試したいと思うのですが如何でしょうか?」
母上が患っている魔力枯渇症は、何らかの理由で魔力が自然回復しなくなり、いずれ魔力の源となる生命力にまで影響を及ぼして死に至る病だ。
魔力回復薬は、あくまで魔力を一時的に回復させるのみで完治には至らない。
レナルーテ王国で出会った薬師ニキークの協力で得た『レナルーテ草』による試験薬も開発し、母上に投与している。
でも、試験薬の効果は緩やからしく、完治にはまだ至っていない。
そうした状況下、僕の持つ魔力を母上に譲渡すれば回復速度を大幅に上げられる可能性がある。
「私も賛成です」
隣に座っていたファラが、すぐに相槌を打って切り出し、父上を真っ直ぐに見据えた。
「義父様【おとうさま】、リッド様の魔力はとても優しくて、心暖まるものでした。きっと御母様【おかあさま】もお喜びになると存じます」
「確かに、二人の言うことも尤もだな。魔力が減り続けるのが魔力枯渇症の特徴だ。魔力回復薬でナナリーの症状が軽減したことを考えれば、リッドが魔力譲渡をすれば良い効能が期待できる可能性は高いだろうな」
父上がこくりと頷いた姿を見て、僕は意気揚々と身を乗り出した。
「はい、仰る通りです。では、僕は早々に一旦地上に戻り……」
「だが、時期尚早だ。リッド、お前はこのまま修行に集中しろ」
「え、えぇ⁉ どうしてですか、父上⁉」
驚きのあまり声が裏返ってしまう。
でも、父上は動じずにゆっくりと首を横に振った。
「リッド、お前の気持ちを否定するつもりはない。しかし、魔力枯渇症の患者に魔力譲渡魔法を使用した前例はないのだ。幸い、ナナリーは魔力回復薬と治療薬の併用で確実に回復に向かっているし、容態も安定している。今は魔力譲渡魔法についてサンドラ達の意見を聞き、慎重を期すべきだ」
「そ、それはそうですが……」
断られるなんて微塵も思っていなかった僕は、返す言葉に詰まってしまった。
「お前がナナリーのことを想ってくれていることはわかる。だからこそ、焦りは禁物なのだ。急がず安全を確認してからでも、魔力譲渡は遅くはない。その期間、お前は獣王戦に向けた修行に専念しろ」
「……わかりました」
母上に僕の魔力を渡せる。やっと直接、母上の力になれる方法が見つかったのに。
まさか父上に止められるなんて、思いもしなかったなぁ。
気落ちしてしょぼんと僕が俯くと、父上が咳払いをして「リッド、こう考えなさい」と優しく口火を切った。
「ナナリーに未熟な魔力譲渡魔法を使用するのではなく、熟練した魔力譲渡魔法を用いる。そのための期間だとな」
「あ……」
「魔法の才に愛されたお前のことだ。この牢宮で修練を積めば、誰よりも魔力譲渡魔法が上手に扱えるようになるだろう。それにだ、今のナナリーが魔力枯渇症ですぐに倒れると思うか?」
「いえ、思いません」
最近の母上は、体調が良ければ張り切ってリハビリに挑んでいる。
むしろ、周囲がやり過ぎと止めるぐらいだ。
「そうだろう。ナナリーを信じ、その百倍、自分の才を信じて修練を積むのだ。魔力譲渡魔法の安全性が確認できた時に備えてな。言っておくが、これはお前にしかできないことだぞ」
「……⁉ わかりました、お任せください」
僕がハッとして頷いたその時、「確かにねぇ……」とフェイが呟いた。
「属性素質が一致した魔力譲渡も、やり過ぎたら相手の器が壊れちゃうこともあるだろうし。父君の言うとおり、安全性は確認してからの方が良いと思うよ。体の弱っている母君に施すなら尚更、ね」
「え……?」
彼の発した言葉で部屋の空気が一瞬で凍てつき、皆の顔が固まった。