作品タイトル不明
リッドとファラ、新魔法の探求
「うん。『闇、氷、風、雷』で間違いなかったよね?」
「はい。以前、『属性素質調べる君』で確認した際はその四つでした」
ファラは僕の問い掛けにこくりと頷いた。
『属性素質調べる君』とは、僕がドワーフ姉妹のエレンとアレックスに製作をお願いした属性素質鑑定機だ。
対象者の持つ魔力属性に応じて色彩反応を示す『魔綱』という素材を用いている。
この鑑定機によって第二騎士団に所属する皆の属性素質を把握し、適切な人員配置や業務振り分けといった運営の効率化に成功した。
また、種族ごとに基本属性というべきか、属性素質の偏りがあることもわかっている。
ファラの種族であるダークエルフで言えば、誰しもが闇と風の属性素質を持っている……という感じだ。
絶対とは言えないけど、ファラやアスナをはじめ、バルディアにやってきたダークエルフの方々に協力を依頼して相当数調べた結果だから確実性は高い。
ただし、人族の場合は種族というよりも地域によって偏りがあるみたいなんだよね。
バルディア家は代々『火』で、バルディア領に元から住んでいる人達も『火』の属性素質を持っていることが多い、といった具合だ。
この辺りはまだまだ調査中だけどね。
「ですが、それがどうかされたのですか?」
「ちょっと試したいことがあってね」
僕はファラの前に進み出て「えっと……」と切り出した。
「もう一度、両手を貸してもらっていいかな」
「はい、もちろんです」
ファラが笑みを浮かべ、何の躊躇や戸惑いもなく両手を差し出してくれた。
「ありがとう」
僕は優しく包むように手に取った。
彼女の手は僕よりも小さくて、少しひんやりしている。
さっきは何も考えずに手に取ったけど、今は自らお願いしたんだよね。
そう思うと胸がドキッとして、じんわりと顔が熱くなった。
「……? どうかされましたか?」
「あ、いや。何でもないよ」
僕は誤魔化すように頭を振ると、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「……もし、痛みとか違和感があったらすぐに言ってね」
「はい、わかりました」
ファラが頷いたその時、「姫様、リッド様」とアスナが切り出した。
「もし、危険があるようでしたら私が代わりましょうか」
言われてみればその通りだ。
アスナの属性素質は『闇』と『風』で確認できているし、仮説と閃きを元に初めて試すことだから危険がゼロとも言えない。
「それもそう……」
「いいえ、このままで構いません」
アスナの申し出を受け容れようとするも、ファラが被せるように強めの口調ではっきりと告げた。
「リッド様のお力に触れるのですから怖いことはありません。それに万が一のことがあれば、私が私を許せませんから」
「畏まりました」
ファラの目には強い意思が宿っている。
こうなったら彼女は梃子でも動かない。
アスナもそれがわかっているからすぐに引いたんだろう。
こういうところもファラの魅力だけどね。
「リッド様。どうかこのまま私でお試しください」
「……わかった。じゃあ、さっきも言った通り、何かあったらすぐに言ってね」
「はい。お願いします」
彼女が僕に向ける視線、全幅の信頼に胸が熱くなる。
ファラの言葉に応えるためには、仮説と閃きを実証することしかない。
僕は深く集中し、自分の魔力にいくつかの属性を与え練り込んでいく。
次いで魔力変換強制自覚の応用をし、その魔力をゆっくりと繋いだ手を通じてファラに流し込んでいく。
すると彼女は目を瞬き、「あ、う……」と小さな呻き声を漏らした。
僕はハッとし、慌てて手を離して流し込むのを止めた。
「ごめん。痛かった?」
「い、いえ。痛くはありません。でも、何だか初めての感覚で戸惑ってしまいました」
ファラはそう言って深呼吸をし、僕の目を見ながら両手を差し出した。
「リッド様、どうぞ続けてください」
「う、うん。じゃあ……」
ファラの手を優しく包むように握り、僕は先程の工程を自分の中で繰り返した。
魔力に属性を与えて練り込んでゆっくり、ゆっくりと。
水面に波紋を起こさず、浸透させるように魔力を流し込んでいく。
程なく、ファラが「ん……」と小さな声を漏らした。
「どう、かな。何か感じた?」
恐る恐る尋ねると、彼女はこくりと頷いた。
「とても優しくて暖かい光が私の中に流れ込んできて、溶けているような気がします。これがリッド様の魔力なのでしょうか?」
「うん、多分ね。気分はどうだろう。気持ち悪いとか、痛いとか、違和感はない?」
「えっと、そうですね。嫌な感じは何もありません。どちらかといえば、あの……」
「どちらかといえば……?」
僕が首を傾げたところ、ファラは頬を少し赤く染め、視線を泳がせながら「そ、その……」と切り出した。
「こ、心地よくて気持ち良いと申しますか。体がぽかぽかして、ふわふわしてくる感じがしました。あと、活力というか元気が湧いてくるような気がいたします」
「そう、なんだね。はは、ファラが元気になってくれるなら僕も嬉しいよ」
照れ隠しに微笑み返したその時、「おぉ、さすがリッドだね」と宙に浮いていたフェイが僕とファラの繋いだ手の上にやってきた。
「ちゃんとリッドの魔力がファラに流れ込んでるよ。拒否反応も起きていないみたいだね」
彼は興味深そうにまじまじと僕達の手を見つめ、こちらに振り向いた。
「おめでとう、リッド。君は、えっと、魔力譲渡魔法だっけかな。まぁ、ともかく、それを成功させたんだよ」
「ありがとう、フェイ。君にもそう言ってもらえるなら間違いないね」
どうやら仮説と閃きは当たりだったみたいだ。
僕はほっと胸を撫で下ろし、ファラに流し込む魔力を止めた。
「あ……」
「ファラ、協力してくれてありがとう」
「い、いえ。お役に立てたなら良かったです」
彼女は自身の手を握りつつ、恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
「どうかしたの? あ、もしかして最後に痛みが走ったとか?」
「そ、そんなことはありません。ただ、少し名残惜しかったと申しますか……」
僕が心配して顔を覗き込んだところ、彼女はたじろぐもすぐにハッとして慌てた様子で頭を振った。
「な、何でもありません。私は大丈夫ですから気にされないでください」
「そうなの? それなら良いんだけど……」
きょとんと首を傾げていると、「お二人とも、ご馳走様です」とアスナが拍手をしながらこちらにやってきた。
「しかし、魔力譲渡魔法を一度で成功させるとは驚きました。一体、どのような仕組みなのでしょうか。あ、いえ、私が尋ねていいことではありませんでしたね」
「いやいや、そんなことはないよ。むしろ、アスナとファラの意見も聞きたいし、僕がやったことを説明するね」
確認と検証のため、僕はファラ、フェイ、アスナの三人に魔力譲渡魔法発動における一連の工程を伝えていった。