軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとフェイ、新たな魔法?

「高負荷修練。皆、汗水垂らしてよく頑張ってるねぇ」

「君が協力してくれたからだよ。ありがとう、フェイ」

「ふふ、そうでしょ。もっと僕のことを褒めてくれていいんだよ、リッド」

牢宮内にある木々と草花に覆われた山岳地帯。

麓の屋敷周辺では、基礎訓練を頑張る皆の姿が遠目に見える。

僕の頭上でフェイは嬉しそうに胸を張った。

高負荷修練を開始し、座学で修練の目的を伝えてから数日が経過している。

牢宮で過ごす一日は、地上だと約二時間程度。

多分、地上ではまだ一日も経過していないだろう。

改めて、フェイはとんでもない力を持っていると思い知らされる。

「……そうだね。君が僕の家族になってくれて良かった。心からそう思ってるよ」

「え、えぇ? そんな顔で真っ直ぐに言われたら……僕、リッドに惚れちゃいそう」

僕が微笑み掛けたところ、フェイは何故か顔を赤らめて体をよじらせた。

はて、どうしたのかな。

意図が分からず首を傾げたその時、「フェイ、駄目ですよ」と冷たい声が聞こえてくる。

ハッとして振り向けば、ファラが目を細めていた。

「リッド様は私と結婚しているのですから」

「わ、わかってるよ。冗談、ただの冗談だよ」

「そうですか。それなら良いのですけど」

彼女に一瞥され、びくりと竦んだフェイは慌てた様子で首を横に振った。

「……全く、ファラはリッドの事になると見境がなくなるんだから」

「あら、何か仰いましたか?」

「いいえ、何も!」

口を尖らせてぶつくさ言ったフェイだったが、ファラの言葉で宙に舞いながら直立不動の姿勢となる。

そのやり取りを間近で見ていたアスナが「ふふ」と笑みを溢し、こちらを見やった。

「リッド様は、いつも愛されておりますねぇ。ご馳走様です」

「あ、あはは……」

僕は苦笑しながら頬を掻いた。

この場に居るのは僕、フェイ、ファラ、アスナの四人だけだ。

カペラとカーティスは皆の訓練を監修し、ティンクとジェシカは二人の補助と食事の用意、屋敷管理をしてくれている。

普段であればカペラとティンクが僕のお目付役として側にいるんだけどね。

今回はファラとアスナがその役を担っている。

『ファラ様の言葉であればリッド様も大人しく聞いてくれるでしょう』

『ファラ様、リッド様が無理無茶をされぬようお願いいたします』

カペラとティンクはそう言って、お目付役をファラにお願いしていた。

『僕って、そんなに信用ないのかなぁ』と、内心ちょっとだけ落ち込んだのは秘密だ。

「リッド様、ところで今度は何をされるおつもりなんですか? 新しい魔法をフェイから習うとだけお聞きしましたけど」

「うん、実はね……」

ファラの質問に、僕はフェイとの出会いを思い出しながら語った。

『魔力を分け与える魔法』……牢宮で初めて顔を合わせた時、彼はその魔法を使えることをほのめかし、『さぁ、試しに僕の魔力を受け取ってみて。話はそれからさ』そう言って騙し討ちしようとしてきた。

