軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとファラ、新魔法の探求2

フェイが僕に魔力を流し込み、教えてくれた魔力譲渡魔法。

鍵となるのは術者と対象者の生まれ持った魔力の性質というフェイの言葉に加え、僕自身が流し込まれた魔力によって属性素質が関わっている感覚があった。

これらのことを踏まえ、僕は魔力にファラが持つ『闇、氷、風、雷』の属性を与え、魔力変換強制自覚の応用で繋いだ手を通して彼女にゆっくりとその魔力を流し込んだ。

結果、ファラに僕の魔力を譲渡することに成功。フェイにも出来ていると太鼓判を押された。

人それぞれに流れる魔力を『血』に例えるなら、属性素質が『血液型』みたいなものなんだろう。

「……という訳なんだ。フェイの言っていた生まれ持った魔力の性質、相性というのは属性素質のことで間違いないと思う。多分、魔力譲渡をするには術者と対象者が同じ属性素質を持っていないと駄目なんだよ」

「へぇ、そういう仕組みなのか。人って面倒なんだねぇ」

フェイがやれやれと肩を竦めるなか、「なるほど」とファラが合点がいった様子で頷いた。

「それで、私の持つ属性素質を確認されたのですね」

「うん。協力してくれてありがとうね」

「いえいえ。リッド様のお役に立てて嬉しいです」

ファラがあどけない満面の笑みを浮かべると、彼女の横で控えていたアスナも目を細めて会釈した。

「魔力譲渡魔法の開発、おめでとうございます。しかし、ただ成功させるだけでなく、仕組みまで一度で理解されるとは。いやはや、驚きを禁じ得ません」

「ありがとう。でも、まだ仕組みがわかって一度成功しただけだからね。これから行う再現性の検証と一般化に向けた研究の方が大変だよ」

「……再現性の検証はわかりますが、魔力譲渡魔法を一般化させるおつもりなのですか?」

アスナは目を大きく見開き、恐る恐る聞き返してきた。

「うん。もちろん、世間一般に公表する時期は父上に相談するけどね。僕の直属部隊になる子達やバルディア騎士団の信用がおける面々には使えるようになってほしいからさ」

「あぁ、なるほど。それでしたら納得です。よもや、大陸全土に広めるのかと思いましたよ」

「あはは。勝手にそんなことしたら、父上の大目玉どころじゃすまないだろうね」

ほっと胸を撫で下ろすアスナの姿に、僕は思わず噴き出してしまった。

僕が前世の記憶を取り戻す以前から魔力回復は帝国だけに留まらず、各国が我先にと研究をしていた分野だ。

でも、母上を救うために開発した魔力回復薬によって、名実ともにその分野の最先端は帝国もといバルディア家となっている。

世間的には薬を開発したのはサンドラで、後援者は父上だ。

そうした状況下、魔力譲渡魔法まで開発に成功……なんて、いきなり公表したらとんでもない騒ぎになるだろう。

それは良い目立ち方じゃないし、無用な敵を作る可能性だってある。

「さて、それじゃあ魔力譲渡魔法の研究を続けようか。ファラ、また協力をお願いしていいかな」

「はい、もちろんです。何でも仰ってください」

ファラは目を輝かせ、僕の前にやってきた。

「じゃあ、もう一度両手を出してもらってもいい?」

「はい、こうでしょうか?」

「ありがとう。これからファラの持つ四属性で、さっきと同じように魔力を流すから、その時の感覚を覚えておいて欲しい」

「感覚ですか?」

ファラが小首を傾げるなかで、僕は彼女の両手を優しく握りながら頷いた。

「うん。まずは四属性で魔力譲渡できるかの確認。その次は属性を一つずつ減らして、一つでも属性が合っていれば譲渡できるか試したいんだ。属性数に応じて譲渡できる魔力量に変化もあるかも調べたいと思ってる。長丁場になるかもしれないけど、お願いしていいかな」

属性素質の数は個人差が激しい。

僕は全属性を持っているけど、ファラは四属性、アスナは二属性のみ。

この属性数まで一致していないと魔力譲渡できない場合、魔力譲渡魔法はかなり使い勝手の悪い魔法と言わざるを得ない。

それでも、魔力譲渡が可能であることがわかったこと自体が大発見であることは間違いないだろうけどね。

「わかりました。こちらこそお手伝いできて嬉しいです。いくらでも仰ってください」

「ありがとう。じゃあ、さっきと同じ『闇、風、氷、雷』の四属性で始めるね」

僕はそう言うと、自分の中に流れる魔力に集中し、先程同様に自分の魔力に四属性を与えていく。次いで、握っている彼女の手を通してゆっくり魔力を流し込んでいった。

「ん……」

「どうかな。痛みや違和感はない?」

彼女が少しくぐもった声を漏らしたので、心配になって声をかけたところ、「いえ、大丈夫です」と彼女は首を横に振った。

「最初同様、暖かくて元気がみなぎる感じがします」

「そうなんだね。じゃあ、今の感覚を基本の『十』として覚えておいて欲しいんだ」

「『十』ですね。わかりました」

ファラが頷くと、僕は魔力を流し込むのを止めた。

「あ、そうだ。アスナ、これに属性数とファラの感覚をメモしてもらっていい?」

僕は懐から小さなメモ帳と鉛筆を取り出し、アスナに手渡した。

メモ帳はバルディア領内で生産された紙で、鉛筆はバルディア特産の木炭を原材料に作ったものだ。

「畏まりました。お任せください」

「うん、お願いね」

彼女はメモ帳と鉛筆を手にして下がると、僕はファラと視線を合わせた。

「じゃあ、次は三属性でいくね」

「はい、お願いします」

僕は三属性、二属性、一属性と属性数と属性の組み合わせを変えて魔力を何度もファラに流していった。

「よし、次で最後だよ」

「はい、わかりました」

ファラがこくりと頷いたのを合図に、僕は『雷』の属性を与えた魔力を握った彼女の手を通じてゆっくり流し込んでいった。

「どうかな」

「……そうですね。やっぱり、四属性を『十』とするなら一属性は『一か二以下』といった感じでしょうか」

こちらの問いかけに、彼女は真剣な表情で答えてくれた。

ファラに協力を得た検証の結果、術者と対象者の属性素質がどれか一つでも合致していれば魔力譲渡は可能なようだ。

ただし、術者と対象者の属性素質が全て合致した場合のみ、術者の魔力を対象者に丸々渡せる。

属性素質が一つでも足りない場合、渡せる魔力が減るみたいだ。

属性素質を四つ持っているファラを例にした場合。

四属性なら受け取れる魔力は『十』。

三属性なら受け取れる魔力は『六~七』。

二属性なら受け取れる魔力は『四~五』。

一属性なら受け取れる魔力は『一~二』。

以上のような結果になった。

ちなみに属性の組み合わせは受け取れる魔力量に関係ないらしい。

あくまで一例だから検証数は増やす必要があるけど、今はこれだけわかっただけでも十分だ。

「そっか、わかった。ありがとう、ファラ。君のおかげで魔力譲渡魔法のことがわかってきたよ」

「いえ、リッド様のお役に立てて良かったです」

僕が魔力を流すのを止めて手を離したその時、「あ……」とファラがふらついてその場にへたりと座り込んで俯いてしまった。

「ファラ、大丈夫⁉」

慌ててしゃがみ込んで呼びかけたところ、「だ、大丈夫です」と返事が聞こえてファラがゆっくりと顔を上げた。

その表情は目が潤み、頬から耳までほんのり赤く染まっている。

か、可愛い……⁉

不謹慎ながら、あまりに可憐で胸がどきりとして見蕩れてしまった。

「姫様、どうされたのですか⁉」

「アスナ、リッド様。心配掛けてごめんなさい。少し火照ってしまったのか、足の力が抜けちゃいました」

側でメモを取っていたアスナが駆け寄ってくると、ファラは決まりが悪そうに頭を下げた。

「あぁ、それはあれだね」

さも当然のように切り出したのは、宙に浮かびながらあぐらを掻いていたフェイだ。

「リッドの譲渡した魔力がファラの最大魔力量、いわば許容量を超えちゃったんだよ」

「許容量だって。フェイ、僕はそんな話聞いてないよ」

じろりと睨むも、彼は肩を竦めて呆れ顔を浮かべた。

「聞いてなくても大体わかるでしょ。人や物には何にでも魔力の許容量があるんだ。それを越えてしまえば、反動がくるのは当然さ。よくよく考えればわかることだろう?」

「う……」

言われてみれば確かにそうだ。

でも、いつも使うばかりで許容量を超えたらどうなるかなんて、考えたこともなかったから失念していたんだ。

「フェイ、姫様の状態は理解した。この後はどうなる。いや、どうすればいい」

アスナが距離を詰めて捲し立てるも、フェイは「まぁまぁ、落ち着いて」と両手を前に出して制止した。

「ファラの様子を見る限り、ちょっと許容量を超えただけさ。少し休めばすぐに治るよ」

「そうか。それを聞いて安心した」

アスナがほっと胸を撫で下ろすも、そのやり取りを聞いていた僕は真っ青になって、ファラに向き直った。

「ごめん、ファラ。僕の考えが足りなかったばっかりに無理をさせてしまったみたいだ」

「気にされないでください。私も早くお伝えすれば良かったのですから」

「いや、ファラは何も悪くないよ。僕の落ち度だ。何かしてほしいことはない? 何でも言って」

彼女の目を真っ直ぐに見据えて告げると、ファラは「そ、それでしたら……」と力なく呟いた。

「一つお願いがあります」

「うん、なんだろう」

「あの、少し横になりたくて。良ければ、その、リッド様のお膝を貸して頂けませんか?」

「え……?」

横になりたいから、僕の膝を貸してほしい?

言われた瞬間は意図がわからず困惑するも、すぐに『膝枕をしてほしい』という意味であることに気付き、僕の顔は急激に火照った。

「……やはり駄目でしょうか」

「い、いや、そんなことはないよ。僕の膝で良ければいくらでも貸すさ」

ファラに潤んだ目で求められ、断れるわけがない。

僕は膝枕がしやすいよう、急いで足を伸ばしてその場に座った。

そもそも、彼女がこうなった原因は僕にあるんだから。

「えっと、これでいいかな」

「はい、ありがとうございます」

ファラは僕の膝を枕にし、その場で仰向けにころんと寝転んだ。

「ふぅ……」と彼女が深く息を吐く様子から、口で言うよりも相当に辛かったことが察せられる。

「……ファラ、無理させて本当にごめんね」

「気にしないでください。私はリッド様のお力になれて嬉しかったんです」

「うん。でも、ファラに無理させてしまった僕が、僕を許せないんだ。ごめんね」

僕はそう言って、片手に水と氷属性の魔力を纏わせて彼女の額に優しくその手を置いた。

「ふふ、リッド様の手。冷たくてとっても気持ち良いです」

「……皆でしばらく休もうか。実は、僕もちょっと疲れてたんだ」

「はい、畏まりました」

ファラは目を細めて微笑んでから、ゆっくりと目を閉じていく。

こうして僕達はファラが回復するまで休憩を取り、その後も魔力譲渡魔法の検証を続けた。