まぁ、悪意と殺気が漏れていたから、すぐに猫かぶりだと見破ったけどね。

紆余曲折を経て牢宮攻略を達成し、フェイと和解を遂げた後、僕は改めて『魔力を分け与える魔法』について彼に尋ねた。

『あぁ、忘れてたよ。でも、そういえばそんな話したね。興味があるなら、今からでも教えようか?』

あっけらかんと答えるフェイの姿にこけそうになるが、『じゃあ、ぜひともお願いするよ』と僕は彼にお願いし、現在に至っている。

牢宮から生還を果たした後、すぐにあったやり取りなんだけどね。

皇族と高位貴族の子息令嬢達のバルディア訪問なんかもあって、今日の今日まで先延ばしになっていた。

「……というわけでね。これからフェイに『魔力を分け与える魔法』を教えてもらおうというわけなんだ」

「それは素晴らしい魔法ですね。もしかしたら、ナナリー義母様【おかあさま】の治療、いえ根治に繋がるかもしれません」

「えぇ。しかし姫様、それだけではありません」

ファラが目をキラキラさせて身を乗り出すなか、アスナが真顔で切り出した。

「魔力譲渡魔法が発見、実現されたとなればリッド様の名前が魔法史に刻まれるでしょう」

「わぁ、リッド様の名前が魔法史に残るなんてとっても素敵です」

「あ、あはは。まだ本当にできるかどうかわからないけどね」

仮に魔力譲渡魔法が使えるようになったとして、公表するつもりは当分ないんだけどね。

二人とも盛り上がっているし、今は言わなくても良いだろう。

「何だよそれ。僕がリッドに教えるんだから、魔法史に刻むべきは『フェイ・バルディア』の名前でしょ」

フェイが腕を組んで口を尖らせ、ぷいっとそっぽを向いた。

「まぁまぁ、フェイもそんなに拗ねないで……」

僕が彼を宥めようとしたその時、ファラがすっと前に出た。

「フェイ、貴方はそんな態度を取れる立場なのですか」

「ん……? どういう意味だよ」

棘のある口調で返すフェイだが、ファラは怯まず言葉を続けた。

「リッド様が説明中だったので、あえて指摘しませんでしたが……」

彼女はそう言って目を細めつつ、ずいっとフェイに顔を寄せた。

「な、なんだよ」

「リッド様に騙し討ちなんて、随分と不届きな真似をしたようですね」

「あ……⁉」

ファラが言わんとしていることを察したらしく、彼はハッとして真っ青になった。

「いやいや、その件はもうリッドに謝ってるし、解決済みでしょ。それに今は本当に悪かったと思っているよ」

「それでしたらそのような態度を取らず、謙虚かつ誠実に魔力譲渡魔法をリッド様にお伝えください。謝罪というものは言葉で伝わるのはほんの一部、重要なのは行動です。お忘れなく」

「う……⁉ わかった、わかったからそんなに凄まないでよ」

「では、よろしくお願いしますね」

彼女はにこりと笑い、フェイからすっと離れた。

彼はほっと胸を撫で下ろし、逃げるようにこちらへやってきて僕の耳元に顔を寄せてきた。

「……リッド、君の奥さん。見た目に反してめっちゃ怖いじゃないか」

「そう?」

僕は首を捻ってファラを横目で見やった。

確かに彼女が怒った際に放つ凍てつく視線、冷たい声から発せられる圧は確かに凄まじい。

でも、見方を変えれば、彼女の心が自由になって感情表現がどんどん豊かになっている証拠だ。

ふいにファラと目が合うと、彼女はきょとんとして小首を傾げた。

僕はにこりと微笑みつつ、フェイに視線を戻した。

「怒った姿も含めて、僕の奥さんは見た目通りにとても可愛いじゃないか」

「……そうか。リッドは愛妻家として有名なんだっけ。聞いた僕が悪かったよ」

彼は唖然とした後、やや間を置いてため息を吐きながら俯いてしまう。

だけど、彼はすぐに顔を上げて「でも……」と続けた。

「ファラの名に聞き覚えはないんだけど。な~んか、どこかで会ったことがあるような気がするんだよねぇ」

「え、そうなの? あ、もしかしてバルディアに来る前、レナルーテの地下で牢宮を造っていたとか?」

フェイ曰く、牢宮を造り出す牢宮核【ダンジョンコア】は地中を進み、大陸中に移動できるそうだ。

見た目こそあどけない蝶の羽を持つ妖精で、幼い口調で話す彼。

だけど、実年齢はおそらく僕達とは桁違いに年上だと思われる。

本人に『歳を数える』という認識がないから年齢はわからないし、ずっと一人で過ごした影響なのか精神年齢は低いみたいだけどね。

「いや、僕は教えてもらったズベーラとバルディア周辺でしか活動したことがないんだよねぇ」

「じゃあ、ファラと同じダークエルフを過去に牢宮へ誘ったことがあるとか?」

「うん、それはある。あるんだけど、そういう感覚じゃなくて。うーん、なんて言ったらいいだろうね」

彼は両腕を組んで唸るも、程なく「……まぁ、いっか」と肩を竦めた。

「多分、リッドの言うとおり過去に出会ったダークエルフとファラの雰囲気が似てるんでしょ。それよりも……」

フェイが左の掌を開いた次の瞬間、その掌上に暖かい光を放ち、周囲を明るく照らす白い魔力弾が生成された。

「これがリッドの求めた『魔力を分け与える魔法』。ファラとアスナの言葉を借りるなら『魔力譲渡魔法』になるのかな」

唐突な魔法披露に唖然とするも、間もなく僕の心は強烈な好奇心と興味に掻き立てられた。

すごい、これは本物だ。

彼が僕を騙し討ちしようと生成した攻撃魔法の魔力弾とは、明らかに気配が違う。

攻撃の意思、属性、殺気のような不純物というか、混じりっけなしの純粋な魔力のみで生成されているように感じられる。

「えっと、もっと間近で見ていいかな」

「もちろんだよ、リッド。でも、その前にこれの使い方なんだけど……」

フェイはそう言って、にやりと口元を緩めた。

「こうするんだ」

「え……?」

彼は左の掌上に造り出した魔力弾を勢いよく、殴ってえぐり込むように僕のお腹に打ち込んだ。

虚を突かれて呆気に取られるも、お腹から全身に強烈な衝撃が走って「が……⁉」と体の空気が口から漏れ出てしまう。

「初めての体験でしょ。その身でゆっくり味わってみなよ」

「あぁ……」

したり顔で微笑むフェイの顔を目の前にしつつも、僕の両膝からがくりと崩れ落ちるようにうつ伏せで倒れ込んだ。

「リッド様⁉」

「フェイ、貴様⁉」

ファラの悲鳴が空気を裂き、アスナの怒号が雷鳴の如く轟いた。